遺伝子作用薬を国民の十代の七割が打ったのは、そういうものだろうな、と、ある意味で有意義な確認になった。いつも、賢明な者というのは、少数なのだ。昔からであるが、そんなに賢明な者が多ければ、日常において、こんなに不快な経験をぼくがしてきたはずがない。大多数の者たちは、じぶんが当然の常識をもっているつもりでいて、じつは愚昧もいいところなのだ。こういう日常経験から得るぼくの思いを、今度の世間実状は裏書きしてくれたにすぎない。これをぼくは淡々と受けとめようと思う。ああ、やっぱりそういうものなのだな、と。

 

 

そういう、大多数の浅はかな人間が、いかにも世間で通用しそうな臆見を道徳法則のように権威的に振り回して、少数のもっとよく反省している者たちの慎重で広い思いを、裁断する物言いで酷く扱う、これが世のなかだということを、人間意識のエリートは、覚悟して生きなければならない。

 

ぼくがこれまで生きてきて得心していることは、ほとんどこういうことだけだ。哲学なんかやっていても何にもなっていない者が殆どだ。