『 なにも知らない、フランス語もろくにしゃべれない私が、パリに着くと即座に優れた知性階級の中に導き入れられたことは、たしかに私の幸運であったが、同時に重い精神的負担となった。そうして自分が日本にいる時感じていたフランスは、その全量のごくわずかな一部分で、それはたしかに若い時の理想主義に燃えた熱情への照応ではあったが、この昂奮の奥にたいへんな集積があることに気づいた。私はめざめたように、フランスの過去をみつめようとした。そうしてその重みが三十年のあいだ幾度も幾度も私を絶望に結んだ。感謝と感動が美しく私を蒸発させてくれぬ。』 

 

(「高田博厚著作集 I 」”友人と自分”より) 

 

高田博厚作品集 福井市美術館 59頁 

 

 

 

こういう文章が書ける人間はいまいない。 ゆえにここに記した。

 

ぼくはこういう存在とともにあるとき、世間がまったく脱落する。