一個の人間は一概念では測れない。概念の組み合わせによっても無論測れない。基本的に、善か悪か、そういう規定はナンセンスである。そういう概念そのものが人為の空想の産物だろう。現実の人間は人間の空想をいつも超えている。それを理解しているつもりで思惟しながら、空想に囚われているのが凡庸な人間である。寛容にしゃべらせているほど、いい気になって、この世の明察者のつもりで のぼせて とどまるところを知らない。 

 

ともあれ、概念規定では だめなのである。それよりも、その都度直接にいだく感情や意識こそ、まだ現実に近い。 人間の真実が現われているのは、そこである。 その直接な感情や意識をふたたび概念で分類してはならない。 矛盾は、人間が概念の網の目に引っ掛ることで現われる。現実そのものに矛盾はないのだ。ほんとうに矛盾があったら現実は成立していない。