第9場 1993年1月20日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)8時00分 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局職員居住区

いろいな夢を見た。夢だったのか、現実だったのか、自分勝手な創造物だったのか。時代もバラバラ、登場人物も多彩で何だかよくわからない極彩色のつくりものが人間のように笑いを振りまいていた。ほとんどがマイヒストリーの繰り返しであの調子のいい1985年代で遭遇した軍曹が時代を飛び越えてどの年代でも話しかけてくるのにはほとほと参った。
ひどい頭痛というほどではないが少しボーッとしているのはいつもどおり。時空を飛び回ってからの寝貯めの後は本当はスッキリしたいのだが頭の中身は動きを止めてはいないようだ。
起きてまず最初にするべきこと、それはベッドのすぐ横の小さいテーブルに置いてあるあのSEIKO製の腕時計で今自分が居る年代、時刻を正確に認識すること、これは秘密時空保安局の訓練所で教官から口が酸っぱくなるほど何度も言われたことで忘れることはない。
1993年1月20日の朝だった。腹ぺこなので冷蔵庫なるものの中身を探る。この時代には食料を備蓄できる機械があるから便利だ。いつ帰還するかわからない人間にとってこの冷蔵庫とか中に入れておいて食べる冷凍食品というもの、そしてそれを解凍しておいしく食べられるようにしてくれる電子レンジという名の優れものは家族のような存在だ。さあ、何を食べようか? いやっ、年代時刻確認の次にやることがあった。ここではその次にはエアーシューターで何か文書が届いているかどうかの確認が重要だということを忘れていた。
五通の文書が届いていた。そのうち四通は事務方からのもので給与明細とか福利厚生面での連絡事項だったので後で目を通せばいい。ベッド脇の小テーブルの上へ置いて残りの一通(秘密時空保安局局長からのもの)をお気に入りのリクライニングチェアに深く腰掛けて読みはじめた。内容は今までのわたしの仕事に対してのねぎらいの言葉からはじまってはいたものの相変わらず文章から滲み出てくる温度は低い。しかし、新人のスカウト業務から退いてもう一度前線での勤務を要望していたその件については認めると書いてあるので急いで読み進めてはみたものの内容はある年代の深刻な世界情勢が書かれていて手放しで前線復帰が認められたことを喜べなかった。
それはまた一段とむずかしい業務指令だったからだ。1946年から2017年、この70年間に最も信頼できる秘密時空保安局員五人を選んである人物の行動を詳細に調査して最適な分岐点を見つけて自然な流れで別な進路を取らせるようにとの指令だ。ざっと全文に目を通してからコーヒ一杯だけ飲んで秘密時空保安局局長が執務する1992年に飛んで直に真意を問うことにした。そこで朝ご飯をごちそうになろうという算段だ。冷凍食品を一人寂しく食べるより、たとえ見たくもない顔でもいっしょに食べるほうがいい。それに今回は状況はこちらに有利だ、局長に断られるはずがない。こちらはむずかしすぎる指令を引き受けなければいいのだ。引退してもいいし、左遷されたどこかの軍曹みたいにお気楽な業務に移ってもいいと思っている。さぁ、そうと決めたら使い慣れたこの地下基地司令部支所のジャンプ室へ急ぐことにしよう。