先週、中野翠さんの新刊本を読んだのをきっかけに、

これまで集めた中野さんのコラム集を押し入れから引っ張り出してみました。

 

中野さんは1985年から「サンデー毎日」にコラムを連載開始。

なーんともう38年も続いてるのね。すごすぎる。

 

今回は、連載初期あたりから、90年代後半ぐらいまでの約10冊分を読みました。

何冊かは抜けていますが、ご了承くださいませ。

 

もちろん、時代を感じるところも多々ありました。

でも個人的にはそんなことより、今も変わらない部分のほうが面白かった。

 

例えば「私の青空」(1989年あたりの出来事をまとめている)P33。

ある有名な女性の学者の文章について。

 

まじめな文章のなかにいきなり

「……だもん」とか「……するなよ」といった、

乱暴言葉を使っているらしいのだが、中野さんによると、

乱暴なだけで、お茶目にも軽快にもポップにもなっていないという。

 

「乱暴言葉の洗練度が低い」そうな。

 

で、そういうところをほかの女性の作家さんに

「いささか若造りすぎる薄汚い表現」とつけこまれたりするらしい。

 

あ~らら……。

 

でも、こういうことって、今でもインテリ女性にときどきあるのよね。

私も以前読んだある本で、女性の作家さんがそういう書きかたをしていたのよ。

 

おそらく、「私は真面目で、お堅いってわけでもないのよ。怖がらないで」

ということだろうと思うけれど、

ふつうに書いてくださいな。読んでるこちらがつらいので。

今のままのあなたでいいのです。

 

中野さんが取り上げた女性の学者さんは今でも超有名で、

私も最近このブログで著書の感想を書きました。

その本はふつうに真面目な文章だったので、

いろいろな試行錯誤のうえ、ご自分なりの文章を確立されたのでしょう。

よかったよかった。

 

ちなみに、中野さんは連載開始当初は、ちょっと張り切ってる感じというか、

わざとくだけた感じの文章にしているのかな、

と思ったりもしましたが、すぐに「中野スタイル」とでもいうべき

軽快な文章になりました。

 

ほかに面白かったのは

「クダラン」(96年ごろ)P355

あ、これは「サンデー毎日」ではなく、「クレア」に連載されていたものですが。

まあいいや。←いいかげん。

 

とある人気女性歌手のことを

「偉大なる陳腐」「不屈の三文小説」と言い切る。

その人のロマンティシズムは、すごく出来の悪い少女マンガだと。

「型にはまって、創造性皆無で、甘さだけはたっぷり」と。

 

ははははは~。

 

いやあ、まあそこまで言い切られたら、はい、「わたし負けましたわ」と

無意味な回文をつぶやいてしまうではないですか。

 

この女性歌手は、一時期はゴシップの女王のように言われていたのですが、

そこまでいろいろ言われたのも、この人の欲望の方向性がわかりやすかったからなのよね。

 

欲しいものは男、美貌、色気、同性からの支持、結婚という安定、子ども…という感じで。

そのわかりやすさこそが人気の秘訣であり、

からかいの的だったのだろうけど、

そこを具体的に言葉で説明した中野さんはやっぱりプロだな。

 

 

こういう、そのときどきの時代の流行に合わせたコラムは、

読者に対していい解説者になれるかどうかが肝だと思う。

 

読者だって世の中のあれこれに対し、思うところは多々ある。

だが、なにぶん素人だからうまく言語化できない。

知識も語彙も不足している。あと、思考の深さも。

で、結局「もやもやする」ぐらいしか言えないのだ。

 

そこを言葉のプロが説明してくれる。

読者としては「そうそう、それが言いたかったの~」

というスッキリ感が得られる。

 

ここで、プロが説教くさくなく、さらりと解説できるかどうか。

いかにも無知な大衆に教えてやるぜ、的なものは支持されない。

「自分は辛口だから~」とか言って勘違いするライターもいるし、困ったもんだ。

 

ついでに言うけど、キャリアが長く、知名度十分な作家のなかには

トシとると説教モードに入る人いますよね。

自分よりも若い読者に対し、人生論とか語る人。

そういう本がうっかりベストセラーになったりする。

 

あれ、好きじゃないなあ。

 

なんだか中野さん言うところの「偉大なる陳腐」とか「創造性皆無」

とかに通じるものがある。

わかりやすすぎるんだよね。

 

説教って、するほうにはある種の快感があるように思える。

偉い作家さんだったら、今さら誰も直接ツッコミ入れられない。

 

そりゃ作家さんのほうは、言いたいこと言えて気持ちいいだろうなあ。

説教を聞くほうも、有名な作家さんのお話だからと有難がるし。

 

そういうことを考えると、説教モードって、なんだか安易な仕事のような。

 

そりゃ、名を成した人が、その後どんなふうに仕事をしようが

私がとやかく言うことではないけれど。

 

中野さんはそういうところが一切ないのもいい。

38年前から現在まで仕事のスタイルは変わらない。

 

きっとご本人としてはそういうふうにしかできないから、

といったところだと思うが、

その内面的な意味での足腰の強さ、ブレなさこそが

中野さんである。

 

これからも、時代を定点観測する中野さんを定点観測していきたい。