第22場 1980年3月21日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)10時15分 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局局長室

 

「時間の都合で今日は一方的にわたしが話すので質問は一切受け付けない。昨日は大佐の余計な質問で脱戦して無駄に時間を消費してしまい、後の時間に約束しておいた客人を待たせてしまった。どうせわたしの浮気相手とかさまざきな妄想を抱いてまたわたしを尋問でもしようと悪巧みを考えていたのだろうが、それは許さない。名バーテンダーさんだから一目で顔は覚えたことだろう。カイトリオーナはこの10年、晩餐会や舞踏会など夫婦同伴のイベントでわたしの偽夫人役を務めてくれたそのお礼に昨日呼び寄せていたのだ。おいしい昼食を久々にいただいたよ。ジョン・スコット新局長のためにカイトリオーナに負けず劣らずの偽夫人役は用意してある。これからはこの陰気な地下基地を離れて会合やゴルフなどに出かけることも多くなる。移動にジャンプ室や例の航時空軸飛翔推進変容機を使う必要はない。基地間は空軍のジェット機やヘリコプターで移動となるし、時には民間の飛行場やヘリポートであれば緊急用のものも利用できる。後は専用のハイヤーで会場まで送ってくれるシステムが整っている。ただ、めったにあることではないが非常事態が起きた場合のために航時空軸飛翔推進変容機の小型簡易版を持っての移動となる。この航時空軸飛翔推進変容機の小型簡易版はテレビのリモートコントローラー並みの大きさで操作ボタンも少ない。飛んでいける場所がこの地下基地に限られているが日時は正確に設定できる。会う人会う人が初対面で最初は大変だが名札の肩書き「特別業務監査局局長」が物を言うから泰然とした態度をとっていればいい。ほとんどの会合、会議では発言を求められる立場ではないので指定された席についてただ座っているだけでいい。世間体、表向きは軍関係の幅広い範囲の業務監査が仕事ということになっているので本当の業務を知らない者からは一目置かれ孤立した感じになるがそれはそれでいい、居眠りだけは駄目だぞ。晩餐会や舞踏会などはパートナーの偽夫人がリードしてくれるから心配するな。発言が求められるような場合はちゃんと随行している事務官がフォローしてくれるからそれに従うように。ただ、注意すべきことは時折思わぬ場面で不意に意外な人物から上層部の意向や指令が伝えられることがある。慣れない社交ダンスでパートナーチェンジした際、ウィンクをされた後そっと指令書を渡されたことがある。こういう指令書などはたとえ随行している事務官や他の人間に絶対に見せてはいけない。ただ偽指令かもしれないので慣れるまでは文面を伏せて署名部分のみをベテランの事務職員に見せて本物かどうか確認するといいだろう。国家レベルの機密の場合もあるのでこの類の文書の保管は局長室の専用金庫に保管すること。3月31日の業務引き継ぎの際、その金庫の鍵と開けるための呪文を教えるから国家機密レベルのものを厳重にそこで保管するように。一般の数々の職員を経由してくる書類などはそれぞれ保管する場所があるのでそれらは事務担当職員に聞けばいい。表向きの仕事、特別業務監査局のとしての書類も回ってくるがそれらは事務方のトップが判断を下して彼らのサインがされた後形式的に回ってくるものなのでただひたすらサインをすればいい。秘密時空保安局の書類は落ち着いてよく読んで完全に理解してからサインすること。わからないことがあれば些細なことでも事務担当職員に聞いて学ぶこと。その他大事な作戦の指示はすべて局長の判断がなければ実行されないので日々適切な指令を発していかなければならない。重要性の低い日常的な業務は局長の指示がなくても日々淡々とこなされていくのでそれらはベテラン職員に任せておけばいい。難しい事態が発生したときのみ局長の判断を仰ぐことになっているからそこで慎重に考えて断を下せばいい。新局長としてこの局長室の執務机に座っていろいろある機器を操作して仕事をすることになるが細かいことは事務職員に聞けば丁寧に教えてくれるから早く覚えるように。現在各世代に派遣している局員の行動がすべて把握できるようになっている。それらの局員への指示、指令もここから発することになっている。それぞれの局員たちは優秀な者ばかりなので一日中これらの機械の前に張り付いて監視している必要はない。各派遣局員からの定時報告や緊急性のない当日のニュースなどは事務職員がうまくまとめて保存してくれるので時間に余裕があるときに目を通せばいい。緊急報告が飛び込めば緊急度合いによっては就寝中であっても叩き起こされる場合もあるし、翌朝一番に報告を受けることもある。外出先にもいろいろな手段を駆使して連絡してくるから対応する必要がある。ある一定レベル以下のものは判断に迷えばベテランの事務職員に相談して決めればいいが、誰にも相談せずに己ひとりで決断しなければならないことも多数あるからそういう事例の境界線は早急に覚えるように。パソコンの扱いにしても一般職員すべてが閲覧てきるものと局長だけがパスワード管理により閲覧、操作できるものの二種類あるのでその扱い方は先ほどの金庫の扱い方と共に31日に教える。局長しか見れない情報とはどういうものか? まぁ、いろいろな項目があるからクリックして徐々に学習していけばいい。ただ、その際他の者に絶対覗かれないようにすること、離席する場合はシャットダウンするなりロックするなりの処理をして機密を保つように。何が機密なのかはすぐにわかることだろう。一通り機能を学習した後は必要とされるとき以外はあまり機密事項に触れない方がいい。これはわたしの実体験からの忠告だが、未来を見過ぎないこと、この言葉は忘れないでほしい。過去についてはいくら見てもかまわない。我々の先祖が犯してきた愚かな罪を見て学ぶことは大切なことだ。書物を紐解く感覚で過去のときの流れを直に感じるのはいいことだ。秘密時空保安局の訓練所でしっかり身に付けた事柄だろうからあえていまさら事細かに言う必要はないだろうが、いかなる場面でも忘れてはいけないことなのでくどくなるがあの゛時空航行手引き細則゛の真意を理解して行動すること。

 

*明日するべきことは遡って昨日にしてはいけない。
*過去の成功例をいつまでも引きずるな、同じことは繰り返してはいけない。
*時の破れを繕うごく小さな試みは果てしなく大きな流れの節約となる。
*解決できない時空矛盾の問題も存在する。
*他人の考えに頼らず自ら頭を使い、常に行動に責任を持つこと。
*人類の祖先は神様ではなく我々と同じくただ一介のヒトである。
*忠節心を持ち続けることは大切だか、あのヨブにも誤りはあった。慣れ親しんだ簡単な手順であっても確認は怠らないこと。

 

要は゛とき゛を動かし過ぎてはいけないということ。本来は何もしないのが一番だということはわたしが言わなくてもわかっているはずだ。立場的に局長は服務違反に対してどういう処罰を下すのかというのも重要な仕事のひとつだからよく考えること。居室での使用が禁じられているローソクに火を灯す悪癖を持った局員に対して降格させて最悪の年代1974年に飛ばす処罰を下すべきかわたしはかなり迷った。局長の専決事項はとにかく迷うことばかりだ。

 

今日は一気に話し過ぎた。聞く方も疲れただろう、ご苦労さん。とにかく細かいことは事務職員が教えてくれるから聞きまくればいい。それから大事なことを話し忘れていたので最後に言っておくが、1980年4月1日から副局長としてダグラス・ホワイト大佐がここで一緒に仕事をすることとなるが、副局長が基本的には各種会合などに出席することはない。局長しか扱えないものを見せてはいけないし触れさせてもいけない。副局長という肩書きが付いていても事務職員のひとりに過ぎないと思っていればいい。ただ、次期局長であるということには間違いない。ふさわしい時期が到来したら今のわたしと同様に丁寧に引き継ぎをしてほしい、よろしく頼む。後はわたしの納めの日、1980年3月31日の16時にここに来るように。」