この世での人間関係は、たとえ親子・兄弟・夫婦でも、偽物のもののように思えて仕方がない。そう思うのがほんとうであって、多くは仮の関係ですらなく、最も疎遠な種類の人間が宛がわれている〔宛がう:「先方の希望によらず、こちらから適当に割り当てて与える」(国語辞典)〕。まさに辞典にある意味の如くだ。それなのに、まるで神聖なもののごとくに人工的な感情観念を教育と世間で強圧的に植え込まれて、おとなしい羊のようにそれに従い、時に、他に先生のような知り顔をしてみせる、こういう世のなかすべてがほんとうに いやになる。この世は、ぼくがはじめから感じていたとおりのものでしかない。このような確かめ書きをするのも、うかうかすると、ぼくのような賢者でも、世に騙されたふりをしている間に、そのふりに熱がはいり、ほんとうに騙されないともかぎらないからである。真実はいつも、世とは無縁なところに棲み分けられている。