初再呈示   欲でなく、愛(自己愛で充分)の動機が勝つ。訓とすべき。 


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まぁ どうしたの? きょうはまたずいぶん深刻そうねぇ ……

 

うん、きみの演奏しているね、「もう少し あと少し…」、銀河の星の世界に持ち上げて行ってくれる、最大の難曲と思われる曲〔モーツァルトの「レクイエム」やフランクの交響曲と同じニ短調〕をね、楽譜をみながら鍵盤に指当てだけしたんだけど、それはできても、かえってそれだけ、きみの演奏との間に、ほんとうに銀河のような距離を感じてね、絶望してしまった。それだけに、きみに狂おしいほどの憧れと愛着を感じているんだよ、いま…… 

 

まぁ、そういうときはね、あまり強いて言葉を紡ごうとしないで、放念してらしたほうがいいわ… わたしはそれだけあなたの側に近いとお思いになってちょうだい… 不安に思わないで… 

 

ありがとう… でもこの曲はほんとうに神秘だね… 

 

 

そしてやはり思う、人間は修練するとしないのとでは、これだけ、銀河の差が出るんだね。そういう修練と創造のいとなみが、沈黙のうちに、知識の世界の隣でずっとなされていることを、実感として知らなかったのは、迂闊だったよ。棲み分けられた世界があったんだね。この「距離」にくらべれば、観念や言葉をいくつ識っているかなんて、問題にならないよ 

 

わたしたちの世界へようこそ…  でもあなた、愛からの、欲でない思いは、実現するものよ。あなたがフランスへ転向なさったようにね。あのとき、ご自分への純粋な愛が、勝ったのよ   

 

あのとき、ぼくの周囲も不思議にぼくの転向を受け入れたのも、だからだったんだね