「その見知らぬ魅力と、無言の恍惚が、クリストフの目と心を惹きつける。その面影に気を配り、そちらに耳を澄ます。そしてついに体も魂もそれに同化してしまう。面影の一つがそれに気づいて、演奏の間じゅう、二つの間にひそやかな共感が結ばれ、存在の最奥まで沁みて行く。・・・ 音楽を愛する者、ことに若くて、最も自分を投げ出せる者は、この状態をよく知っているであろう。音楽の本質はまことに愛である。誰か他の一人の中に味わって、はじめて完全に味わい得る愛である。」   第五巻     

 

 

 

 

 

 

貴族 

 

「貴族とは、他よりも純粋な本能を、おそらく血を持っており、それをみずから知り、自分がなんであるかを意識し、頽廃しない矜持を持っている存在のことである。それは少数者である。しかし彼らが孤立していても、彼らが第一人者であることを、人は知っているのだ。そして彼らが現前しているだけで、他の者どもを抑制し、彼らのように自分を訂正させるか、そう装わせるのだ。・・・ 現在の、多数者の無秩序な氾濫も、沈黙せる少数者に内在するこの権威をなんら変えないであろう。」 同