ぼくが冷静でいるとおもって、みんな、ぼくを甘くみていた。ところが、ぼくの内面は表からはまったくうかがい知れない。それに気づいた者は辻邦生ぐらいだろう。彼の本をあらためて読んでみようと思っている。あとは皆騙された。ぼくが騙したのではない。勝手に思い込んでいた。深慮がたらなかったこと甚だしい。浅薄で高慢だったのだ。 ただひとり、ぼくの実母は、いちどもぼくをみくびらなかった。ほんとうの愛情というものは、たいしたものだ。