京都地裁は、被告人の医師に対して、ALS患者に対する嘱託殺人罪などで、懲役18年の有罪判決が出されたと報道しているが、ちょっとミスリードだなと思う。

 

(起訴事実)

(1)知人の父(当時77)の殺人と

(2)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)の嘱託殺人罪

 

(判決)

両方とも事実と認め、懲役18年(求刑懲役23年)


殺人罪の法定刑は、死刑、無期懲役、3年以上の有期懲役である。一方で嘱託殺人罪は6か月以上7年以下の有期懲役または禁錮である。

 

本件のように二つの犯罪について処罰する場合は「併合罪」ということになり、まとめて刑罰を決める。

 

本件の報道では、あたかも「嘱託殺人が懲役23年」と印象付けるような言い回しを多用しているが、常識的に考えれば、大半は殺人罪の部分だろう。

 

検察側は、安楽死についてほぼ殺人というニュアンスの主張であったが、依頼者は明確に意思を示しており、殺害方法も残酷とは言えないと認定している様子である。また、被告人は、依頼者にはじめて会ったのにろくに診察もせずに殺害した点に反倫理性を主張していた。ただ、自らの法益を放棄する意思表示を認定しており、検察の主張はどうなんだろうか。

 

最高裁や高裁などに、安楽死の判例がいくつかあるが、安楽死を合法とする要件を示すがほぼ無理である。また、かつては末期がん患者の耐え難い苦痛が問題であったが、現在では医療用麻薬の適正使用により大幅に緩和されているようだ。

 

こうなると、安楽死の問題は、意識が明瞭だが、時間経過とともに身体が言うことをきかなくなることが確実と見込まれるような、ALSなどが焦点になりやすいと思われる。しかし、一方で、ALSでも適切な看護体制や支援体制を組むことで人生を全うすることは十分可能であり、安易な安楽死議論は極めて問題が大きいとの批判はあり、もっともである。

 

さて、2019年にNHKで、日本人女性のALS患者で、人工呼吸器と胃婁の設置を求められる段階に至り、判断能力が十分で、海外移動に耐え得る限界と見定めて、自らスイスの専門機関に申し込み、安楽死したケースの取材が放映された。ちなみに彼女は自殺未遂を繰り返していた。

 

この番組はかなり衝撃的で、最期は、病室で家族と食事をし(ワイン飲んだりして)たあと、医療関係者が、英語で安楽死の意思確認を行い、その後に点滴を設置、輸液に塩化カリウム(たぶん)をまぜて、自らスタートボタンを押す。しばらく意識があり話をしているが、そのうち意識を失ってしまうというものだった。

 

*限界的な場面で英語でやりとりできないと安楽死はできません。

 

なお、例の歌舞伎役者が、両親の自殺ほう助に問われた事件では、懲役3年執行猶予5年であった。本件判決と比較すると、私はかなり違和感があるのだ(被告人が証拠隠滅してしまっていて起訴が難しい事案であった可能性がある)。