なぜか最近、ロシアものが続いております。

ま、「戦争と平和」を読んでいるからなんですが。

 

それはさておき、理代子先生の大作でございます。

18世紀ロシアに君臨した女性、エカテリーナの生涯を描いた作品。

 

このエカテリーナ、まあいろいろすごい。

まず、ロシア人ではない。ドイツから嫁いできた、言ってみれば

外国人である。

 

だが、「わたしには分かるわ ロシアの玉座がこのわたしを

坐らせるために待っているのが……!」

と、言い切るのである。

な、なにを根拠に、などとびびるのは私が凡人である証拠なのだろう。

ほんとに玉座に座るのだから、この人は。

 

もちろん、ただ漠然とそのときがくるのを夢見ていたわけではない。

地道に勉強などの努力を続けていたのだ。

 

ふひい、すごいっす。

 

私生活では夫には恵まれなかったが、

そのじゃまな夫を排除し、自らが即位する。

(その後、夫は暗殺される)

 

この夫、ピョートルは、顔、頭、性格すべてが悪い男である。

ついでに女の趣味も悪い。

愛人も、ピョートルに似た、ダメ女。

 

まあ、この男はおそらく自分が皇帝の器ではないと

本能的にわかっていたのだろう。

だが、皇室に生まれた以上、将来は決まっている。

そこから目をそらそうとして、享楽的にふるまっていたのかもしれない。

 

せめて、自分にはトップにたつ才能はない、と認めていたら、

もっといい人生だったろうに。

 

せっかくトップにたつ気まんまんの女性が嫁いできたのだ。

政治は彼女にまかせ、自分は趣味に生きればよかったのに。

 

お互いに、得意分野が違うことを認め合いながら、

尊重しあって夫婦を続けていけばよかったのになあ。

 

自分の才能のなさを認めるのは、なかなかつらいことではあるが。

 

さて、エカテリーナは夫には恵まれなかったが、

愛人関係のほうは華やかだった。

 

この人が立派なのは、若き日の手痛い失恋から、

「男性を決して自分の世界の中心としてはならない」

と心に決めたことだ。

 

女帝として、絶大な権力を手に入れ、

次々と若い男たちを愛人にしながらも、

それはあくまでも「趣味」みたいなものであった。

 

ちなみに、理代子先生がさまざまなインタビューなどで

答えているのことなのだが、

現代の男性の研究者は、エカテリーナのことを不幸な女性だというらしい。

 

夫に恵まれず、その後、愛人多数。

誰か一人を生涯愛し続けるということはなかったからだという。

 

それに対し、理代子先生は「男の王が、若い愛人をたくさん作ったら

不幸だと言われるだろうか」と反論したという。

 

ははは。さすがだ。理代子先生。

 

そんな恋多きエカテリーナではあるが、

最良のパートナーはポチョムキンという10歳年下の男であった。

ロシアを治める政治面でも重要な地位におり、

エカテリーナ自身も「本当の夫」と言うほどだった。

 

ふたりはそのうちに、男女の関係は終わり、

それぞれ別の愛人を持つようになる。

だが、それでも性愛を超えた信頼はあったのだろう、

ポチョムキンの地位は揺らがなかった。

 

これはこれで一種の理想の関係だと思うなあ。

 

だが、そんな理想的な関係も終わっていく。

年老いたエカテリーナは、若い愛人にのぼせ上り、

その男に地位を与えたりする。

 

ポチョムキン自身も

「あの青二才に完全に敗れ去ったのだ」と自覚する。

 

これはエカテリーナが、ポチョムキンを雑に扱った、ということだろう。

 

誰だって、雑に扱われたらプライドが傷つく。

自分のほうは、相手を大切に思っていたならなおさらだ。

 

このあとポチョムキンは失意のうちに世を去る。

 

そしてこのころ、エカテリーナは執政者としても態度がぶれていく。

フランスで革命が起きると、ロシアに影響が及ばぬよう、

焚書したりもする。かつては啓蒙思想に理解があったようなのに、だ。

 

孫のアレクサンドルは、そんな祖母について

「青年時代の純粋な夢は 老齢によって例外なく 圧し潰されてしまうのか!?

だとすれば 老いるとは 何と醜いことだ……!」

と涙ながらに思う。

 

この作品は、偉大な女帝の偉大な部分だけでなく、

最期の醜さまでも冷静に描いている。

 

こういった、ある意味、容赦のなさというのが、

歴史ものや伝記ものを描くのに必要な才能なのだろう。

 

あと、やはり豪華なファッションや髪型など、

まんがとしての見た目を重視しているあたりもさすがである。

 

ふと思ったのだが、

いつか、遠い将来に誰かが理代子先生の伝記まんがを描くかもしれない。

そのときどんなふうに描くのか、想像しがいがあるなあ。