先週に引き続き、池田理代子先生の「栄光のナポレオン」の感想です。

 

「ベルばら」など、かつての理代子先生の少女マンガに比べたら、

キャラクターに憧れたり、感情移入する、という感じはあまりない作品ではあります。

 

だけど、やっぱりいいキャラもいるのよね、当然ですが。

 

なんといっても、ナポレオンの妻であるジョゼフィーヌがいい。

年上の子持ちで軽薄で浮気性。パーティー好き、派手好きであり、

浪費癖もある。

夫であるナポレオンのことも、別に愛してはいない。

(後に本当に愛するようにはなるが、

そのころにはナポレオンのほうが気持ちが冷めていた、という皮肉)

 

って、いいとこないやんけ~

とも思えるが、なんだか可愛いんだなあ。

明るく社交的で、おしゃれで、人懐っこい。

 

ナポレオンが皇帝になったあと、子どもができないことを理由に

離婚させられてしまうが、元夫を恨まない。

 

のちにナポレオンの愛人が、自分の屋敷を訪ねてくるが、

(この女性もナポレオンに捨てられた。優しい人なのになあ)

快く受け入れる。

 

「共に同じ人を愛し そして…

同じ人に捨てられた女どうしですもの…

(略)しみじみと語りあかしましょう」

 

ええ人やなジョゼフィーヌ。

 

この日は女ふたりで元彼の悪口でも言い合ったのかなあ。

「だいたい、あの人は昔っからねえ~」とか。

言ったれ言ったれ!

 

以前から思っていたのだが、理代子先生は女どうしの関係とか、

いろんな女の人の多様な内面を描くのが本当にうまい。

女子校ものの「おにいさまへ」とか、大好きですよ。

 

ここでジョゼフィーヌが、元夫の愛人に対し偉そうにふるまったら

やっぱりつまらないというか、平凡な作品になりそうだ。

 

「実録! 別れた妻と捨てられた愛人の泥沼の戦い!」

とかいった感じのサブタイトルがつきそうだ。

(私、そういうジャンルに詳しくないため、

しょーもなさすぎるサブタイですみません)

 

もちろん、実際にジョゼフィーヌは元愛人にも優しかったのだろう。

それをちゃんと説得力を持って描いたのは理代子先生の力である。

 

そして、新しく皇后になったマリー・ルイーズもまた数奇な運命であった。

 

オーストリアの皇女で、わずか18歳で40歳のナポレオンに嫁ぐ。

祖国では、ナポレオンは恐ろしい鬼のような男だと聞かされていたのだが、

国のために泣く泣く嫁ぐのである。

 

その後はナポレオンとそれなりにうまくいき、子どもも生まれる。

だが、ナポレオン没落後は新しい男をあてがわれ、そちらとそれなりにうまくいく。

 

こんなふうに説明すると、初期のジョゼフィーヌ以上に

軽薄なようにも思えるが、

これがマリー・ルイーズなりの生きる知恵なのかもしれない。

 

皇女として生まれた自分には意志など持てない。

政治の道具として扱われる、という自覚はある。

 

「食人鬼」だと教えられた男のもとに嫁がされた身なのだ。

実際のところ、ナポレオンを愛したのかどうかすら、

自分ではわからない。

 

自分の目の前の運命を受け入れることにしたのだろうなあ。

 

もちろん、本作はそこまで細かくは描かれていないのですが、

なんとなくそういう想像をさせてくれる。

 

決していい人ではないけれど、憎めないのだなあ。

 

ジョゼフィーヌとマリー・ルイーズは

直接には出会ってないけれど、ぜひ会ってみて、

元夫の悪口を言い合ってほしかったぜ。

 

ジョゼフィーヌの人のよさからして、

どちらがよりナポレオンに愛されたか、なんてつまらない

マウントはしなさそうだし。

 

あ~、ほかにもナポレオンの身内の強欲さとか

(英雄も愚かな身内に悩まされるものなのね)

 

むしろ、ジョゼフィーヌの連れ子たちがいい子だったりとか、

 

「ベルばら」生き残り組であるロザリーや息子のフランソワのその後とか、

まだまだ言いたいことはありますが、

とりあえずここまで。