エルヴィス | にしくんの映画感想図書館

にしくんの映画感想図書館

超個人的な映画感想ブログです。
観た作品のレビュー、映画祭・映画賞情報、アカデミー賞予想をメインにします。
作品レビューについては基本的にネタバレ有でなおかつ個人的な感想です。

宜しくお願いします!

★★★★★★★☆☆☆

2022年

監督  バズ・ラーマン

出演  オースティン・バトラー  トム・ハンクス

 

キング・オブ・ロックンロールの人生を煌びやかに描き出す

 

ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが……。

 

多くの歌手に影響を与えた稀代のアーティスト、エルヴィス・プレスリーの人生を描いた伝記映画。監督は『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン。出演はオースティン・バトラー、トム・ハンクス。

 

史上最も成功したアーティストと言われているエルヴィス・プレスリー。彼の名前を知らずともその曲を聞いたことは誰しもがあるだろうし、逆に音楽を聴いたことがなくとも彼の名前ぐらいは知っているという人は多いだろう。ビートルズやクイーンよりも活躍した世代としては上になる、ギネスにも「史上最も成功したソロ・アーティスト」として認定されている程だ。

 

この作品では彼のルーツから、トップスターになるまでと、そこからの苦悩を描いている。作品のボリュームとしても中々のものになっている。彼の幼少時代は極貧の状況だった。その中で彼の音楽性は、特に彼は黒人が多く暮らす街に住んでいたこともあり、黒人のブルースやR&Bが根底にある。そこに白人が謡うカントリーも組み合わせた、ロックンロールといった具合だ。そして誰もがやらなかったパフォーマンスである。ギターを持ってただ歌うと言う様な事はせず、彼は全身を、特に腰や足などの下半身を激しく動かすそのパフォーマンスで、瞬く間に人気を獲得していった。

 

そんなエルヴィスの最初の受難は、時代がその音楽性を許さなかったことだ。人種隔離法がまだ当たり前のように存在していたこの時代、黒人の音楽性を多く含んだ彼のパフォーマンスは、そのパフォーマンスの過激さも相まって当局からも目を付けられてしまう。表現の自由が許されないというのは、いつの時代も大変なものだ。

 

それでもトップスターとなったエルヴィスに待っていたのは、長年のビジネスパートナーであるはずだったトム・パーカーという男の強欲だ。エルヴィスの成功を第一に考えているようで、彼は自分がいかに儲けるかしか考えていない。悪徳マネージャーとしてかなり有名で、後年エルヴィスを殺した男とも言われることもあったとか。この作品はエルヴィスの人生を描いているが、基本的にはこのトムの目線で語られる。エルヴィスの家族も含め、完全にその支配下に置き、まるで蛭のようにお金を吸い尽くす。多種の薬の服用も彼の提案で行われたものだ。薬に溺れるようになったエルヴィスは、妻とも離婚している。エルヴィスの人生を操り、そして破壊していたのがトムだったわけだ。

 

この作品はエルヴィスの人生を描いた作品であるが、同時にトム・パーカーというショウビズ会の闇の権化のような男を描いた作品でもある。エルヴィスはその中でも素晴らしい成功をおさめたが、きっとトムのような男はあの時代にたくさんいて、むしろ失敗して言った人間の方がはるかに多い気がする。人間としては下種だったし、観ていて不快に感じる場面は多々あったが、一方で彼が吸っても吸っても出てくるだけのお金をエルヴィスに稼がせたというのは紛れもない事実である。

 

演技面ではエルヴィスを演じたオースティン・バトラーの演技はお見事。もちろん自分はエルヴィスの世代ではないが、それでもきっと彼はこんな風だったのだろうと思わせるほどに、魂が乗り移ったような演技だったしパフォーマンスだった。しかし、そんな彼をも上回る圧倒的存在感を見せたのはやはりトム・パーカーを演じたトム・ハンクスだろう。ハリウッドの中でも良心的存在である彼が見せる、胸糞悪い演技は本当にお見事としか言いようがない。太ったりと、メイクの力を借りながら、見事な演技を披露した。

 

バズ・ラーマン作品らしく煌びやかな衣装や派手な演出は良いとして、若干上映時間が長い気もしたが、波乱万丈のロックンローラーの人生を描くにはこれぐらいの時間はやはり必要だったか。まぁ退屈しなかったし、上映時間的には個人的には許容範囲内だった気がする。

 

『ボヘミアン・ラプソディ』以降、こうした偉大なアーティストの伝記映画が増えた気がするが次は誰になるのだろうか。そんなことも考えつつ、アカデミー賞好きとしてはこの映画が来年のアカデミー賞にどこまで絡むのかも注目したいところ。演技部門と美術部門が中心になると思うが果たして。

 

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved