2020年9月に読んだ本たち+α | ますたーの研究室

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英詩を研究していた大学院生でしたが、社会人になりました。文学・哲学・思想をバックグラウンドに、ポップカルチャーや文学作品などを自由に批評・研究するブログです。

 

冬が来たな。早くも冬が。

 

・仲正昌樹『(改訂版)<学問>の取扱説明書』(作品社、2011年。)

今回初めて知ったのだが、仲正さんは研究科の先輩だったのですね。うちのはす向かいの研究室だった。完全に身内ネタだが「相社の実体がよくわからない」という話には深く共感してしまった。いや、僕は地域文化研究という研究枠組みもその実体がよくわからないまま卒業してしまったのですが……。

哲学・思想や政治学・政治思想など、主に社会科学系の各分野に対して仲正先生がわかりやすく啓蒙してくれる……のはずなのだが、基本的にずっとぼやいている。特にネットで「言論活動」を飛ばしているブロガーや、無気力な学生に対しての不平不満が凄まじいことになっている。そういう内容でもなんか面白くてずっと読めてしまうのが仲正さんの筆の力だと感じる。

 

あんまり色々と言うと自分もうるさい「ネット論客」になってしまうので控えるのだが、これは卒業した後に読んでよかったと思う。仲正先生のあまりにも正しいアカデミア然とする態度にちょっと辟易した感があるし、修士の途中とかで読んでいたらなんか心が折れていたような気がする。ただ、本書を通底する「言葉や概念の定義を正しく掴み(あるいはきちんと自分の中で一貫しているポジションを選択し)、それなりに難解な先駆者の理論や主張を自分勝手に矮小化や曲解することなくきちんと敬意を払って認識し、様々な問題に対して真の意味で建設的な言説を交わしていきましょう」というのは本当にその通りで、そういう手続きを学ぶために人文や社会系の大学のカリキュラムがあると自分は考えている。素人が知った顔して安易にフーコーとかを持ち出すのは危ないからやめた方がいい。かといって、フーコーをちゃんと読んだ人(そもそも「ちゃんと読む」って何ですか)だけがフーコーを語ってもいいのかというと、そんなことはないと思うけどなあ、というところに、自分はやっぱり厳密な意味での学者ではないのだろう。そんな感じの本です。面白かったです。

 

・ウィリアム・シェイクスピア『新訳 十二夜』(河合祥一郎訳、KADOKAWA、2011年。)

今年の後半は色々と思うことがあってシェイクスピア関連を精力的に勉強しようとなっているところで再読した一冊。

「シェイクスピア喜劇の頂点」らしいのだが、なんだか読んでいて全然入ってこなかった。戯曲の読み方って未だによくわかっていない。戯曲だけだとキャラクターがいまいち動いてくれないというか、演劇においてどのキャラクターが何なのかを覚えるには、視覚情報(衣装、芝居の付け方)と聴覚情報(声、話し方)に大きく依存しているような気がしていて、戯曲を読んでいてもそこが立ち上がってくれない感に結構悩まされている。

 

本作はジェンダーの問題も絡んでくるからなお難しいように感じた。ヴァイオラは男装してシザーリオと名乗る。当時の芝居では役者は男しかいないから、ヴァイオラ=シザーリオも男が演じることになり、ジェンダーの問題がかなり複雑化されている。シェイクスピアをジェンダーの観点から読むという研究は一大分野を作っていた気がするから、さもありなんという感じがする。

 

・カツヲ『三ツ星カラーズ』(8)

 

(C)カツヲ/KADOKAWA CORPORATION 2020

 

『三ツ星カラーズ』完結してしまった。寂しい。アニメ放送の2018年から3年ほど追いかけていたコンテンツだった。そこそこ長い付き合いだったように思う。

完全に後出しじゃんけん感あるが、以前カラーズオタクの後輩と「さっちゃんの本名は何か」論争をしていたときに、「さっちゃんはさきちゃんだろう」と予想していた。そうしたらさっちゃんは沙希ちゃんだった。特に何かあるわけではないがなんとなく嬉しい。

 

最後の話はアニメの最終回とリンクしている。完結だからと気負うことなくぬるっと終わっていくのがカラーズらしい。

黄瀬フルーツのモデルであるニューフルーツがアメ横から消えてしまい、確かインバウンド向けの食事屋になっていたことは本当に胸に迫ってくるくらい残念なことだったのだが、そんな上野の平和を今日もどこかでカラーズが守ってくれている。上野の街並みと気概を『三ツ星カラーズ』は惜し気もなく残してくれていてとてもいい。大好きな作品です。

 

・得能正太郎『NEW GAME!』(11)

(C)得能正太郎/芳文社

 

きららオタクになってから3年くらいが経っているが、やはり『NEW GAME!』が一番好きかなあ、という感じがする。『ごちうさ』『きんモザ』とかもすごく好きなのだが、本作は仕事がテーマになっているために自分の実存にも絡んでいる感じがして、仕事観は結構影響を受けているところがある。

 

11巻は久しぶりに初期の空気感が感じられる気がしてすごくよかった。表紙・扉絵から「今回はひふみ先輩全振りです」という作者の気合いが伝わってくるが、最近何となく空気になってしまっていたひふみ先輩の存在感があってよい。9巻、10巻くらいでギスギスやヒリヒリする展開も続いていたのだが、今回は久しぶりに全編渡って和気藹々とお仕事している感じがしてよかった。青葉さんも主人公していたし。というか誰かにフォーカスが当たると誰かが空気になる問題が相当発生していたのに、今回は全体通して全員にスポットライトが当たっていた上に、その中でひふみと青葉の存在感がひときわ立ち上がっているってすさまじい構成しているな。水着回から始まるのもファンサービス度が高い。大変よかったです。

 

・樫木祐人『ハクメイとミコチ』(4)(6)

(C)樫木祐人/KADOKAWA

 

最近『ハクミコ』を買い集めて読んでいる。『ハクミコ』はどの巻も物凄く充実感と多幸感に溢れているのに、読み終わったら寂しさやノスタルジーを感じてぎゅうっとなるのは何故なのか。

 

4巻では「大根とパイプ」が出色。アニメでも一番好きな挿話だった。ミコチとアユネの姉妹の物語。直接的に伝えることはせずに、薬指の指輪を見せることで結婚をほのめかすアユネと、そこのタイミングだけ「お姉ちゃん」と思わず呼んでしまうミコチの、その関係性の見せ方がとんでもなくうまい。無暗に台詞を積み重ねるみたいなことをせずに、スマートかつ自然にキャラクター造形を作り上げているところに、本作のキャラクターの生が濃密なリアリティを持って描かれている秘密があるのではないかと思う。ハクメイとミコチの関係性も、変に百合を持ち込むことなく、「同居人」のそれ以上でもそれ以下でもないことも含めて。

 

6巻は「夜更けのバー」の挿話がやばい。コンジュさんが歌姫で生計を立てられているところが本当にいいんだよな。なんて牧歌的で文化的な世界なんだ。というか、現実世界においても本来的に仕事はそうであるべきなんだよな。

 

・椋木ななつ『私に天使が舞い降りた!』(8)

(C)椋木ななつ/一迅社

 

7巻でお出かけ展開とかがあった反動もあってか、今回は全体的に大人しめだった印象がした。

松本とみやこ母の挿話はめっちゃ面白かった。他の人から見たら全然違う様子が見えるよね、という当たり前のことに改めて気づかされた。でも松本はマジでやべー奴だから母ちゃんが間に入ってストップさせた方がいいぞ。

 

+α

・相変わらず引きこもりテレワーカーをやっていますが、合奏練習が再開したり図書館通いをしたりと休日は外に出るのが楽しい日々を過ごしています。季節もいま最高ですね。金木犀のいい匂いで気分がいい。

 

・今期は久しぶりにリアタイをしたいアニメ作品が多くあってそこも楽しみです。筆頭は『ごちうさ』3期ですが、他にも色々とチェックするかも。アニメを観るならAbemaTVが一番いいんじゃないかという気もしているのでそこも要確認ですね。