名残惜しいシーを出てから30分。
嵩人さんが滑らかに運転している横で、うつらうつらと睡魔が襲ってくる。
早起きしたもんね、と言えば確かにそうだが、自分だけが早起きしたわけじゃなく、運転している嵩人さんの方が日頃から比べるとありえないくらい早起きをしたわけで、しかも運転までしているわけで、疲れの差は半端じゃないと思う。
なのに、横を向けば嵩人さんはかなりの余裕の表情でハンドルを握っていた。
「颯樹、眠いのなら寝ても良いぞ。着いたら起こすから」
「うん…でもだいじょぶ。嵩人さん運転してんのに寝れない。悪いもん」
「気にするな。鼬比川も猪沢も寝てるだろ?」
後部座席を振り向くと、確かに熟睡している二人がいる。特にしんちゃんは豪華によだれまで出して寝ていた。
「しんちゃんすごいアホ面…すごい疲れたのかな」
「さぁ。二人して気、張ってたんじゃなか?」
「初デートだから?」
「かもな」
「俺も嵩人さんとデートだもんね」
「楽しかったか?」
「うんっかなりっ!!だって嵩人さんと出かけたのも久し振りだったし、ずっと一緒にいられたし、ご飯おいしかったし、すごい楽しかった」
「それはよかった」
そう言って笑う嵩人さんの顔がかっこよくて、毎日見ててもどれだけ見てても飽きることなく、いつも見惚れる。
「今度、テスト終わって…夏休み入ったら…遊ぼうね」
「あぁ」
「母さんも…――――嵩人さん…に会いたいって言ってた」
「それじゃお盆前に挨拶に行かないとな」
「うん…あとね、嵩人さん、りっちゃんの実家…遊びに…ふあ…行こう」
「九州か?」
「…鹿児島…しんちゃんちも近…所」
「そうか。ならまた後から8月の予定立てようぜ」
もっともっと。まだ話していたいんだけど、眠気にどうしたって勝てなく、嵩人さんの声がどこか遠くに聞こえてきていた。半分夢の中というふわふわした感じに、もう無理かもと諦め状態。
赤信号で止まったとき、嵩人さんが『おやすみ』と頭をぽんぽんと撫でるその感覚で完全に意識が飛んだ。
俺の、長いような短い一日はこうして終わった。
そうして次、目覚めたときは嵩人さんのベッドの中で、朝を迎えていた。
…よくねた…?
時計は午前7時を指している。
もそもそと起き上がり、お風呂を使ってみたが嵩人さんは深い眠りの底についてたらしく起きる気配はなかったので、そのまま着替え、朝ごはんを食べるべくそっと部屋を抜け出した。嵩人さんは基本、朝食は食べない派なので無理に起こすのも悪いなぁと。食べ終わったらまた戻ってこよう。きっとまだ寝てるし…そう思って何の躊躇いもなくドアを開けた瞬間、廊下でばったり出会う生徒会長兼総寮長…――――兎束湧一。
悪夢か。
「狐賀、お前、俺にお土産ないのか?」
「誰がお前に買ってくるかーばーかっ!!!」
幸せな夢は、昨日できっぱりはっきり消えたみたいだった。