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- ロマン・ロラン「ジャン・クリストフ」
「 「だから、ぼくは君を知ってたんだなあ。最初に会ったときから、わかったんだ」
(そこにいる友のことを話すのか、もういない彼女のことを話すのか、わからなかった。)
「だけど、君は……」 しばらくして続けた。 「知っていて、なぜそれをぼくに言わなかったんだ?」
オリヴィエの目の中で、アントワネットが答えた。
「わたくしからは言えませんでした。あなたが察してくださるのです」
・・・
それ以来、アントワネットの魂が二人を包んだ。彼らがいっしょにいるときには、彼女も共にいた。彼らは彼女のことを考える必要がなかった。二人が共に考えることはみな、彼女の中にあって考えていたのであった。彼女の愛が、二人の心が一つになる結びであった。」
「 二人は互いにずいぶん異なっていたが、いずれも純粋な地金でできており、そしてそこでは互いに同じでありながら、大いに異なっていたから、なお愛し合っていた。」
『ジャン・クリストフ』第七巻 高田博厚訳