一か月前 

 

高田博厚の思想と業績を研究する上で、忘れてはならない一文だ。

 

訳題はぼくの記憶のとおりでよいが、原題は、Les Hommes contre l'humain (1951), であり、「人間」が複数表記になっていた。



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記憶のままに書くが、ガブリエル・マルセルの著作に、「人間、それ自らに背くもの」と訳された著作がある。原題は、≪L'Homme contre l'humain≫であり、「人間的なものに反する人間」という意味である。「人間的なもの」とは、ここでは、人間の本質、人間をして本来の人間たらしめるもの、であることは、注意すれば解る。人間は、本来の人間の本質に反したあり方をして、この世にある。もっともらしい偽善的なあり方をして在るということと解すれば、ほとんどの人間がそうである。自分で自分を人間的だとさえ思いつつ、じつは人間を演じているだけである。これは恐ろしいことであるとぼくは思う。なぜそういう偽善、むしろ擬態があるのか。自分の歴史のなかで「人間」を、つまり「自己」を培う内省の努力を怠ってきたからである。ほとんどの人間は、この世に合わせているだけである。そこに矛盾すら感じない。人間が人間の擬態を演じている、このことの恐ろしさの感得が、ぼくにこの覚書を書かせた。「人間、それ自らに背くもの」という言葉の想起とともに。

 高田博厚の芸術の巡礼の路は、マルセルの哲学思索と同じ「ひとつの路」の上にある。