このまんがは1994年少女まんが誌「LaLa」に「封印」という

タイトルで始まりましたが、

途中から「コミックトム」に移籍し、「ツタンカーメン」として再連載されました。

 

実は当時、私は「LaLa」を読んでいたのですよ。

正直、「封印」はあまり盛り上がってないな~という感じはありました。

 

本作は、ツタンカーメンの墓を発見することに

人生をかけた男の物語です。

 

あの有名な「日出処の天子」のような愛憎ドラマを期待すると、

たしかにちょっと戸惑うでしょう。

 

主人公であるハワード・カーターは、エジプトの遺跡発掘に夢中で、

故郷のイギリスにもぜーんぜん帰国しない。

 

彼にとっては発掘が人生のすべて。

人間関係も発掘のためのもので、あまり執着していない。

 

心惹かれる女性はいたが、(その女性もハワードが好きだった)

なんだかんだで告白もしないまま淡い関係は終わる。

 

別にハワードは発掘のために、泣く泣く恋をあきらめたわけではない。

発掘ほどには恋に夢中になれないのだ。

 

う~ん、そりゃあ少女まんがでは受けない展開だな。

(このあたりの展開は「LaLa」ではなく、「コミックトム」に掲載)

 

ハワードには、恋も名誉も金も権力も必要ない。

ただ、古代エジプトに魅せられ、生涯をそれに賭けた。

 

そこまでしないと、ツタンカーメンの墓を発見という偉業は

成し遂げられないのか。

 

私には無理だ。そりゃそうか。

 

というか、ハワードも別に無理しているというのはなく、

自分が本当に好きなものに出会った、

それ以外のものはあまり重要ではないのだろう。

 

ハワードにとってはこういう生き方がベストなのだろう。

それはそれでうらやましい気もするが。

 

ふつうはそこまで好きになれるものに出会えないし、

出会ったとしても、現実として生きるために

特に好きでもない仕事につくとか、

世間体を考えて結婚するとかになるだろう。

 

あと、やっぱり発掘をするなら、多少は功名心とかあっても不思議ではない。

 

ハワードが純粋に発掘だけに人生をささげた人物だったからこそ、

数千年眠っていたツタンカーメンの墓を発見することができた。

 

ところで、ツタンカーメンといえば「呪い」でありましょう。

このまんがでも、墓の発掘に関わった人間の何人かが亡くなっている。

 

それを山岸先生お得意(?)のホラー的展開で解決…

な~んてことはなく、呪いの謎は謎のままです。

 

そ、そんなあ、とも思うが、もうここは不可解なままなのはしょうがない。

だって、墓を発見したハワードは呪われていないのだし。

 

この「呪い」に関しては、文庫本2巻の中沢新一さんの解説が面白いです。

ツタンカーメンとしては、

歴史の中で忘れられた自分や、豊かな副葬品を見つけてほしい、

だが、永遠の眠りを妨げないでほしい。

 

その矛盾が、墓の振動という不思議な現象としてあらわれた。

そのせいで死んだ人と死ななかった人の違いは、

単なる偶然のような気がする。←あ、これは私の解釈です。

 

そしてこのまんがでは、「カー」という不思議な美少年が出てくる。

身元も確かではないこの少年は、

ツタンカーメンの魂の一部のように見える。

生まれ変わりというのは大げさだが、何かを持っている。

 

彼は墓が揺れると良くないことなどを知っており、

それをハワードに教えたりする。

 

あ~、もしハワードとこの美少年の関係をもっと描いていたら、

LaLaでももっと人気が出たかも…と、思わないでもないが、

山岸先生は「日出処の天子」的展開は描く気がなかったのだろうな。

 

で、このカーという少年は、

物語の後半、つまりツタンカーメンの墓が発見されそうな展開になると、

出番がなくなる。どっかへ行ってしまった。

 

作者が忘れた、というのではもちろんなく、

ツタンカーメンの魂の一部をもつ、という役割を終えたと解釈したい。

 

墓が発見されれば、彼の役割は終わり、もうふつうの人間として生きていくのだ。

でもあんまり幸せになれそうもない感じだったなあ。

 

なんとなく、「テレプシコーラ」の空美(くみ)ちゃんを思い出してしまった。

あの子も、主人公に重要な気づきを与えたにも関わらず、

その後はどうなったのかはっきりしない。

 

そういうすっきりしない、ある意味、残酷さを描くのが山岸流だ。

 

あと、また最後にくだらない話を。

主人公のハワードは、けっこう美形に描かれている。

最終的には40すぎてるのに、トシとってない。

 

主人公なんだからそれでいいのだが、

山岸先生の、その後の長編まんが

「青青(あお)の時代」「テレプシコーラ」「レベレーション」などでは

美形の男がほとんど出てこないことを考えると、なかなか興味深い話だ。

 

現時点で、山岸まんが最後の美男主人公か。