(ジェローム) どう言ったらいいんだろう? まるで冒瀆だ。

 

(ヴィオレット、快活に。) あなたがフェルナンドにそんなに敬意をもっていたなんて知らなかったわ。

 

(ジェローム) ぼくはじぶんがこんなに心底誰かを嫌ったことがあるとは思わない。 

 

(ヴィオレット) それはまちがいよ。フェルナンドは意地悪じゃないわ。ただ… 

 

(ジェローム) え? 

 

(ヴィオレット) いいえ、わたし、ひどいことを言おうとしたの。

 

(ジェローム) 言ってよ、その、ひどいことというのを。

 

(ヴィオレット) けっして回復してはいけなかったひと、と言おうとしたの。

 

(ジェローム) なんてことを? 

 

(ヴィオレット) 生き残ったひとたちのことは、かわいそうだと思わなくては。

 

(ジェローム) 逆説的だなあ。

 

(ヴィオレット) ほぼ確信しているのだけれど、サナトリウムの同僚たちで回復しなかった人々のことを羨ましがったことが、時々彼女にはあったと思うの。ただ、そのことを彼女はもう憶えていないのよ。かわいそうなフェルナンド!