★★★★★★★★☆☆
2020年
監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ゲイリー・オールドマン アマンダ・セイフライド
『市民ケーン』を書きあげた一人の男の真実。ハリウッド黄金期の内幕が描かれる。
社会を鋭く風刺するのが持ち味の脚本家・マンク(ゲイリー・オールドマン)は、アルコール依存症に苦しみながらも新たな脚本と格闘していた。それはオーソン・ウェルズが監督と主演などを務める新作映画『市民ケーン』の脚本だった。しかし彼の筆は思うように進まず、マンクは苦悩する。
名作映画『市民ケーン』がいかにして生まれたのかを描く、ハリウッドの内幕を描いた映画。監督は『ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャー。出演はゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、トム・バーク。
今もなお映画史上最高傑作との呼び声が高い名作映画『市民ケーン』。24歳の若者であったオーソン・ウェルズが作り上げたこの映画は、様々な物議をかもしながらも、今なお多くの映画人に支持される、まさにハリウッドが作り上げた最高傑作の呼び声が高い作品だ。そんな『市民ケーン』の脚本はオーソン・ウェルズともう一人、ハーマン・J・マンキーウィッツが務めている。後にアカデミー賞も受賞するジョセフ・L・マンキーウィッツの兄である。本作はそのハーマン・J・マンキーウィッツ、通称「マンク」がいかにして『市民ケーン』の脚本を書きあげたかが描かれる。
劇中で「2時間で男の一生を描くことは出来ないが、観たような感じさせることは出来る」というセリフが出てくるが、それはまさに本作に当てはまることで、本作はあくまでマンクがいかにして『市民ケーン』の脚本を書きあげたかが描かれるが、マンクという男がいかなる人物だったかが分かるような構成になっている。ハリウッドでも異端児だったマンクという一人の男が書きあげた最高傑作、その誕生の裏側にあった人間ドラマはハリウッドの歴史としても、物語としても非常に興味深い。
当時のハリウッドの内幕がとても興味深く、この時代はいわゆるハリウッドの「黄金期」に当たるわけだが、例えば絶大な力を持っているスタジオ。ルイス・B・メイヤーが自身のスタジオのことを「天国よりも多くのスターがいる」と言ったセリフが登場したり、映画製作においてスタジオに所属するという事がいかに重要であるかを物語っている。一方で組合はまだ発足したばかり。こういった歴史を垣間見ることが出来るのも面白い点だ。
マンクは一見するとかなり面倒なオヤジに見えるが、ゲイリー・オールドマンが演じたこの男は、どこか愛らしさがあるのが大きなポイントだ。アルコール依存症のダメな男かも知れないが、やはり天才というか、芸術の才能というのは実はこういう男の方が持っているもので、『市民ケーン』はオーソン・ウェルズ一人で作り上げたという印象が強いかもしれないが、実はその設計図たる脚本を書きあげたのはマンクだったという事である。
マンクは天才である一方で偏屈な男かも知れないが、実は優しさと正義感を持ち合わせている男だという事も分かる。妻であるサラや、脚本執筆中に彼の世話をするリタ、そしてマリオン・デイヴィスには紳士的に接していたし、自分の友人や大切な人にはその優しさを見せていた。彼は思った以上に人懐っこい性格なのだろう。そんな愛らしさを感じることが出来たのはゲイリー・オールドマンの見事な演技があったからに他ならない。マンクが抱える苦悩や、その奥に感じられる強い信念を見事に体現している。
もう2人忘れられない役者がいる。マリオン・デイヴィスを演じたアマンダ・セイフライドとオーソン・ウェルズを演じたトム・バークである。大きな瞳を持つアマンダ・セイフライドは、『市民ケーン』のモデルになった新聞王ハーマンの愛人でもあった女優マリオン・デイヴィスを演じたわけだが、往年の美人女優を見事に演じている。マリオンの持つ愉快で妖艶な、でもどこか儚げな雰囲気を持つ女優を見事に演じている。そしてそれ以上に短い登場時間で強烈なインパクトを残すのが鬼才オーソン・ウェルズを演じたトム・バークだ。画面に出てきた瞬間の迫力と貫禄が半端じゃなく、「オーソン・ウェルズ」という役柄に強い説得力を与えている。実はこの映画の中で誰よりも強烈なインパクトを残しているのは彼ではないかとさえ思えるほどの迫力だ。
本作はデヴィッド・フィンチャーの父であるジャック・フィンチャーの遺稿を映画化したものである。何とも素敵なストーリーではないか。まさに「映画という魔法」ってやつだ。そんな作品を気軽に配信サービスで観れるのだから良い時代になったものである。第93回アカデミー賞最有力と言われている本作、どこまで躍進するのか。そういった意味でも注目の作品である。是非観て頂きたい。