(つづき)たぶん父は、私に、無益でいずれにせよ時期尚早の悲しい思いをさせることを、恐れたのでしょう。父は或る時期、人道主義的な大きな夢を構想していたのですが、その望みが失望となったのだと、私は理解しているつもりです… とにかく父は、私をアリアーヌと呼ぶことを押し通しました。でも私の母は、私をいつも別の名で呼びました。セシル、と。まったき安らぎの名、私の祖母の名です。

 

(ヴィオレット) あなたは、少なくとも、代わりの名を持っていらっしゃった。わたしのほうが恵まれていません。ヴィオレットという名は、わたしをあまりにいらいらさせます。ちょっと滑稽にも、この名が選ばれたことの理由を、わたしは知りません。

 

(アリアーヌ) あなたがその理由を知っていらっしゃったら、そのお名前は、きっと、あなたに滑稽なものとは思われないでしょうね。そこに、あなたには解らなくとも、純真で胸をえぐるような何かの隠れ話への暗示がないかどうか、誰が知っているでしょう?

 

(ヴィオレット) そういう隠れ話のことを思うと、すこし胸が痛みますわ。わたしが生まれる以前から、わたしの両親は仲がわるかったのです。両親の間には、ある絶対に共存し得ないものがあって、とても早い頃から、わたしはそのために苦しみました。

 

(アリアーヌ) おかわいそうに!

 

(ヴィオレット)(つづく)