第35場 2015年1月16日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)9時 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局局長室
着々と準備は進んでいる。但しいつ決行するかは秘密にしておく必要がある。失敗は許されないし、変な横槍を入れられたくもない。まずははやる気持ちを抑えて各時代に派遣している局員の動向を再チェックしておくことにした。
L1、マライヤ 1996年のニューヨークに派遣したがその後も相変わらず派手な活躍をしていたようでファッション雑誌の切り抜きの趣味でも持っていたらマライヤのグラビア写真で自室が埋まるところだ。世の中には本当に大好きな人間や動物などの写真をベタベタ貼り付けてひとり悦に入っている人種がいるようだがわたしは自分の頭の中にファイルがあって実質同じようなものになっている。
アーノルド・ロッドマン氏との接触はいろいろその後あったようだが、結局ロッドマン氏の三度目の妻の座を射止めていたのには驚いた。そんな具体的な指示は出していない。ロッドマン氏の度重なる情熱的な誘いはしばしば断っていたようだが、彼女なりの思惑があったのだろう。しかしそれはそれでこちらとしては好都合なのでありがたく利用させていただくつもりだ。その後男の子を出産したがそれでもモデル活動もしている。美しいということはそれだけですばらしいことなのだ。
秘密時空保安局局員やロッキー山脈地下基地で働いている人のほとんどは何かしらの意味で世間からはみ出してしまった一種独特なアウトロー集団で、家族の温もりを得ることチャンスがあればその話に飛び付くというのはけしておかしいことではない。マライヤの定時報告はすべて目を通したが、ロッドマン氏の性格がよくわかるリポートだった。繊細な心配りができるジェントルマンかと思いきや、ただの女ったらしのようでもあり、人種差別的なことを口走ってしまったりとある意味普通レベルのそんじょそこらにいる下半身のベルトと頭のネジが少しゆるい人間味のあるただのおじさんだった。
一般人という人種のそのまた限られた男族の一員であればその低レベルの障害を持っているものはざらにいる。しかし、著名人ともなればひとつの発言が誤解やその他さまざまな問題を引き起こす。特に政治家ともなれば女性蔑視や人種差別などの物議を醸す発言を繰り返していては支持者から見放されていくだけだ。
L2、マリー 今回の作戦で一番古い年代である1964年のニューヨークに派遣したが、青年期のロッドマン氏とのやりとりの続報が大いに気になるところ。仕事として総務部の事務員として地道に働いていたが、時折意気軒昂な青年ロッドマン氏の誘いを断ったり、別な女性職員と共にならとグループで食事をしたりと健全な?関係を保っていたはずだが、結局は1977年に押し切られる形で年上の妻の座を射止めていた。強気の8歳も年上の女性を娶ったロッドマン氏のその後は・・・とさらに定時報告を読み進めていくと父親の会社の重役として実業家としての道を歩みはじめ、それをわたしがけなげに支えていますと書かれていたが、「何がけなげだ。強い口調で操り人形師として楽しんでいるのだろう。」と思わず口走ってしまった。マリーが単に従順におとなしくしているはずがない。おとなしいと見せかけて自分で書いた小説の筋書き通りの主人公として引き立てているというのが実情だろう。なんだかんだで三人の子に恵まれ、事業の方も順調に推移していたが、やはり途中で大きな障壁があった。どうも生まれつきの?女癖は治らないようでロッドマン氏の浮気が発覚してさすがのマリーも1992年に離婚している。そのときの報告には迫力があった。八つ裂きにしてハドソン川に流してやろうと思いましたが、再び蘇って「ハドソン川の奇跡」とでも呼ばれたら嫌なので殺すのは思いとどまりました、とあった。普通は子どものことを考えて踏みとどまるところだが、そうでないのが彼女らしい。再び蘇るのを恐れて・・・というのは浮気発覚の一年前にロッドマン氏は経営上は確かに一度死んでいた。L3、マリアンの陰での働きでゴールドマン・サックスが下支えをしてロッドマン氏の会社群は蘇った。そこは今回の作戦としては最大の分岐点ですべての金融機関に見放されてそのまま沈んでいただくのがある意味で最善なのでは?と考えたがその選択枝は捨てた。
この時点でマリーの子どもたちもいっしょにどん底に落としてはいけない。ロッドマン氏には慰謝料を払い続けられるだけのレベルに最低限留まっていてほしいのだ。マリーは金銭的に搾り取れるだけ搾ればいいし、最終的には首を絞めればいいだけだ。どうせロッドマン氏の女癖は死ぬまで治らないのだから。
L3、マリアンは1990年以降、ニューヨークでゴールドマン・サックスの融資部門で地道に仕事に励み、短期間で確実に信頼度を増していた。定時報告は最新の景気動向やら原油や金の先物取引の情報、株式相場の見通しなど真っ当な投資家向けの硬いものばかりで浮ついた話はひとつもなかった。アーノルド・ロッドマン氏との直接的な接点はまったくなかったようだ。もし、ビジネスの場でマリアンと遭遇したら例の悪い癖は出ていただろうかなどと馬鹿なことを考えたが、何人もの妻や元妻が殺意を抱いて本当に実行してしまったら、それこそ大変なになる。わたし自身がその直前の時間に飛んでいってそれ相応の処置をしなければならない。どうせ八つ裂きにするのなら゛とき゛というものがある。
マリアンはわたしが以前に指示していたことを忠実に実行してくれていた。1991年、事業を手広く展開していたロッドマン氏は金銭的に行き詰まっていた。メインバンクから見放され、一部の事業を切り売りしたり、短期で高利での借入をしてしのいでいたが不安定な状況で自己破産への道しか残されていないと誰しもが思っていた。そんな中でゴールドマン・サックスが゛ロッドマンタワーがゴールドマン・サックスタワーに、ロッドマンロイヤルゴルフクラブがゴールドマン・サックスロイヤルゴルフクラブに変わります。時代も変わります。ゴールドマン・サックスは躍進します。゛と変なメッセージを前面に打ち出し、あたかもロッドマン氏の事業をうまく乗っ取るような素振りを見せて世間の注目度を高めた。単にロッドマン氏の事業の支援をする意向を単に示すより効果的だった。
この時点では1ドル足りとも融資をしていない。ゴールドマン・サックスという金看板がロッドマン氏の事業の今後の成長性を吹聴し、支える姿勢を見せることによって立ち直るきっかけを与えただけだったが、効果は抜群で本格的に融資を開始すると一度手放した物件も取り戻し、ホテルやらゴルフ場などはやたらとロッドマンだらけになりニューだとかゴールドだとかサテライトだとかそんな名前のものが増えてニューヨークのイエローキャブのドライバー達は場所をそれぞれ覚えるのに苦労していた。
マリアンはゴールドマン・サックス内で特に派手な工作をしたわけではない。融資部門の一員としてアーノルド・ロッドマン氏の会社群の財務状況を丁寧に分析して上司に報告書を提出していただけだ。ただ、彼女自身による未来予想、ロッドマン氏が所有する会社のひとつひとつのしっかりとした将来展望、ロッドマン氏のさらなる野心・・・政界進出にまで言及した出色のレポートの存在はゴールドマン・サックス内で議論の渦を巻き起こした。
「ここでロッドマン氏を死なせてはいけない。なぜならば・・・。」
マリアンは熱弁をふるい、融資を行う方向へ舵を切らせた。
゛ロッドマンタワーがゴールドマン・サックスタワーに、ロッドマンロイヤルゴルフクラブがゴールドマン・サックスロイヤルゴルフクラブに変わります。時代も変わります。ゴールドマン・サックスは躍進します。゛
このへんてこりんな応援メッセージだか乗っ取り宣言だかわからない宣伝文句もマリアンが考えた戦略的なもので、今後巨大なコンツェルンに成長するはずのロッドマン・グループで今後大きな影響力を持ち続けるために必要不可欠なものだと力説して実現したものだった。
M2、ジェフは1981年にニューヨークでアーノルド・ロッドマン氏の所有するビルの管理会社に入社して以降、ひたすら地味に働き続けて一番重要なビルであるロッドマンタワーの管理人となっていた。60階建ての高層ビルで高級ブランドが数多くテナントとして入っているマンハッタンのミッドタウン5番街にある。著名人も多く住んでいたセキュリティの面ではホワイトハウスより厳しいとも言われている。
そう、ジェフにはよっぽどあのときにロッドマン氏を放置して、手遅れの状態に自然に持っていく作戦を・・・と思ったが。1981年3月11日、ロッドマン氏がビルの階段で不注意で滑って頭部を打撲したあのときだ。少し時間を巻き戻してジェフが気付かず、他の人間もわからないように事前工作しておいてもらって事故死、もしくは半身不随になっていただくという選択枝は有力だった。
ロッドマンタワーには当然ながらロッドマン氏の家族が居住するスペースもあり、管理人であるジェフも常駐なので一室を与えられている。ロッドマン氏が仕事上このビルの専用応接スペースで人と会う機会も多く、他にもっと高い多くの高層ビルがあるにもかかわらず有名ビルのひとつとしてニューヨークの観光名所となっている。
M1、ジャレッドは1971年からアーノルド・ロッドマン氏が経営するゴルフ場で働いてもらっている。今ではロッドマン氏が経営する三か所のゴルフ場を束ねる総支配人というポジションに就いているが日々の草取りやモグラ対策など自ら率先して行っている真面目人間だ。真っ黒に日焼けした顔は彼の誠実さそのものを物語っている。
先般は急遽派遣した例のお調子者の(M4、マイルス)ヘンリー・アンダーソン中佐の様子を詳細に報告してくれたが、わたしはマイルスの派遣期間はそれほど長くはないので我慢してほしいとジャレッドにお願いをした。ちょいと裏側から労働省雇用基準局に手を回して年配者の雇用促進名目でゴルフ場の下働きとしてマイルスを働かせてもらうようにしてもらったのだが、口から先に生まれてきてしまった者の宿命で手を動かすより先に口だけがなめらかに言葉が長い滑り台をゆっくりゆっくりと下っていく。主にゴルフコースの整備を任せているということだが、グリーン上のボールの転がり具合の点検とかの実戦的なものに関してはプロ顔負けでキャディーとしてお客様に付いて回っても各コースについての攻め方のアドバイスやピンまでの残りの距離の見積もりなど的確で評判はいい。英語圏以外のお客様が来たときの対応も臨機応変で身振り手振りを交えてカタコトで複数の言語を操り、決め手は人なつっこい笑顔と厚かましさ。当然の大問題点は話し好きなところだが、独特な笑い声がすべてをオブラートに包み込んでしまう。オーナーのロッドマン氏でさえ早くも一目を置く存在となり、自身がプレイする際にキャディーに起用することも多く、また大切な客人とプレーをするときに対等な立場としてプレイヤーの一員に加えてスクラッチプレーをして楽しむ仲となっていた。
沈着冷静なジャレッドから実は、いつわたしが(ジャレッドとマイルスがいるゴルフ場に)姿を現すのかという鋭い質問がきている。言葉上は穏やかだが質問より詰問に近い。ジャレッドの読みは正しい。同じ現場に二人目を派遣するということはより重要な拠点になっているということ。ジャレッドにはとにかくマイルスが調子に乗って暴走しないように温かく見守っていてほしいとだけ返信した。頭の回転がいいジャレッドは現在の状況やわたしの性格を読んでそれなりに対処するだろう。わたしがスカウトした人物の中でも際立って優秀で人格者でもある。そんな彼がなぜスラム街でくすぶっていたのか? ここからまたひとつの小説が書ける。
「暗闇の中でも才能が放つ光はまぶしい。」
今はまだ いつか ということは誰にも言えない。ただひとつ言えるのは舞踏会とかただ顔出すだけのつまらない会議の予定が入る前に決着させたい。局長の椅子に長く座っているつもりはない。