わたしは最悪。 | にしくんの映画感想図書館

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★★★★★★★☆☆☆

2021年

監督  ヨアキム・トリアー

出演  レナーテ・レインスベ  アンデルシュ・ダニエルセン・リー

R15+

 

最悪かもしれなくても、人生を生きていれば見つかる答えがある

 

30歳という節目を迎えたユリヤ。これまでもいくつもの才能を無駄にしてきた彼女は、いまだ人生の方向性が定まらずにいた。年上の恋人アクセルはグラフィックノベル作家として成功し、最近しきりに身を固めたがっている。ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、そこで若く魅力的なアイヴィンに出会う。ほどなくしてアクセルと別れ、新しい恋愛に身をゆだねたユリヤは、そこに人生の新たな展望を見いだそうとするが……。

 

第94回アカデミー賞脚本賞、国際長編映画賞ノミネート作品。第74回カンヌ国際映画祭女優賞受賞作品。監督はヨアキム・トリアー。出演はレナーテ・レインスベ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー。

 

トリアーという名前を目にすれば誰しもがデンマーク映画界の異端児ラース・フォン・トリアーを思い浮かべると思うが、このヨアキム・トリアーは彼の遠縁にあたるらしい。ちなみに『わたしは最悪。』は彼が過去に撮影してきたオスロ3部作の3作目に当たるらしく、私は本作以外の作品は観ていない。

 

本作は12の章に物語が分かれて構成されている。実は映画の物語を章立てて展開するというのはラース・フォン・トリアーが自身の作品でよく使う手法だ。遠縁とはいえ確かに似ている部分はあるのかもしれない。しかし、映画の物語自体はラース・フォン・トリアーとは全く違い、一人の女性の日常を写し出したもので、ぶっ飛んだ作品ではない。

 

この映画は多くの部分において、性別の違いに関係なく、ユリヤという女性に共感できる部分がある。自分にはどんな才能があるのか、自分は何をしたいのか、好きな人が出来て幸せなはずなのに、なぜ違う相手を求めるのか。人生とは無い物ねだりの連続であり、その中で何を選んでいくのかということである。

 

加えて私たちは毎日大量の情報を当たり前のように、一方的に傍受している。その中で何が自分にとって最適なのか選ぶことは非常に難しい。例えば本作でユリヤと交際する年上の作家であるアクセルはユリヤと違い、手で触れられるものに多大な影響を受け、彼自身の芸術性をコミックで表現している。自分の芸術性に対して彼は絶対の芯を持っており、それを貫けるだけの意志も持っている。

 

それに比べるとユリヤはどうだろうか。ユリヤはその場その場の感情に流れをゆだねてきた。それはアクセルと別れた後も変わらない。アイヴァンという新しい男性との生活がスタートしたものの、彼女は自分が進むべき方向を定められないでいる。自分は何がしたいのか?まさに「最悪」という気持ちだっただろう。

 

劇中で2人の男性と愛を育み、生きてきた彼女は最後には一人になり、スチールカメラマンとなる。彼女が早い段階で捨てた才能だ。生きてきた中で身に付けた知識やスキルは必ずどこかで活かすことが出来る。色んな人を傷つけてしまった彼女の人生も間違いではなかったということだろう。過去を振り返るのでもなく、未来を模索するのでもなく、今という瞬間を写し出す写真の仕事を彼女が最後に選んだというのも非常に映画的だ。

 

ユリヤを演じたレナーテ・レインスベの好演も光る。ユリヤは言うなれば、どこにでもいる普通の女性だ。そんな彼女が魅力的に見えたのはレナーテ・レインスベの瑞々しくも、絶妙に生々しい演技があったからこそだろう。

 

性別は違うが、私自身も彼女の行動や考えに共感できる部分は多くあった。トリアーという監督の名前に構えすぎてしまった部分はあるが、普通に良い映画だった。是非。

 

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