高田博厚の重要な言葉を紹介しておこう:

 

《芸術の「存在」「創作」自体はいかなる時代にも、理想主義(イデアリスム)の要素を含んでいる。むしろ人間のイデアあるいは、イデアリスムが芸術を生ませるのである。しかし芸術は感覚を通しての表現だから、必然的に「形(フォルム)」を生む。内部のイデアが外界に表示されることそのものが「抽象」であり、「形」なのである》。(「芸術の根底に詩の存在」-著作集III、381頁-)

 

文意は瞭然としている。彼の、芸術には思想がなくてはならない、という持論の意味はここに呈示されている。芸術は何かという問いへの、最も基本的で根本的な解答の表明が、上の言葉である。この言葉をぼくがここに掲げた動機は、「芸術とは何か」という定義を確認しようという思いと、同時に、現代の、特に日本での、芸術を〈アート〉と呼びつつ横行している、芸術を〈遊び〉と解して恥じない態度の本質をはっきりさせようという思いなのである。すなわち、芸術の創造に根本的に不可欠な「イデア(理想)」が、創作者の内部に生きていないこと、このことが、現代日本の、もはや芸術ではなく〈アート〉と称されて為されている、〈形の遊び〉の本質なのである。造形家にももはや「魂」が、すなわち「人間」が、消失していることが、現代に普遍的な、精神の疾病なのである。高田博厚が、第二次世界大戦中に既に予想していた、戦争による物的破壊よりも恐ろしい、大戦後における「人間」の消失である。