ぼくは、日本での学生時代、大家の隣のアパートに下宿していて、ある日、大家の宅からロックの音楽がステレオで聞こえてきたので、真剣この上なく哲学を勉強いていたところだったぼくは、こんなことに譲歩するのに耐えられず、うるさい! と窓から怒鳴ってやった。こういう言動は社会では理解されないだろうが、それでもぼくは、精神的に正しかったと、いま、過去のじぶんを肯定できたので、ここに記すのである。これがぼくなのだ。 

 

 

 

この一事に、ぼくの本質が現われたとも言えるだろう。あの時ぼくがじぶんのうちで明瞭に意識し意志したのは、精神に対立するこの世とたたかってやる、ということだった。ぼくの密かな、しかしあからさまな誕生であったとも言える。