第21場 1980年3月20日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)10時15分 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局局長室
10時ジャストに時間を合わせてこの年代のジャンプ室に出現した。先に秘密時空保安局の事務室に顔を出してからきっかり10時15分に隣の局長室の扉をノックしてから室内に入った。局長はにこにこ顔で迎え入れてくれた。
「ジョン・スコット大佐、よく来てくれた。世間話もしたいところだが時間がない。率直に言うがわたしは1980年3月31日付けでこの地下基地を離れることになった。1970年4月1日に局長に就任して以来よく仕えてくれた。右も左もわからない若造をみんなで守り立ててくれてここまでやってこれた、ありがとう。これまでわたしは航時空軸飛翔推進変容機の改良を推し進めるために開発部隊がいる1992年で執務することが多かったが元々のわたしの年代は今、1980年だ。家族が住んでいる年代に戻ってきてほっとしているよ。1992年にいても時折戻ってはいたが、ジャンプせずに普通に移動して家へ帰れるのはうれしいよ。あっ、家族がいない大佐の前でこういう感傷的な話はまずかったかな?」
「局長、お構いなく、慣れっこですから。昇進おめでとうございます。」
「大佐、地下基地を離れることになったと言っただけで昇進するとは言っていないぞ。まあ、事実ではあるが。一応軍の機密事項でもあるのでどういう職務に就くのかは言えないが1980年4月1日付けで陸軍中将となる。もうジャンプすることもないだろう。さっそくだが今日大佐に来てもらったのは単に別れの挨拶をするためではない。わたしの後任として秘密時空保安局局長を是非大佐にやってもらいたいと思っているのだ。既に上層部への根回しは済んでいる。肩書きはアメリカ合衆国陸軍特別業務監査局局長(少将待遇)ということになるが昇格ということで喜ばせておいて落とすのは酷かもしれないがほんの少しの間の繋ぎの人事だと心得てほしい。
1980年4月1日付けでジョン・スコット秘密時空保安局局長と同時に新設ポストの秘密時空保安局副局長としてわたしの陸軍の後輩のダグラス・ホワイト大佐がこの地下基地に赴任してくるのでよろしく頼む。本来はダグラス・ホワイト大佐が少将に昇進して秘密時空保安局局長になる予定だったが、わたしが上層部にお願いしてこういう形にしてもらったのだ。期間は特に設けていないが新局長の判断でダグラス・ホワイト大佐が職務に慣れてきて局長が務まるようになったと判断したとき道を是非譲ってほしい。わたしはこの地下基地を離れたら最後もう一切口をはさむことはできない。信頼できるジョン・スコット新局長であるからこそ安心してすべてを任せられるのだ。わたしは秘密時空保安局の業務の本質がわからないまま素人の状態で赴任して皆に負担をかけてしまった。わたしの二の舞をダグラス・ホワイト大佐にはさせたくない。」
「局長、いやっ、これからはティモシー・カーマイケル中将殿とお呼びしなければならないのですね、失礼しました。ひとつ質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「ジョン・スコット局長、いやっ、お互いにどうも言い慣れない肩書きは困りものだな。あと数日は局長、大佐なのだから・・・ジョン・スコット大佐、何か局長としての職務に関しての質問なのかな?」
「局長、違います。変な質問ですいません、局長はこの部屋に奥様やお子様の写真を持ち込まれているのですか?」
「予想外の質問だな、仕事に関してだったらベテランの事務職の者に聞いてもらったほうがより正確だからと言って拒否する予定だったが・・・独り者のジョン・スコット大佐に弱みを話すのはどうも恥ずかしいな。」
「局長、そんな大それた意味はありません。ただ、こうして室内を眺めても無機質な機械類ばかりでどう気分転換されているのか、それを知りたくて。わたしも今回の作戦から局長命で居室内が機械だらけになって実は滅入っているのです。たとえばこの局長室に何か絵とか彫刻などの美術品を置いたり、あるいは映画のポスターを飾ったりして気分転換してもいいのかどうか、この部屋をくまなく見渡してみても観葉植物や盆栽も置いていないし、もしかしたら机の中にご家族の写真でも入っていて時折見られているのかと思った次第です。」
「大佐、ランプやローソクを持ち込むことは禁止だぞ、前科があるからな。それ以外は常識的範囲で考えればいい。新局長として絵を飾りたいならそれもいいだろう。ただ、職務柄盗聴器が仕込まれていないかは常に気を配らないといけない。わたしは仕事の上で注意するべきことが多すぎるのでこの部屋の中にはそういう必然的ではないものはいっさい置かないことにした。広範囲な業務に忙殺される日々だから本来は癒しを求めて何か配置してもいいのだが。」
「局長、肝心な答えが返ってこないのですが?」
「これのことかね。」
巨大な執務机の引き出しを開けて中から局長は一枚の写真をわたしに見せた。
「妻とふたりの娘だ。」
「奥様はお綺麗な方ですね、ふたりの娘さんもとてもかわいらしい。真ん中に写っている局長、ずいぶんお若いときですね、かっこいい美男子で男惚れしますよ。」
「さすがベテランバーテンダーさんは口がうまいな。その手に何人引っかかったのかね、まぁいいだろ。、この写真は1970年3月25日に自宅前で友人に撮影してもらったものだ。この人里離れたロッキー山脈地下基地勤務が決まって今後離れ離れの生活になるのを惜しんでの記念の一枚だ。時折机の中から出して眺めるのは人間として当然の行為だろ。それともセンチメンタルすぎるかい?」
「いえいえ、解説ありがとうございます。ある意味ほっとしました。ただ、わたしには家族がいません。せいぜいわたしがスカウトしてきた秘密時空保安局局員たちが我が子のようなものなのでその中からお気に入りの美女の写真でも机の中に入れておこうかと思っています。」
「たとえばこんなものかね!」
局長は笑いながらマライヤの写真を取り出しておどけてみせた。
「局長、もう何も言うことはありません、帰ってもいいですか?」
「そうだな、大事な仕事上のアドバイスは明日にしよう。ジョン・スコット大佐、1980年3月21日10時15分にまたここに来るように。」
「わかりました、今日は大変失礼なことを言ってすみませんでした。」
いろいろと局長に対して言いたいことはあるが最後の花道を飾る上司に抗ってもしかたがない。また明日仕切り直しということに賛成して局長室を出たが、廊下の向こうに妙齢の美女が待機していて軽くニコッと会釈をされた。事務方の職員なのか?局長への来客なのか? まさか局長の浮気相手でもあるまいが、明日のいい質問ネタができたことを吉として今日は退くこととしよう。