《 そのときになってこの生徒も、つばめにはつばめの道があり、がまにはがまの道があることを知りました。そこには目に見えない大きな力があって、空を飛ぶつばめをも、地をはうがまをも、同じように導いているのであろうということを思いました。
書 籍
名もない草が道ばたの石のわきに咲いていました。そこへ学校生徒が通りかかりました。
「生徒さん、こんにちは。おまえさんは何をそんなに急いでいるのですか。」
と、その草が声をかけました。
「私ですか。私は貧しいものですから、読みたい本も思うようには手に入りません。でも私はすきですから、いろいろな本を読んで、お友だちにおくれたくないと思うのです。私はあっちの人の生涯にも、こっちの人の生涯にも、心の旅をしてみたいと思うのです。私は小さな旅人です。それでこうして急いでいるのです。」
と、生徒が答えました。
「まあ、この石の上に腰をかけてみてください。読もうとさえ思えば、本はこの石の上にもありますよ。私も、名もない草ですが、おまえさんのような人に読んでもらいたいと思って、こうして小さな本をひろげていますよ。」
と、その草は言いました。 》
42-43頁 「おさなものがたり」抄