第23場 1993年5月30日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)9
時 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局職員居住区

 

1980年3月21日での局長のやりとりには参った。やりとりというものの一言も喋らしてもらえずとにかく帰ってくるしかなかった。局長の作戦勝ちだがなにもかもが局長が書いたシナリオ通りに進んでいるということ。だからといって逃げ出すわけにはいかない。もし仮にどこかの年代に勝手に飛んでいって隠れ住んでいても元々ジョン・スコットなる人物はアメリカ陸軍には存在していなかったという処理で終結してしまう。あちこち探し回らなくてもわたしの二等兵時代あたりに局長が飛んでいって服務違反を理由に厳罰を与えればいいだけなのだ。どっちみちまた死霊に戻るだけのようなのでその選択枝に身を任せてもいいのだがとりあえずもうしばらく局長によって敷かれたレールの上を泳がされながら歩いてみよう。

 

ひとつだけ楽しみがある。偽夫人としてどういう女性が派遣されてくるのだろうか?
頭の中では妄想の世界が以上に膨らんでいてこの1993年代のここにその女性が一緒暮らしていた・・・。

 

ドンドンドンと居室の扉を激しく叩く音でわたしは目覚めた。声の主は例のごとく事務方の彼だった。
「大佐、だいじょうぶですか! 体の具合でも悪いのですか?」
「すまんすまん、ただの寝坊だ、今扉を開けるから。」

(このやりとりは以前あったな。不意に時間が巻き戻されてしまったのか?)

「大佐、1993年5月2日以来二度目の寝坊ですよ、執務を開始してください。夜中に叩き起すほどの緊急事態ではないようなのでこの時間まで待っていたのですがL1とL2から重要印付きの報告が入っているので至急目を通してください。」

そう言い残して足早に立ち去った食事仲間のウォーレン・マクレーン事務官の結婚式の仲人は結局先日の夕食時の話しの流れで局長就任後偽夫人と共に務めることになったが、まだ見ぬ偽夫人がプライベートに付き合ってくれるのだろうか?そんなことよりまずはマライヤとマリーからの重要報告に目を通さないと。

 

どっちの報告から見るか迷ってマライヤからのものを先にしたが、結果的にはどっちでも可というか似たり寄ったりの報告で驚いてしまった。なんのことはない、アーノルド・ロッドマン氏の性格を熟知していればよくあることで問題なのはその先だ。そう、プロポーズされたからってうぬぼれない方がいい。生涯何人の女性に
ロッドマン氏は言い寄ったのか!? 社交辞令からはじまって少し気に入った程度なのか、本気で正妻の座に迎えるつもりなのか、夜遊びの延長なのか・・・。ふたりとも本気で困っていると訴えていたがそれこそうぬぼれ病なのではないのか? ただ、そういう心をえぐるタイプの指摘はわたしはできない。こちらもマライヤとマリーの性格を熟知して派遣している。どういう風に進展していってほしいかは頭に描いて送り出してはいるものの面と向かっては言いにくいものがある。それにしてもマリーが現在いる1964年ならロッドマン氏は独身で誰を妻に迎えるか真剣に考えてもいいがまだ18歳の青年で年齢詐称が得意な?年上のマリーを本当に気に入ってしまったのかどうか、ともかくまともな指示を出す気はなかったので結婚の暁には親類として結婚式には参列するからよろしくととぼけてみた。一方1996年にいるマライヤの相手となるロッドマン氏は50歳、当然初婚のはずはなく既に何回離婚しているのか、先妻に何人の子どもがいるのか? 年下の美女を狙って鼻の下だけが伸びている金持ちおじさんとどう違うのか? 派手にモデルとして活躍している有名人を何番目かの妻に迎えて注目の的になりたいのか、マライヤへの指示としてはどれだけロッドマン氏が真剣なのか?引き続き継続観察せよ、と意地悪に振舞ってみた。マライヤの強気な性格からするとわざと派手に拒絶するとか、既にすてきな彼がいるというのをほのめかすとかじらし作戦や嫌われるような行動を取り続けるとか大きく揺さぶる戦術を採りそうだが何をしてもマライヤ流で許されてしまい逆効果になるかもしれない。うがった見方としてはその逆効果狙いでハートを射止める恐ろしい魔弾の射手というのが素顔の下に隠れた本来の顔だったらそれこそマスカレードの主役にふさわしい。そうだ、ウォーレン・マクレーン事務官の結婚式の二次会としてマスカレードを主宰したくなってきた。マリーとマライヤにも局長権限で無理を通して参加してもらおう。この程度で職権濫用罪に問われるなら秘密時空保安局局長の椅子はいらない。どうにでもしてくれ。雇いのバーテンダーでもしてなんとか生活していくから・・・命まで奪われてももう普通の人の五、六倍の時間はあっちこっちの時空で経験済だから宿命として受け入れるだけだ。そうと決まれば今からマスカレードマスクをどういうものにするか夢の中で考えることにしよう。

 

「大佐、また居眠りですか! あれから一時間も経っていないのに、起きて執務してください。」
真打ちのウォーレン・マクレーン事務官が本日二度目の登場となり役者は揃った。
「ごめんごめん、君の結婚式の二次会の段取りを考えていたんだ、本当にすまない。どうしても大切な事柄は夢の中で組み立てる悪癖があるもので。」