key-nagiさんのブログ -2ページ目

key-nagiさんのブログ

小説を書いてます。主にblog活動はこちらで行っているのでよかったら見に来てください><

http://dclog.jp/key_nagi/



階段を降りて靴をはきかえ、学校裏の林へどんどん進んでいく。西に傾き始めた日が空を茜色に染めはじめた頃、僕は談笑部部室前にたどり着いた。

さて、ここまで来たものの、これからどうしようか。さっき部室に入っていった生徒は女性みたいだったけど、もし彼女一人しかいなかったらどうしよう。

いや、そもそもここは『談笑』部なのだ。一人で談笑できるわけがないじゃないか。だいたいそれじゃ談笑とは言わないし。それに部活動として成立しているわけなのだから、少なくとも3人は部員がいるはずだ。それが学校の規定だったはず。

うーん、いつまでもこうしていても仕方ない。とにかく中に入ってみよう。インターホンはなさそうだ。ノックでいいのかな? こんっこんっ!

返事がない。聞こえなかったのだろうか? もう一度叩いてみよう。こんっこんっこんっ! やっぱり何の返答もない。ドアノブに手をかけてみる。ガチャ。あ、開いてる。

「し、失礼しまーす」

小屋の中に入って、まず最初に気付いたのは、甘い、バニラみたいな匂い。濃厚だけどシルクのように繊細できめ細かいその香りに頭が少しくらくらした。

心なしかその空間までもが白く色付いて見えた、というのは少しおかしいかもしれないが、なるほど確かに、この部屋は白かった。壁紙、天井、本棚、机、椅子、そこにある全てが真っ白だった。

しかし一点だけ、部屋の中のごく一部だけ、そこだけは違った。

黒い。

まるで世界でそこだけが光を失ったかのように……いや、それではどこか語弊がある。まるで……そう、まるで、そこだけが闇を手に入れたかのように黒い。

そんな真っ黒な髪の毛を鬱陶しそうに右手で弄びながら、左手でパソコンのキーボードをカタカタとリズム良く弾く少女が、部屋の隅に置かれた机に向かって腰掛けていた。

後ろ姿だから顔は見えないけど、制服からしてやはりうちの生徒みたいだ。彼女はテーブルに置いてあるコップを掴み、この匂いの元であろう何かを一口飲み込む。そしてなんと、こちらを振り向くこともせず、急に喋りだしたのだった。


「……やはり、来たか」

「!?」

「いずれ君がここに来ることはわかっていたよ」

「あの……」

「まず初めに、幾重にも結界が張り巡らされたこの森を無事切り抜けてきたことを褒めてやらなくてはな」

け、結界!? この林にそんなものが……全く気づかなかった。ここは一体……

「は、はぁ」

「そして、用件は、聞くまでもないな。……加わりたいのだろ? 我が支配下に入れば何かと融通がきくからな。ふふ」

……そ、そうなんだ。この人、そんなに凄い権力を持っているのか。談笑部、なめてかかるととって食われるのはこちらのほうかもしれない。

「いえ、あの、僕は普通に」

「……なに、違うだとっ!? そうか、なら残る理由は一つしかない。これが欲しいのだろ、ふふ」

え、ちょ、なに? なにこの展開? どういうことですか? 「これ」ってなに? 普通に入部しようと思って来ただけなんですけど……

「欲しければ力ずくで奪ってみろ……さぁ、始めようじゃないかっ! 己の持てる全ての力をぶつけてみよ! 今宵の我が魔刀は血に餓えておるぞおおぉ!」

「…………」

そこで彼女は一息つくとまた飲み物を口に運ぶ。そしてまた、

「いずれ君がここに来ることはわかっていたよ。まず初めに、幾重にも結界が張り巡らされたこの森を…………」

さっきと全く同じ言葉を繰り返し始めた。な、何なんだこの人……どうやらさっきの台詞は、僕に向けて言ってたわけじゃないみたいだ…………何で返事してたんだろう、僕……紛らわしすぎる…………

よく見ると彼女は耳にイヤホンのようなものをはめこんでいる。これではこちらの声が聞こえてなくても仕方ない。しかし、このままでは拉致があかない。

「すみませーん」

「欲しければ力ずくで奪ってみろ……さぁ、始めようじゃないかっ! 己の持てる全ての力を…………」

「すみませーんっ!」

「……っ!?」

びくっと彼女の肩が微かに震える。どうやらこちらの存在に気付いてもらえたみたいだ。そしてゆっくりと振り向いたその顔は……見紛うことのないくらいに美少女だった。

目の上でパツンと揃えられた前髪、頬を朱に染めながらもその力強さを失うことのない黒い瞳。上背はそれほど高くないが、すらっと伸びた手足にほっそりとした腰、見蕩れてしまうほど綺麗な体躯。肌の色はその髪の毛の色とは対称的に透き通るような白。完全な美少女だった。

「えっと、その」

「……のか?」

「え?」

「今の、聞いてたのか?」

「…………」

「…………」

ま、まずい。確かに今のは人には聞かれたくない! 林の中にある小屋にこもってわけわかんない台詞を何度も繰り返し復唱してるところなんて、もしそんな姿を人に見られたら……僕なら間違いなく自殺の道を選ぶだろう。

とにかく、なんとかして話の流れを変えないとっ! このままじゃこの人が証拠隠滅のために僕の命を消しにかかってこないとも限らない!

「……え、えっと、その、ここは談笑部の部室であってるんですよね?」

「……入部希望者か?」

「いえ、まだ決めかねてますが……」

今ので完全に入りたくなくなった、とは口が裂けてもいえない。というか、もし仮にそんなことを言ったら、この人に僕の口を裂かれることになりそうだ。

「……そうか、新入部員か。考えたこともなかったな、うん。一応ここにも学校の部活動というルールは適用されているわけだからこうなる可能性はあったわけだ。私としたことが…不覚だった」

何か物凄く落ち込んでる。いやまぁそりゃあんなところ見られれば誰だって落ち込むだろうけど……その後数分にわたり、うんうん唸り続けた彼女の口から出た言葉。

「君、名前とクラスは?」

「……し、霜月 氷柱です。霜に月、氷の柱と書いて氷柱。クラスは1-Cですけど」

その後また少し考えるように小首を傾げる女生徒。知的な印象とその仕種がぴったりマッチしてとても魅力的だった。と、思えたのだろう。さっきの事件さえなければ……

「よし、決めた!」

「何を、ですか?」

「君の入部を」

「……え?」

「君、鞄をよこしなさい」

「ちょっ……」

有無を言う暇もなく鞄を奪い取られてしまった。

「入部届けの記入用紙はっと……お、あったあった! 名前とクラスは、1-C 霜月 氷柱と。入部希望は『談笑部』と。よし、あとは……サインか。君、ここに名前を書いてくれ。」

「えっと、その、僕まだ入部するとは……」

「却下。君の入部は決定した。というより確定した」

「な……! 何であなたが勝手に決めてるんですかっ!?」

彼女はぴしっと人差し指で僕を指し示しながら嫌らしい笑みを浮かべる。

「そんなの、決まってるだろ。さっきのを見たからだよ」

「そ、それとこれと何の関係があるっていうんですかっ!」

「君がこのことをばらさないように私が見張るためだよ」

「誰にも言いませんよ!」

「ダメだ。別に君のことを信用できないわけじゃない。もし仮に君を放っておいたとしても、君は誰にも話さないだろう。だが私と君は初対面。まだ信頼できる関係にはない。だから私が君を信頼できるようになるまで、君にはこの部にいてもらうことにする」

「そんな……」

「ということで、ここにサインしなさい」

そんなの無茶苦茶だ……何でこんな危ない先輩がいる部に入らないといけないんだ。それに、この部って……

「嫌です」

「何で?」

「この部の部員は何人ですか?」

「質問に質問で答えるのは卑怯だぞ」

「いいから……何人ですか?」

「……私一人だが」

「つまりは、そういうことです」

「?」

彼女は顔に「?」を浮かべ本当に意味がわからないというような目でこちらを見てくる。

「独り言は談笑とはいいません。僕はそんな危ない部には入りたくないです」

彼女は納得したように手をぽんっと叩き破顔した。くっ、口論の途中でこんな笑顔を見せるなんて卑怯だ。攻め入るスキが見つからない。

「うん、なるほど。君の言うことはもっともだ。ただし、何点か間違いがあるけどね」

「どういう……ことですか?」
「まず第一に、私のさっきの言葉は独り言ではない」

「え?」

「これだよ」

そう言って彼女はマウスをカチカチっと操作する。そしてパソコンのディスプレイを指差し、僕にそれを見るように促す。画面には、黒いマントを纏った女性と、勇者のような格好をした男性がアニメ調のCGで描かれていた。

そして、再生ボタンをクリックすると、画面の下のほうに吹出しが現れ、それをなぞるように音声が流れ出した。

『……やはり、来たか。いずれ君がここに来ることはわかって…………』

「こういうことさ。つまり、私はゲームに使う音声を録音してたんだ」

「え……」

いまいち状況が理解できない。

「ようするにだ、このゲームのこのキャラ、黒いマントをつけているキャラの声優を担当しているのだよ。この音声データを知人のパソコンに送信して、そいつがゲームに声を組み込むってわけだ」

「せ、声優?」

「そう、声優。おっと、勘違いしないでくれよ。別にこれは私の本業じゃない。たまたま知人に頼まれてやっているだけだ。もちろんこのゲームも公式のものじゃないよ。同人ソフトだ」
「そう、だったんですか」

驚いた、こういうゲームは引きこもっていた時に何作かプレイしたことがあったが。まさかこんな身近に同人ゲームのネット声優をしている人がいるなんて。

「ちなみに他にも色々やってるぞ。例えば絵を描いてみたり、歌を歌ってみたり、写真のモデルになってみたり、商品の宣伝をしたり、捜し物をしたり。とにかく、私は頼まれたことをしないことはない」

何だか、この人、ほんとはすごい人みたいだ。マルチな才能を持ち合わせた美人、なんて現実に存在するんだなぁ。と、危うく感心させられそうになってしまったが本題からそれている。

「じゃあ、別にさっきのことを話しても問題はないでしょ! もちろん、そんなことはしませんけど。それに、部員があなた一人であることにかわりはないじゃないですか!」

「ん、何か問題があるかな?」

「も、問題って……」

「そもそもだ」

そう言って彼女はまたコップを手にとり飲み物を口にする。

「君は『談笑』といえばどういうものを思い浮かべる?」

「そりゃあ、数人、二人以上で同じ話題について心置きなくおもしろおかしく語り合うことじゃないんですか?」

「うむ、概ね合ってるよ」

「じゃあやっぱり──」

「君が間違っているのはそこなんだよ」

「それってどういう……」

「『談笑』が、『二人以上の人物が、同じ空間に同時に存在しないとできないもの』だと誰が決めたんだい?」

「え?」

そこで彼女はパソコンの上にぽんっと軽く手を置いて、愛しげに優しく撫でた。

「こいつだよ」

そこで僕はやっと合点がいった。そもそも、もっと早く気付いてもよかった。いや、毎日チャットをしていた僕だからこそ気付くべきだったんだ。

「インターネット、ですか」

「うん、正解だ!」

彼女は今日一番の笑顔でそう答えた。屈託のない笑みに思わず心臓がドキドキする。そして、この胸の高鳴りは決してそのことだけに対してのものではなかった。

何か、物凄い世界に自分が入り込んでしまいそうな、そんな感覚に襲われたのだ。まるで不思議の国に迷い込んだアリスのように。

「チャットだよ」




「さぁ新入生、もとい新入部員! もうそろそろ観念してここにサインしなさい。ふふふ」

「……い、いやですっ! っていうか新入部員じゃないです!」

彼女は僕の返答などものともせず不敵に微笑む。そして少し思案した後に口をついて出た言葉が……

「ハンコは……ないか。よし、指出せ、指。人差し指な」

「え? なんで…………っ! ちょ、何で勝手に人の指に朱肉押し付けてるんですか! やめてくださいよ!」

「……いやぁんっ!」

手を振り払うと彼女は色っぽい反応をして、少し大人しくなった。まずい、どこかいけないところでも触ってしまったのだろうか……

「あの……すいませ」

「ていっ!」

「あっ! ちょっと!」

「肉印ゲットだぜ!」

「何ですかそのポ○モンゲットだぜみたいなノリはっ!」

「ちなみに私はポケ○ンよりドラ○エ派だ」

「どうでもいいですよ!」

「さらに言うならGB版のモンスターズが好きだな。モンスターに肉を与えて服従させるなんて想像するだけで興奮する……ふふふ」

「ド○クエってそんなゲームでしたっけ!?」

「私はね、ゾンビはいくら撃っても死なないところがいいと思うんだよ」

「あなたが生物兵器だっ!」


はぁはぁ……い、いけないっ! 何とかしてイニシアチブを、主導権を取り返さないと。このままじゃ取り返しのつかないことになってしまう……っ!


「名前記入、ハンコ、本人の意思確認。あとは……うーん、そうだなぁ…………。」

「意思確認って……嫌って言ってるのが聞こえな──っ!」

「ちゅ☆」

「……っ! なっ、いきなり何するんですか!?」

「ん、何って、誓いのキスだよ。これで君はうちの部員だ。もう逃げられないよ……それとも、何? ほっぺにチュウより、もっと別のことのほうがよかったのかな? 後輩君。ふふっ」

さ、最悪だ。何なんだこの人……

どうしてこうなった……







私立紗蔵高校に入学して一週間がたった。クラスにはもうすっかり馴染めた、とまではいかないが、それでも数人とは普通に会話できるほどの仲にはなった。

授業もそこまでレベルは高くない。先生も予想以上に堅くないし接しやすい。なかなかに充実した高校生活の開幕であった。

校舎は10年ほど前に建ったばかりでまだまだ新しい。リノリウムの匂いに満ちた廊下はほどよく広く、生徒たちが歩き回る度にカツカツと小気味よい音を奏でる。

教室から窓の外を覗くと、だだっ広いグラウンドが目に入る。真ん中には丁寧に手入れされた人工芝と、それを囲むように縁取られたトラック。

その左側には野球専用グラウンド、テニスコート、プール、サッカーゴールがある。右側では体育館、弓道場、柔道場、剣道場が一体となった巨大な多目的ホールがその存在感をひしひしと主張している。

校門付近には色んな木々が植えられていて、季節ごとにその美しい変化を楽しむことができるみたいだ。

放課後、ショートHRを終え、ざわつきはじめる教室。帰宅する者、友人と駄弁りだす者、文学部へと向かう者。そんな慌ただしい喧騒の中、一人の男子が僕に話し掛けてきた。

「なぁ、霜月、もう入る部活とか決めたのか?」

「ううん、僕はまだだ。棗君は?」

「俺は文芸部に入ってみようと思うんだ。もともと本は好きだし、高校の体育会系の部活はさすがにきつそうだからな」

「そっかぁ、そうだよね。僕も体育部はちょっと無理かも。でも文才もないから文芸もダメだな。これからに色んな部活を見て回ってから決めることにするよ」

「そうか、まぁ気が向いたら一緒に文芸部に入らないか? 正直、俺も好きなだけで今まで自分で本を書いたことなんてないしさ」

「ありがとう、考えておくよ」
「じゃあ、またな」

「うん、じゃあね」

そう言って棗君と別れた後、僕はこれから入部すべき部を探すために校舎をさ迷うことにする。

僕の名前は霜月 氷柱(しもつき つらら)。この春からここ、私立紗蔵高校に通っている高校1年生だ。身長167cm、体重50kgという完全に華奢な痩せ型体型。この高校に通うために今は一人暮らしをしている。趣味はネット。元引きこもり。

さっきの彼はクラスメイトの棗 流(なつめ りゅう)君。長身ですらっと伸びる長い脚に整った顔立ち。短めの髪を無造作にセットしていて、とても大人っぽい。

どうやら勉強もそこそこできるようでいわゆるモテるタイプの人だ。女子が棗君のほうを見ながらきゃっきゃと騒いでいるのを数回見かけたことがある。


彼はどうやら文芸部に入部するつもりらしい。言われてみれば休み時間はずっと本を読んでいたし、きっと本が大好きなのだろう。

さて、僕のほうもそろそろ本格的に入る部を決めないと……紗蔵では9割近い生徒が何らかの部活に所属している。それは理事長の方針のためらしく、登下校に差し支えない限り、ほぼ強制的に部活動をしなければいけないからだ。

さっきも言った通り僕に体育系の部活は向いていない。別に運動音痴なわけじゃない。人並みになら何でもこなせると思う。でもやっぱり高校の部活というのは中学までのそれとは違う。

半端な気持ちで入ると痛い目を見ると千里(せんり)さんが言ってた。ちなみに千里さんとはネットで知り合ったチャット友達だ。

とまぁ、そうなこんなで手軽に入れる文化系の部活を探そうと思ってさっきから校舎内をふらふらしているわけだが……


美術部にて

「君、いい体してるね……美術部に入らない?」

「え!?」

「どちらかと言えば小柄でほっそりとした体格、サラサラで柔らかそうな髪の毛、あどけなさを残した童顔。完璧だわ……」
「あの……僕、絵にはあんまり自信が……」

「大丈夫! 心配しないで。あなたは脱いでくれさえすればそれでいいのっ!」

「……っ! ぬ、脱ぐってどういうことですか!?」

「私たちのヌードモデルになりなさいっ!!!」

「じゅるりっ……美味しそう~」

「久しぶりのショタだわぁ」

「……し、失礼しましたぁー!!!」


吹奏楽部にて

「君可愛いねぇ~! 女の子みたいっ」

「ほんとだぁ! うわぁ、髪の毛さらさらだよ、羨ましい~」
「何か楽器できるの?」

「え、えっと、小学校の時にトランペットとピアノを少し……」

「部長、そんな堅い話しなくていいじゃないですかぁ。そんなことより、お姉さん達ともっと楽しい話しようよぉ~」

「部長! 貴重な男子部員ゲットのチャンスですよ!」

「……あ、あの、他の男性部員の方、って?」

「ん? いないわよ、そんなの」

「っ!?」

「これで荷物運びとか掃除が楽になるわ」

「いっぱい可愛がってあげるからね☆」

「……し、失礼しましたぁー!!!」


オカルト研究部にて

「本日の議題は人魂についてだが……」

「アレはプラズマとは違う! この世に未練を残した人の思い、いや、想いの塊なんだ!」

「科学者どもは頭が堅くて困るな。全てにおいて、科学的証拠がなければ認めようとしない。君もそうとは思わないかね?」
「えっと、あの、その、僕は……」

「……っ! ぐああっ……まだだ、やめろ……今はまだその時じゃないだろっ!!」

「!?」

「くそ、おさまれ! 頼むからっ……!」

「例のアレか……はっ! まさか……やつらがこの近くに!? ……君っ!」

「は、はいっ!」

「君もまさか何かのチカラを?」

「……ち、ちからっ!?」

「そうか、まだ自分の持つ能力に気付いていないんだな。ちょっと手を見せてみなさい」

「は、はぁ……」

「……こ、これはっ!」

「部長、これはもしかして……」

「あぁ、間違いない……」

「あの……」

「大丈夫だ、安心しろ。君のことは必ず守ってやる。君は、君は未来の希望なんだっ……俺達の命にかえても、この光を消すわけにはいかないっ!!!」

「ぶ、部長、もう無理です! う、うわぁあああああっ!!!」

「……し、失礼しましたぁー!!!」



……な、なんなんだこの学校は! 普通の部が一つもないじゃないか! 美術、吹奏楽、茶道、華道、手芸、オカルト研、……その他もろもろ、全部同じような感じだった。

この分じゃ残りのアニ研、マン研、ゲーム同好会etcも似たようなもんなのだろう。どうやらこれは本格的に文芸部への入部を決意したほうがよさそうだ……

はぁ~と深いため息をついて気づく。色んな部を回っているうちに校舎の端のほうまで来てしまっていたようだ。

紗蔵高校は学級や職員室、会議室など一般的な部屋がある東校舎と、音楽室や美術部といった部室関連、食堂などがある西校舎にわかれている。

ちなみにここは西校舎4階。屋上へと続く階段の踊り場で、外の空気を吸うために窓を開けて顔を出している。普段なら絶対に来ることがなさそうな場所だけどなかなかいい眺めだ。

下を見下ろすと学校の敷地の雑木林が見える。基本的に解放はされているものの、そこに好んで入っていく生徒はほとんどいないようだ。

ん……何だろう、あれ。林の真ん中に小さな小屋のようなものがある。木造で赤い屋根の小さな小屋が。鞄から新入生に配られた学校案内を取り出して確認してみる。地図によると、どうやらあそこは元アウトドア部の部室のようだ。

アウトドア部って何だろう? あんな林の中にあるくらいだし、名前的にもバードウォッチングとかキャンプとか……川下りとか山登りとかをする部活だろうか? そんな部まであるこの高校って……

それに元って……何だか無性に気になる。もう1回学校案内をよく見てみよう、何かわかるかもしれない。

えーと、なになに……

「『元アウトドア部』部室。『アウトドア部』は、去年部活動中に問題が発生したため廃部となった。そのため、現在は新しく設立された『談笑部』の部室となっている」

問題って……遭難とか? 怪我とか? アウトドアってやっぱり危ないんだなぁ。 そして新しくできた談笑部。お喋りをする会みたいなものだろうか?そもそも、それって部として成立するのか?

ほんとに何でもありなんだなこの学校。あ、今ちょうど部員らしき人が部室に入っていった。うーん、談笑部か……楽そうだなぁ。。。

一か八か最後にここを当たってみよう。それでダメなら文芸部に入部すればいい。うん、そうしよう。

この時、僕は、この決断が後に自分の高校生活を、そして人生そのものを大きく変えることになるなんて知るよしもなかった。

とか、アニメや漫画の主人公なら言うんだろうなぁ。あはは……



鈍い頭の痛みと共に目を覚ます。祭の喧騒はすっかり止み、聞こえてくるのは虫達の鳴き声だけだった。

そして、寝ている間に見ていた夢のようなもの。いや、あれは夢なんかじゃない。俺の記憶だ。

頭を打ったからなのかはわからないが、全て思い出した。

記憶の中の俺は、公園で黄泉に出会い、花畑で心音と遊んでた。

そして、公園の近くの崖から飛び降りて……ん? 俺、確かに飛び降りたよな。何で今生きてるんだ?

あの時、最後に見せた心音の顔が忘れられない。どうしてあいつはあんなに、哀しくて、切なくて、苦しくて、今にも泣き出しそうな顔をしてたんだろう。

あのあとのことはどう考えても思い出せない。覚えていることは、目が覚めた場所は病院。そして俺はほぼ無傷だったということだけだ。

一体あのあと何があったんだろう……


怠い体を起こしてみて、俺は自分のおかれている状況に気付く。ここはどこだ? 俺は屋台で倒れた。そこまでは覚えている。でもそこからどうやってここまで来た?

よく見ればここは神無の家の縁側の部屋だ。日本庭園のような素朴で美しい、純粋な和に溢れた庭が目に入る。


近くには蚊取り線香が置かれていて、額の上には濡れたタオルまでかかっている。どうやら神無家で看病されていたらしい。

その時、後ろの襖が開く音がした。

神無だった。

「……優音! 目が覚めた?」

彼女はいつになく優しくそう尋ねてくる。

「あぁ。お前が運んでくれたのか?」

「お前を運んでくれたのは秋元だよ。そのあとの店番も遥ちゃんが手伝いに来てくれてたし、問題なかったみたいだよ」

「そっか」

神無の髪の毛は微かに水分で潤っていて月の光でキラキラ光っている。シャンプーや石鹸のいい香りもする。昔の人が着ている白装束みたいな寝巻きを身につけていることから、きっと風呂に入ってたんだろう。


「さっきまでついててくれたんだけど、婆ちゃんが大事はないって言ってたから、夜も遅いし帰って休んでもらってる。私も舞が終わって疲れてたし、今お風呂入ってきたところ」

あ、そういえば……

「……悪い。その、見に行けなくて……ゴメン」

「気にすんなって。そんなことより自分の体のほうがよっぽど大事だろ? 舞なんていつでもできるんだしさ」

ほらっ、と言って神無は軽く舞いはじめる。和服を着ているからだろうか、その動きはまるで小川を流れる水のように滑らかで美しい。

実際はそれなりの速さで動いているはずなのだが、非常にゆっくり感じられる。そんな動きだった。

神無が動く度に辺りに石鹸の香りが漂よう。風呂上がりで上気した頬の赤み、直接肌の上にかけられた1枚の布、夜の暗がりの中、月に照らし出された彼女はとても神秘的で、その姿は巫女以外の何者でもなかった。


「……ま、こんな感じかな」

まだ途中なのだろうがこれ以上は照れ臭いのか、神無は踊りをやめて縁側に腰掛けた。

俺も隣に座る。

「寝てなくて大丈夫なの?」

「あぁ、もうなんともない。打ち所がよかったみたいだ」

「そっか」

「あぁ」

「……」

「……」

え、なにこの感じ……何でこんな静かなのこいつ。こんな空気、俺には堪えられないぞ!? 何か話さないと……

「今さ、夏だけどさ」

「うん」

「夜は涼しいよな、この辺」

「そうだな。涼しい」

「……」

「……」

……話しが続かん。いや、負けるな俺、頑張れ俺。愛と勇気だけが友達さ!

「あっ!」

「ん?」

「見ろ! 庭にワニがっ!」

「……」

「……」

くそっ、俺の渾身の一発ギャグが滑った……だと!? そうだ、こいつは笑いのレベルが低すぎて俺の次元についてこれないんだったっけ。まいったぜ。

やむを得ない、限定解除だ。奥の手を使うことにしよう。できればこいつは使いたくなかったんだが致し方ない。

「その、さぁ」

「ん?」

「綺麗だった」

「……何が?」

「お、お前……」

「……ぶぅっ!!!」

「の舞……」

「……あぁ……………ありがと」


一概には形容しがたい空気が二人の間に流れる。何ともいたたまれない状況を作り出してしまった。これってもしかして俺の能力?

……そう、この力は悪循螺旋(バッドスパイラル)。読者諸君、今まで隠していてすまなかった。

説明しよう。俺、華月優音を中心に半径2メートル以内の領域に存在するものは、人であれ動物であれ、地面であれ、水であれ、そして空間でさえ、全て悪影響をうける。

特に相手がリア充であろうものならその効果はパネェぜ。やつらはお互いにイチャイチャすることしか考えていない。

イチャイチャしてればリア充だと思ってやがる。俺はその幻想をブチ殺す。つまり二人は1日と持たず別れる。もしくは一瞬で爆発する。

つまり俺は非リア充の味方なのだ。人は俺をこう呼ぶ、『悪循魔(バスパラー)』と。そして俺は自分の力を使うとき『バスる』という言葉を使う。

断じて『バスに乗る』とか『バス釣り』とかいう意味ではない。もちろん『バスケをする』なんて意味でもないぞ。『バルス!』なんて以っての外だ。どこぞの空中庭園を崩壊させる力なんざ流石の俺でも操れない。


ここで生じる問題が一つ。俺は自分の力を制御しきれていない。俺の精神、すなわち魂に秘められた魔力が強大すぎて人間の肉体がその力についていかないのだ。


結果、何にもない日常会話までもがバスってしまうのである。そう、今回のように。

……べっ、別に俺の話術のレベルが低いとかそんなんじゃないんだからねっ!

……話題作りが下手くそとかつまんない男とかそんなんじゃないからっ!


「……さっきから何言ってんの?」


神無が痛い目で俺を見てる。ふっ、またバスってしまったぜ。己の力の強大さ故に、無自覚に螺旋をバラまいちまう。罪な男だ。

「おい、優音……大丈夫? やっぱりさっき頭のどこか打ってたんじゃ……」

「大丈夫だ、問題ない!」

「いや、大丈夫ってお前全然……とりあえず寝てろ」

「大丈夫だ、問題ない!」

「……んー、これは思ったより重傷みたいだな……ちょっと待ってて凍り枕変えてくるから」

「1番いいのを頼む!」

「…………あぁ」


神無が暖かい目で俺の顔を見ながら部屋を出ていった。凍り枕まで変えてくれるなんて今日のあいつは優しすぎる。どうかしてるぜ!


……うん、確かにちょっとおかしいのかもしれない。俺、今テンション異常に高い。クールダウン、クールダウン。


落ち着くにつれて思考がまとまってきた。そうだ、俺は全部思い出したのだった。黄泉のこと、心音のこと……俺の過去のこと。

しかし、思い出したからといってどうだというんだ。もう10年も前のことだ。仮に、彼女達がまだここにいたとしても、今の俺に何ができる?

昔はただ一緒に遊ぶだけでよかった。でも今となってはそうはいかない。だって、彼女達は、いや……彼女は、心音は俺を殺そうとした。

あの時、なぜ俺は助かったのだろう。あそこから落ちれば骨折以上の重傷を負うことは間違いない。というか、あの高さなら普通に死んでも全くおかしくないはずだ。

黄泉が助けてくれたから? 心音の心変わり? それとも、ただ単に運がよかっただけなのか?

自問自答を繰り返す。考えても考えても答えがでない。完全に行き詰まってしまった。

んー。無理に考えることはないのかもしれない。確かに俺にはそういう過去があった。でも今は今だ。

実際彼女達は俺の前に姿をあらわしていな……ん? ……いや、まてよ……そういえばあの時……秋元と一緒にここに帰ってきた時、公園で聞こえたあの声
『おかえりなさい』

あれはまさか彼女達の……いや、でもそれなら何で今まで俺の前に現れなかったのだろう。謎は深まる一方だ。

しばらくすると神無が帰ってきた。手には冷たそうな凍り枕を持っている。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった」

「……あ、うん。大丈夫」

「優音? お前また顔色悪くなってないか?」

「いや、そんなことない。全然元気だぜ」

「とりあえず今夜は安静にしてろよ。ほら、病人は病人らしく布団で寝てろ」

「いぇっさー」

さっきまで寝てた布団にまた入り込む。まだ若干ながら体温による温もりを感じられた。さて、とりあえず朝まで寝よう。これからのことはそれから考えればいい。

と、思って目を閉じようと思ったら神無が枕元にやってきた。

「ほら、頭あげて」

「ん?」

「枕敷いてあげるから」

……は、はぁっ!?

「い、いいよっ! 自分でできるから」

「病人は病人らしく看病されてればいいんだよ。ただでさえ頭が悪いんだから、これ以上悪くなったら大変だぞ」

そう言って神無は無理矢理俺の頭を持ち上げ凍り枕をセットしてくる。

「ふ、ふごっ」

ちょ、おま! 胸っ!

「これでよし、っと!」

突然頭を離されて枕で強打した。

「ごふっげはっ!」

「あーあ、こんなに咳しちゃって……ちゃんと寝てないからそんなことになるんだぞ? ほら、口開けて喉見せてみ!」

「いいよっ! てかお前見てもぜってーわかんねーだろっ!」

「何言ってんだよ、この私に解らないことなんてあるわけないだろ。病人は病人らしく医者の言うことに従え! ほら、あーん」

医者!? ……誰がっ!? 解るってなんだよ! 字がこえーよ! どこまで深く探るつもりだ!?

「ぐばぁっぼごごふぐ!」

反論する隙もなく、左手で首をつかまれて右手で口をがばがば開けられる。のどが絞まってるから口が開いてるのに息もできない! なにこれ新手のいじめ!?

必死にタップしてやっと手を離してもらった。

「何だよ優音、照れんじゃねーよあたしとお前の仲だろ」

照れてんじゃねーよ息ができねーんだよ! ……加害者と被害者の仲です。


「あれ、よく見れば顔も赤いし熱でもあるんじゃないの? おでこだしてみろ」

誰のせいだよ! お前が俺の息の根を止めようとしたからだろうが!

神無は早くも自分の前髪をあげて準備完了ですみたいな顔で待っている。これ以上何かされたらたまったもんじゃない。

「……い、いいって! 別にいいよ! 大丈夫、熱なんてねーから!」

「よくねーよ! こういうのはちゃんとした確認が必要なんだ。風邪をこじらせるのが1番危ないってばあちゃんが言ってたような夢を見た気がする!」

「気がするだけじゃねーか! いや、確かにそれは一理あると思うが……別に体温計でいいじゃん!」

「うちに体温計なんてねーよ! 文明の利器に頼ってるようだからお前はこんなに貧弱なんだ。ほら、病人は病人らしくさっさと頭を差し出せ!」

「……え?」

ガシっと頭をつかまれたのもつかの間、次の瞬間俺は神無の強烈なヘッドバッドを脳天にくらっていた。クリティカルヒット。

「ごぶぼっぐばらっぁ!」

……あ、頭がクラクラする。割れるような痛みが頭に走る。てか多分割れてる。確実に何処か割れてる。さっきから何かと「病人らしく」とか言ってるくせにこの扱いはそんなもんじゃない。人形相手にプロレスする子供だ。

「……うーん、熱はないみたいだなぁ」

お前の頭突きをくらってから、頭に変な熱を帯びはじめたんだが…

「そ、う、みたい……」

「でも一応病人だしなぁ。何かあったら心配だし。仕方ない……ここは優しい優しいこのあたしが一緒に寝てやることにしよう」

「ぶっ!」

「よいしょっ」

「ちょ、待てってっ……!」

「お邪魔しまーす」

「ちょ、おまっ……!」


神無が何を考えているのかはわからないが、俺の夜はまだまだ終わらないみたいだ……