美術考察だけでは欝になってしまう。彼は政治活動で人間としてのバランスをとっていたのだろう。(彼において美術考察と政治活動はもともと人間的に自然に発動している。彼はそういう人間だったことを勿論了解した上で言っている。)

 

 

世界文明に共通しているものは超越者への志向であり、その志向には様々な様態がある。諸文明が必然的に生み出す芸術(美術)はその証言である。それがマルローの根本見識である(だから、芸術と思想は本来一つなのである)。

 

 

彼の芸術への洞察が、彼自身の生死を懸けた行動(戦闘)経験――これが彼の政治活動の基盤である――によって、根源的な深さと鋭さを得ているものであることを、この節の最初に書いたことは、ゆめゆめ思っていないのではない。