(ヴィオレット) あなたが彼女と一緒にロニーに滞在することを妨げるものは何も無かったわ。
(ジェローム) ぼくが嫌悪し、ぼくを窒息させる、あの山地に… それに、それだけじゃない。アリアーヌ自身が、あそこに絶望していたのじゃないかな。二年前、ぼくがあそこの気候、あの領域、あの病人たちの世界に、慣れようと試みていたとき、ぼくがあそこを発つことに固執していたのは、彼女なんだ。日に日にね。彼女のやり方で、休み無くだ。彼女はほんとうに強情だ! 何か考えが頭に浮かぶと、彼女にそれを変えさせる見込みは無い。あんなに頭の良い女にしては、とても奇妙なことだよ。まるで名誉がかかっているみたいだ。それでも、今回、彼女は正しかったんだ。あそこでの生活は、ぼくを破壊しただろう。あの高地でのほうが、気持ちが軽く、自由になって、考えかたも改善する、と主張する人々がいる。ぼくは逆なんだ。病気になっていただろう。『魔の山』のハンス・カストルプみたいに。そして回復しなかったろうと確信する。
(ヴィオレット) それについては、わたしたちには何も分からないわ。どうして演劇みたいに考えるの? いずれにしても、あなたは奥さんのことを、あなたの普通の生活に戻るようあなたを強いたことで、咎めることはできないわ。
(ジェローム) ぼくが彼女を咎めるのは、そのことについてじゃない… (つづく)