書評家の三宅香帆さんが編集した

「働く女性」をテーマにした短編アンソロジーです。

 

現代を代表する7人の女性作家さんたちがそろっているのですが…

 

私は現代作家さんの小説はほぼ読まないし、

短編は苦手だし、アンソロジーも読まない。

 

おお~い、いきなり否定から入るんか~い。

じゃ、なんでこれを読むのだ、というもっともな問いに答えよう。

(誰もそんなこと聞いちゃいないが)

 

単純に香帆先生のファンなので、

どんな作品を選んだのか知りたかった、ということと、

これをきっかけに、自分の読書の幅も広がるかも、

というわりとまともな気持ちからだ。

 

で、購入してまずは巻末の解説から読みました。

たいてい私はここから読みます。

作者のあとがきとかから読むこともあり。

 

ここから読むことで、本全体の傾向というか、

何をどうしたくてこの本を作ったのかが、だいたいわかると思うので。

ちなみに私はネタバレOK派だ。

 

そして香帆先生はこの解説でやっぱりいきなり(?)パンチをかましてくれた。

この本は同時発売の「僕たちの月曜日」という働く男のアンソロジーと対になっているのだが、

このことについて述べている。

 

働く男は「月曜日」で働く女は「金曜日」

香帆先生の言葉を引用すると、

「いまだに女性の仕事は(略)仕事以外のことをする時間と、

仕事をする時間を、天秤にかけながらやっていることだと思われているのではないか」

 

そうだよね、そういうことなんだよね。

私などは割り切って、毎日たましいが「金曜日の夕方」(帰宅後と休日のことしか頭にない)

なんだけど、当然そんな人たちばかりではない。

 

仕事が生きがいではなくても、

ただ、ちゃんと働きたい。性別や年齢によって差別されることなく

働きたいだけなのだ。

そんなシンプルなことすら、まだまだ難しい世の中であるのだが。

 

 

さて、7人の作家さんたちの作品を読んで思ったこと。

それは「まんがの影響を受けた作家」というものだ。

 

なんというか、おそらくこの人はまんがをたくさん読んで育ったのだろうなあ、

と感じる作風がいくつかあった。

 

別にそれは

「ドカーン」とか「バギューン」とか「ズドドドド」とか、

そんな擬音が多い小説のことではない。

(どんな仕事の小説だよ)

 

具体的に説明しにくいのだが、なんというか

場面転換のやり方とか、セリフのやり取りとかが、

まんがをあまり読んでいないであろう作家さんとはリズムが違うのだ。

 

漠然としていて申し訳ない。

 

私がこんなふうに感じるのは、ふだん読む小説が外国の翻訳ものだったり、

日本の作品でもやや古いもの(といっても遠藤周作さんあたり)が多いからだろう。

そういう作品とは明らかに空気が違う。

 

もちろん、まんがの影響がいいとか悪いとかの話ではないです。

 

まんがは、描かれた時代の絵柄の流行とかがとてもわかりやすい。

大むかしの少女まんがはきらきらお目々が主流だったとか。

 

それに比べると、小説というか文章は流行がわかりにくい。

単にその時代の流行語を使うかどうかということではない。

 

だが、「まんが」という絵と言葉で表現されたメディアが、

言葉だけで表現された「小説」というものを少しずつ変化させているのだなあ、

としみじみと実感してしまった。

 

ほんと、具体的に説明できなくて改めて申し訳ない。

 

たぶん、数十年前ぐらいまでは、まんがというのは小説よりも低レベルだと思われていた。

 

だが、まんがの影響を受けた人たちが小説家になり、

優れた作品をたくさん作っている。

 

素晴らしいことではないですか。

そう思えただけでもこのアンソロジーを読んだ意味はある。

 

だが、私が一番面白いと思った作品は

世代的にまんがの影響をほぼ受けていないであろう

田辺聖子さんの「美女山盛」であった。

 

おいおい、今まで書いてきたことは何だったんだい、と思われそうだが。

どうもすみません。最終的には好みの問題でもあるし。

 

美人でないヒロインが、

職場の美人と、彼女にデレデレするアホな男たちを

冷静さとユーモアをもって観察するさまは痛快というか、読んでて気持ちよかった。

 

やや古い作品ではある。セクハラ満載だし。

だが、「ルッキズム」といういまだに続く問題を扱っており、

こういう作品を選んだ香帆先生のセンスとこだわりを感じる。