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 大学に入学してからというもの、総合大学であることのメリットを最大限に活用すべく、物理学ばかりでなく地球科学、電子工学、機械工学などな知的本能の赴くままに勉強に励んでいました。興味ある学術シンポジウムや講演会にも時間を見つけては足を運んでいました。知的好奇心を意図的に抑制し、受験勉強だけにしがみついていた時間が長かったことの反動だったんだろうと思いますが、大学で学ぶことの醍醐味を何一つ取りこぼすまいと自分のキャパシティを越えて邁進する、一種の執念に似た感覚を抱いていました。


 自然科学の一分野である生物学にもいくつかの科目で単位取得に挑戦しました。とくに光合成反応論は切り口がけっこう物理っぽいなあと感心しましたし、生体現象を物理学の手法で説明しようという姿勢に引き付けられるところが多かったです。生物学には、在学中にいくつかの科目で単位取得を果たしたぐらいで、自分の課題研究と全く接点が無かったのですが、卒業してからは広い意味で生物学には何かとご縁があり、学生時代を反芻しながらテキストや科学論文に目を通しています。


 というわけで今日は、大学で受講したある生物学の講義で体験したとても記憶に残っているエピソードをご紹介したいと思います。


 「生物は進化する」。高等教育では生物進化論がスタンダードになっています。私が受講した生物学の講義でも漏れなく生物進化を既定路線として扱っていました。大学の講義では、受講生から質問を集める、講義内容の改善を図る、講義の出席確認の代わりにする、いろいろな目的でアンケートが取られるのですが、私はその生物学の講義の署名付きアンケートに生物進化論に対する根本的な疑問を投げかけたことがあったんですよね。私は幼い頃から聖書を学んできたし、物理学を専攻した理由も宇宙の創造者の探究という宗教的な側面もあった、地球も神の手による産物である、人間もサルから進化したのではなく神の手によるものだという信仰がありました。ですからそのアンケートに、生物進化に対して私が感じている素朴な疑問を率直に投じてみたというわけです。「・・・、イヌはいつまで経ってもイヌのままだし、ネコもやっぱりネコのままだ。イヌがネコになったり、ネコがイヌになったりしないじゃないか」と、そんなことを堂々と書き連ねました。生物進化論に果し合い状をたたきつけるような態度ですよね(笑)。


 署名付きアンケート提出後、次の講義時間でのことでした。生物学の講義を務めていたのは、白髪交じり、櫛でとかした形跡もない爆発した頭、無造作に長く伸びきったヒゲ、プロジェクタースクリーンを下ろすための背丈ほどあるこん棒を握りしめ、本当に仙人のような出で立ちの生物学の教授です。その教授先生が前回提出した私の質問アンケートを取り上げたのです。


教授先生:「・・・、イヌはいつまで経ってもイヌのままだし、ネコもやっぱりネコのままだ。イヌがネコになったり、ネコがイヌになったりしないじゃないか、と書いた人がいる。これは考えが浅い。こういう疑問があると専門家としてぜひ答えたいという気持ちになるんです。(以後、専門的な話が続く)」

教授先生:「えー、キーボードくん、どこ? 彼の下の名前と私の名前が同じなんですよ、キーボードくん?」

私:「(うわー、指名なんかしてくれなくてもいいのに!)」

と憂鬱な気持ちで私が立ち上がる、大勢の周囲の視線を感じる、緊張で心臓の鼓動が激しく高まる。意を決して、

私:「・・・、それなら生物の形態が変化するのに具体的にどれぐらい時間がかかるのか決まっているんでしょうか???」

教授先生:「うーん、その質問に簡単に答えるのは難しいな」


 100~200名ぐらいの受講生がいたと思われる大教室です。生物学の専門家である教授先生に指名された私は、たった一人で生物進化論をテーマに論戦に挑んだ、なんて言うと大げさですが、大教室の教授先生の前でその学問分野の定説を否定する立場を公然と表明するのはとても勇気にいることでした。知識量も浅はかな素人学生なりに私も頑張りました。生物学の講義の後にも、聖書を学んできたことから染みついた発想で自分の思うところを話してみましたが、独特で絶妙なユーモアで切り返してくるので大笑いしてしまいました。実際、今思い出してみてもその教授先生はなかなか懐の大きな人物で、そんな生物学の講義が今でもとても楽しい思い出の一つになっているんです。


 受講生の一人としては思い出深いエピソードになっているのですが、教授先生にしてみればそんな個別のエピソードなどきっと記憶の断片にも残っていないでしょう。私は講義を受講したたくさんいる学生のうちの単なる一人にすぎない、「One of them」、まあそんなもんです。たとえそうでも、大学を定年退職して久しい教授先生が、現在もなお市民向けの生物学の教育活動で活躍していることを知り、とてもうれしく感じています。