第36場 1970年8月3日 アメリカ東部時間(EST Eastern Standad Time GMT-5)14時05分 ニューヨーク市 ニュー・デイリープレス社

 

大事の前の小事、ふと思い立って懐かしの1970年代のニューヨークに飛んでみた。お目当ての出版社がなかなか見つからない。名前からして大きなビルの中にあると勝手に思い込んで該当する住所を探し回った。大通り側ではなく裏の細い道に面した薄汚いボロいビルの壁面にやっと゛便利速記屋゛の文字を見つけそのビルの二階に上がっていった。細い廊下の奥のわずかなスペースにその便利速記屋はあった。

 

「五歳になる初孫の誕生日のお祝いにメッセージを送りたいのだが、恥ずかしながらタイプライターなど打てないし、文字も書けない。お願いだから代わりに次のような文面をタイプライターで打ってくれないか?

 

親愛なるジョン君 五歳の誕生日おめでとう おじいちゃんより 」

 

「それだけでいいのですか、もっと何かしゃれた文章を付け足しましょうか?
お安くしておきますので。」とこどもっぽい顔付きをしている青年に言われたが
「いや、短くていいんだ、早く打ってくれないか!」
そう言って代金を支払ってからすぐに打たれたタイプライター用紙を畳んで胸ポケットにねじ込んでわたしはその場を離れた。

 

そう、これでいいんだ。