(優生保護法)
・1948年制定(国会が議決)
・身体障害者や知的障害者、精神障碍者およびハンセン病(当時は不治の伝染病とされていた)が不良な子孫を残すことを防止するため、不妊手術を(実質)強制。
(優生保護法に基づく強制不妊手術)
・1948年以降1993年までの48年の間に少なくとも2万5000人に実施。うち少なくとも1万6500件で本人の同意なし(ハンセン病は戦前期より実施)。
・驚くべきは「1993年」までやっていたこと
(実施件数推移)2018年の東京新聞より図表を目視で読み取り
50年250件→55年1,362件→60年800件→65年500件→70年300件→75年100件以下
*53年~58年が四捨五入で1000件以上、80年以降はほぼ数件
(県別)
①北海道2,593 ②宮城1,406件 ③岡山845 ④大分663 ⑤大阪610
⑥静岡530 ⑦東京483 ⑧山形445 ⑨神奈川420 ⑩埼玉405 ⑪長野387
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㊵山梨55 ㊶茨城54 ㊷長崎51 ㊸福井37 ㊹群馬21 ㊺奈良20 ㊻鳥取11 ㊼沖縄2
(優生保護法の廃止と被害者の救済)
・1996年に「母体保護法」に改正され、優生手術の規定を廃止
・2019年に、被害者に対し一時金(320万円)を支払う「救済法」が成立
(海外事例)
・ドイツ遺伝病子孫予防法(1934~45年) 約36万人 補償金(約60万円)
・スウェーデン 不妊手術に関する法律(1935~75年) 約2万7000人 99年補償金(約200万円)
ここまでのところでコメント
(1)実際に不妊手術をした医師及び精神科医などは、途中でおかしいとは思わなかったのだろうか。1948年の法制定時にノリノリな医師たちがいたことはハンセン病資料館でわかるのだが。まず、医師や学者の倫理観はなぜ問わないのか。
(2)実施時期の偏りをみると、医師たちも、遅くとも70年代にはおかしいと気づいたいたはず。また、県別の偏りが異常。人口比まで考えると関東は抑制的。北海道、宮城、岡山は完全にイケイケである。当時、むしろ障害者の待遇改善を積極的に行っていた結果の可能性が指摘されている。要するに先端的な「優生思想」に基づいた医療行為だった可能性がある。私は、過剰な革新主義とか左翼は大嫌いな理由もことにある。
さて、今回の最高裁判決。まあ、5高裁で東京高裁を含む4高裁で違憲判決が出ているような状態で、意見判決は予想通りだろう。ただ、なぜ大法廷であったか。平成元年判決の判例変更なのかなあ、とおもう一方で、最終的には重要判決だからということだろうが、ちょっと気になる。
判旨のうち、「立法時点で憲法違反」というのはちょっと疑問が残るところ。まあ面倒くさいからそうしたのかな。
関心は「除斥期間」のところ。
私が大学法学部在学時(昭和60年代)は、消滅時効と除斥期間の相違がわかればいいくらいのテーマであった。そもそも「除斥期間」は民法にはない用語であって、学説上、特定の条文を「消滅時効」「除斥期間」と解釈するようなものであった。案外、あやふやなものなのだ。
今回の判決は、憲法違反で重大な人権侵害事案について国が除斥期間であることを主張するのは権利の濫用で許されない、とした。
しかし、平成元年判決では、除斥期間は、当事者の主張は不要で、裁判所が職権で採用してよいから、そもそも「権利濫用」の概念とは相いれないとまで言っていた。とするならば、今回は、判例変更であったと考えざるを得ないのではないか。
なお、意見として、宇賀判事(元東大教授(行政法))は、除斥期間を議論せず、不法行為請求権は消滅時効にかかるが、本件では消滅時効の主張は権利の濫用であって許されないとした。
道理からすると、宇賀判事の説明がすっきりする。そもそも、除斥期間といった画一的な権利確定を行おうとしているのに、民法上に要件も効果も明示していないことに問題があるのだ。
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賠償額について
・2019年救済法320万円に、今回の請求額1500万円₊弁護士費用150万円。
・救済法による一時金受け取りは1300人程度なので、国庫から42億円支出済。
・「強制」とされる1.6万人の1割程度にとどまるが、たぶん生存者が少ないこと、本人および関係者も改めて偏見に遭う可能性もあるためだといわれている。
NHKの解説委員は、とてつもなく気持ち悪い
・この件について、とにかく国を批判しつくしたうえで、「国は、被害者を掘り起こすべきだ」と真剣に訴えていた。
・「掘り起こす」? NHKの受信料じゃあるまいし、人の心というものがないのか。
・まず、NHKが取り組むべきは、重大な人権侵害が行われていたのに、どのような報道をし、またしてこなかったのかを問うべきである。
最後に
・およそ、国の責任を問うとなると、やたらと威勢のいいことをいうマスコミや国民がいるが、「それって税金から出ているからな」ということを忘れずに。
・それと「国が謝罪せよ」とかいうけど、「当事者はもう死んじゃっているから」ね。この謝罪は、行政府というより、立法府の問題であることを忘れていけない。