ストレス 2 ( 後半)
---前回より続く---
そんなこんなで忙しい月曜日の朝も始まった。電話が次第に沢山鳴り始め、ケラリンの電話は一台の電話で2本のラインが引いてあるので、一方の電話を取っていても2本目にかかってくると電話がリンリン鳴るのである。じゃあ、なんのために2本ついてるのかというと、「その件はあの部署に聞いてみないと分かりませんねえ」というときに、1本目の電話を保留にして2本目で電話をかけるために2本ついているのだ。しかし、そうやって一本目の電話中にもう一本の電話が入ってもダイジョーブー。
アメリカのビジネス電話は進んでいるので、一人一台は当たり前だが、その電話に留守電がついているのだ。電話に出れないほど忙しくてもメッセージを入れてもらえばその要件にしたがって回答を持ってお客様に電話ができるという、とてもアメリカン合理主義に基づいている電話なのである。
だから、人の電話が鳴っていても別にとる必要もないともいえる。
そして忙しさもおちついてきた昼下がり、
「Oh、ケラリンさん。畑中さんの電話、メッセージランプついています。メッセージ入ってます」
「.....」
だから?って言いたい気持ちを押さえて、あえて仕事を中断しないケラリン。
コトラ氏としては、「電話のメッセージ入ってる。それを聞いて対処してください」ということをケラリンに言いたいのだ。ケラリンは一万も承知だ。しかしケラリンとて忙しいので、気づいた「アタナ」がメッセージを聞いてお客に電話するなりすればいい、と思うのだ。それに、ミッチのいない間のカバーをするアシスタントはタカコさんなので任せておけが良いのである。
しかし最小限の仕事をすることを日々のモットーとし、毎日これ、いかに平凡に過ごすかということに目標を置いてるコトラ氏としては、そんな余計なメッセージを聞いて仕事が増えちゃったら、場合によっては帰る時間が遅くなる可能性が出てきて、ひいては今日の寝る時間が遅くなり、明日の早起きに影響する、大きな一因になるので余計な仕事はしたくない、というところである。だから、他人に「メッセージが入っていますよー」と電話機に代わって教えてあげてるのだ。
それでもケラリン忙しくて仕事を中断しないでいたら、コトラ氏ようやくメッセージを聞いている。
「ケラリンさん。このメッセージの日本語むずかしい、よく聞き取れない、ちょっと来てくださ~い」
なんとしてもケラリンにメッセージを聞かせたいのだ。
まあ、日本語にハンディのあるコトラ氏、ケラリンもちょっとかわいそうな気もして、仕方ないなあ、と重い腰をあげ、
「はいはーい。なになに?」
にこやかに畑中さんの席にメッセージを一緒に聞きに行った。
「、、、、ということで、出先から電話してますので、またこちらから電話します。ガチャン。ピー」
「また、電話してくるって。だから、もうこのメッセージは消去。ピッピッピー」
「あああああ!!ケラリンさん、消してしまったあ!」
「え?なんで、だってまた電話してくるんでしょ?」
「でも、お客さんの名前とかかかってきた時刻とか、、、、、、、、、、、、、、、、、でもダイジョーブ。僕ここにメモ取ってますから」
「.....」
コートーラー。おめー最初から聞き取れてるってことじゃねーかー!
案の定。
コトラ氏、たまに日本語わからない振りするのもケラリンはしっている。
しかしオトナのケラリン、心の中でそう思いながらもニコニコと、
「じゃあそのメモ、畑中さんに明日渡してあげてね。」
自分のボロにも気づかず、心なしか得意げなコトラさん。
「もっちろんでーす」
PS ちなみに↓コトラさんって人、沢山いるんですねー。
- フィリップ コトラー, Philip Kotler, 木村 達也
- コトラーの戦略的マーケティング―いかに市場を創造し、攻略し、支配するか
- ティク・ナット ハン, アーノルド コトゥラー, Thich Nhat Hanh, Arnold Kotler, 池田 久代
- 微笑みを生きる―“気づき”の瞑想と実践
ストレス 2 (前半)
ケラリン、えばる事ではないが、会社にはいつも始業すれすれ。
たまに遅刻もしちゃったりするのだが、始業ベルが鳴るわけでもなく朝礼があるわけでもなく全然銀行らしからぬ銀行で、もっともユメ課長からも席が遠く、しかもケラリンが毎日せっせとお水をやってるので10鉢ぐらいの植木が青々と茂り、ユメちゃんからケラリンは植物に阻まれ非常によく見えない状態なので、こっそり席について免れている。
植物も無駄に育てているわけではない。
そして今日も始業すれすれ、ケラリンがせわしなく席につくと
「ケラリンさん、おはよう。」
「あ、おはようコトラさん。」
待ってましたと、さわやかに話しかけてくる。
コトラ氏は朝がめっぽう早いのだ。朝は3時45分起床、会社には7時には来ている。
ケラリンが会社に来るころは、コトラさんの一日は半分終わっているようなもの。
そして、ケラリンが会社にくるまで話し相手がいないもんだから、朝来たとたんに天気の話しに始まっていろんなことを話しかけてくるのである。
一連の朝の会話が終わって、
「ところで、あれ、ユタカさん休み?」
「ああ。ナミモトさんはまだ来てないですね。スケジュール表によると休みではないです。だから休みでも計画してない休みということになります。」
なんか言い回しがまどろっこしいのだけど、あらかじめ休暇を取っているわけではないといいたいのだろう。
そんな話をしていると、さっそうと30代半ば、働き盛りのビジネスマン、ナミモトユタカさん登場。片手にスターバックスコーヒーなんて持っちゃって、遅刻しながらもコーヒーを買って来るという余裕さ。全然遅刻しているという意識はない。そして、だれもがその遅刻をとがめることもなく、本当にのんびりとしている。というより、ここは銀行なのだろうか、という疑問がよぎってくるが、、、
そんなこんなでいつも通りの一日がなんとなく始まっていく。
「あれ、コトラさん。今日はミッチ畑中さんはお休みなの?」
「ええーー!!!休みーー!?」
コトラさん、珍しく一度で日本語を聞き取ったもののなんだか突拍子もない裏返った声で、畑中さんの不在にやたらに驚いている。
「畑中さん、やーすみですかあ。知らなかった。でもスケジュール見ると何も書いてないですね。出張でしょうか、休暇でしょうか。分からなーい。」
「コトラさん、なんでそんなに畑中さんいなくて驚くの?」
「は?なにー??何と言いました?」
「、、、、、、、、」
たまにケラリン面倒なときは聞き返されても聞こえない振りをしちゃったりする。というのも
「え、畑中さんいなくてどうしてそんなに驚くか?ですか?」
聞こえてるからである。
「別に意味はないでーす。ただ、スケジュールにないので、休暇か出張か分からない、、、」
「まあ、それはどっちでもいいけど要するに今日はいないってことね。」
「そうです。でも休暇か出張どっちなんだろうか。ああ、畑中さんいないのさみしいねー。」
「うそつけ、今知ったくせに。」
「え?なに?」
「いやいや、こっちの話し」
一回で聞きとってくれないので助かるときもある。
--- 次に続く ---
C.P. (後半)
---前回より続く ---
でもすっかり本人は自称グルメ、「おいしいもの探しなら僕に聞いてよ」と周囲に宣伝しまくる。
要するに彼の場合のグルメはいかに低コストでお腹をいっぱいにできるか。つまるところ、要は安けりゃ何でもいいということ。普段は、家でドジョウとかナマズとか脂ギッシュで安っぽいものばかりを食べているらしい。
したがって健康診断では、ぶっちぎりで社内ナンバーワン、コレステロールが高くて、再検査に引っかかってしまう。
リスクを背負って、体を張って、一単価のコスト削減を目指した本山経済学。
コストパフォーマンスなのである。
「いやあ、今日はホント喉の調子が悪くて。歌えるかなあ」
「じゃあ、歌わなくてもいいよ、本山さん、いつも歌いすぎてるから」
「あーあ、本山さん、こんな私が生まれる前のような古い曲入れるから、画像が乱れてる、あ、だめだこりゃ。はい、消しますよ、この曲。」
そう、シカゴ唯一のカラオケボックスは韓国人経営のあやしい店で、裏では店員が右往左往しながらレーザーディスクをあっちこっちの機械に入れてるという超原始的な店なのだ。
だから、人気のある曲なんて、他のボックスの歌が終わるのを待たないといけないし、たまに間違えられてハングル文字の曲がかかったりするのである。そして、古すぎたりしてレーザーディスクに傷がついてると、画像が乱れて止まってしまったりするのだ。そんな時、普通の人なら
「ああ、せっかく周ってきた僕の順番も行ってしまった、、、」
って思うだろう。
しかし、彼の場合は違う。
そんな事もあろうかと、ちゃんと予備が入れてあるのだ。
「はい、本山さんの次は、、、あれ?また本山さんなの?」
すごい!
ここで歌い逃したら、この待ち時間、歌代、すべてにおいて「無駄」ということになってしまう。
そして、時には予備の予備まで入ってる。それが全部かかってしまったら誰も聞きたくないのに、「本山連続3曲メドレー」。
それが彼のコストパフォーマンス。 コストパフォーマーとして3曲歌ったら大成功。
「本山くん、君の趣味は何だい?」
「は。支店長。僕はキャンプに家族で行くのが趣味ですねえ。」
「ほう、キャンプに行くのかい、本山家も。」
「はい、楽しいですよ、自然に戻って文化のない生活をするんです」
「しかしなんだね、どうせ君の場合は文化のない生活、キャンプといっても、貧乏臭そうだな。キャンプじゃなくてホームレスの間違いだろ。にゃははははは。」
「ははは、、、。」
支店長もいいところをついている。マンザラ冗談ではない。
彼はお金を沢山貯めて買ったキャンピングカーまがいの自称キャンプカーがあるらしい。
なぜ自称キャンプカーを買うことになったか、実はここにも「貧乏根性de大失敗の巻き」面白い経緯があった。
彼は、それまでン十年型おんぼろアメ車に乗っていた。しかし、その車は冬になればマイナス20度まで下がるシカゴでなんと、暖房がきかない。話によるとなんだか、テキサスだかどっか南からのってきた人の車を安く売り付けられて、B級品大好き性がうずいて買ってしまったらしい。安ければいい、自分にすら厳しいドケチ、それがさすがに暖房無しと気付いた初冬、売りつけたあやしいメキシコ人は到底シカゴにいるはずはなく、結局新車を買わざろうえない。その新車が彼の趣味をも兼ね備えたキャンピングカーまがいの自称キャンプカー。
安価につられて失敗したコストパフォーマンスの元を取るには、キャンピングカーで一家ホームレス。
これにて家計費を節約し、失敗を成功につなげる。
「本山さん、わかった。もうね、君は好きなだけ曲を入れていい!」
「そうだよ、ランバダだかラ・バンバだか知らないけど、得意のスペイン語で歌いまくってくれ。本山さんリモコンに触ること解禁!」
そう、彼はそうしてようやく、あこがれだったリモコンも持たせてもらえて、メキシコ系アメリカン(メキシコはスペイン語圏)のホセ・インターナショナルによると「結構彼のスペイン語はうまい」という誉め言葉を頂いた、自慢のスペイン語で歌いまくれるのだ。
しかし、歌が始まる頃、
「さー、今日も疲れたねー。帰ろ。帰ろ。」
「あと、会計宜しくね。」
「朝まで歌ってていいよー。」
「んじゃまたねー。」
「みんながいなきゃCPの意味がないんだよーーーーー!!ないんだよー、ないんだよーないんだよおおお。」
マイクにはエコーがかかっていた。
いつもコストパフォーマー、本山経済学は失敗ばかりなのである。
C.P. (前半)
Cost Performance
この言葉は経済学、経営学を学んでいれば必須用語、アメリカ・ビジネス界でももっとも重要視される企業の効率性をはかる言葉、少ないコストでいかに利益を生み出すか。
損益を常に考えて会社というのは運営されている。
そして、会社思いのケラリンの会社の社員も常に会社が儲かるように営業を日々心がけるのである。しかし、その中でも仕事熱心に24時間コスト・パフォーマンスを考えている社員が若干一名いる。
そう。またしても登場のミスター貧乏本山。
彼はコスト・パフォーマンスが大好き。
彼の辞書には「割安」「お得」「安価」「元を取る」「割り勘」。そういった言葉が横並びしている。
安いお店でいつも昼食を取り、みんなで行くなら食べ放題が大好きで、飲みに行ったら、飲めないといいつつ人より飲んでもちろん割り勘。
二次会のカラオケでは喉の調子が悪いといいつつ、人の3倍曲を入れてしまう。
彼の場合「おいしいものを高い値段で食べるのは当たり前。なんでもいいから、いかに安く食べるか。」というところに重点を置いているので、昼食のクオリティーなんてどうでも良い。B級品ばかり並ぶ、脂ぎっしりの肉がジュージューいってるような中、黒人の体格のいいおっさんが
“What’s neeeext! (おう、次あんた何注文すんの?)”
なんて、脅されてるのかと思うような店で客なのにビビリながら
“チ、チ、チチキンフライ!“
“ハイ、1ドルなーりー。“
と、黒人のマッチョマンの客に混じって、というより埋もれて、夜だったら銃で襲われるんじゃないかと思うような地区に行って食べてくる。
社内ではもっぱら
「いやあ、本山さんの紹介してくれるお店は、アメリカンだねー。みんなが知らないようなところをよく知ってるんだよー」
なんて、日本から駐在でいらっしゃってる、全然知らないエリートさんたちは誉めちぎる。
しかし、誰も知らなくて当たり前な店ばかり。
--- 次に続く ---
英語なんて怖くない (後半)
---前からの続き---
その語順が分かるなら日本語を分かるといっても過言ではない。いや、やはりそれは過言だが、とにかく彼の寛容さがすごい。
そして、その英語でアメリカ在住ン十年という彼女が何の問題もなく生活して仕事をしていることも「激すご」だ。
たとえば、彼女のVoice Mail (留守電) のメッセージなんて、"hallo Mory, message thank you."
すごくおかしいんだけど、意味が分かるのだから、結果オーライだろう。
その状況でメッセージが流れたら"メッセージを残さないでください。ピー”なんて電話はないから。
とにかく、彼女の英語講釈についてはまあいいとして、どうやら彼らは週末どこかに一緒に行く予定になっていたらしい。話を聞いていると、モーリーがホセ・インターナショナルをなにかの試合に誘ったようである。
そして、誘われた彼は、やさしいので
「うーん、今まだ予定が分からないから、、、」
と日本人らしく、メキシカン・ラテンの血で婉曲に断ったのだ。
そりゃそーだ。歳も、人種も、言葉も違う2人が一緒にでかけるという選択はホセの辞書にはない。
しかし、ホセのいってることが分からない彼女は
「じゃあ、これ私の電話番号、金曜日の夜電話してね」
と番号を渡した。
ホセ・インターナショナルは、困ったものの
「ま、どうせ僕そのあと2週間バケーションだからそのまま、ぶっちぎっちゃえ」
と、その話に勝手にピリオドを打った。
しかし、まだピリオドを打たれたことを知らない彼女は電話の前に正座すること何時間。土曜日の朝も試合直前まで彼の電話を待ったらしい。
そんな事があったことすら、すっかり忘れてたホセ・インターナショナルは今日から出社。
天気もいいし、気持ち良いなあというところで彼女にばったり。
恐らく、ものすごくタイミングが悪かったに違いない。 そして、そんなところにケラリンが遭遇したのだ。
「I ticket two buy」
即座に考えたホセ、にこやかに対応。
「Oh, ユーはWhite Sox (野球)のチケット買ったんだよね、で、どうだった?」
「え?どう?って、、、あ、、、いや、telephone! waiting!!」
「わーオ、次回はモーリーと一緒にいけるといいな~。じゃねーチャオ~。」
ホセ・インターナショナル、ここも日本人らしくさっさと丸く事をおさめ、まったく会話がかみ合わないまま消えてゆく。
そして、残されたモーリーにこやかに
「OK、OK, next time OK,」
おそらく永遠に来ないであろう次回に持ち越された野球を楽しみに、笑ってエレベーターを降りるホセの背中に手を振る。
ケラリン、さわやかな朝に、ちょっぴり切ない気持ちになるのであった。
- マーク ピーターセン
- 日本人の英語
英語なんて怖くない (前半)
聞いてしまった。
それは、さわやかな朝のエレベーターホール。ケラリンはエレベーターを待つミズ・モーリーこと森女史の存在に気付いたときだった。
前からはホセ・インターナショナルがやってきた。
もちろん「インターナショナル」は彼の名字ではなく、彼が所属している部、要するに「国際部」であるが、100人あまりの社内にラテン系ネームの「ホセ」が数人いるためこういう呼び方になってしまう。
森女史は彼を見るなり
「ホセ!I waiting you call Friday night!」
と時制がいつだか分からない英語で話しかけ始めた。
Friday night」というからには、どうやら過去形の話しらしい。しかし、Friday nightとは、じゃあ何かい、あんた。彼らにはプライベートな付き合いがあるということなのかい。という感じなのだ。
というのは、ホセは独身若干25-6歳。ミズ・モーリーは、「定年」をつくると「Age Discrimination (年齢差別)」で訴えられちゃう、というアメリカらしい、そして気弱な日系会社らしく、定年がないので往年(推定)75歳前後独身の立派な「おばあ様」としてわが社に健在しているかなり変なバーさん。そんな孫と祖母のような独身の2人が「金曜日の夜の電話」について話している。その会話を聞いたら、まだ眠気まなこなケラリン・アイズもバッチリ覚めた。
ホセ・インターナショナルはフランケン・シュタインのようなその顔をややバツが悪そうにさせ、ハンドバックを斜め掛けしている身長130センチぐらいのミズモーリーの話を聞いている。
「I ticket two buy ! 」
なんのこっちゃ?
全然意味が分からない。
なのに意味が分かる。
なぜならビコーズ彼女の英語は語順がすべて日本語。つまり、
「私はチケットを二枚買った」
そのまんまやんけ。
そのモーリー英語をなんなく解釈・会話しているホセ・インターナショナルは「激すご」である。
その語順が分かるなら日本語を分かるといっても過言ではない。いや、やはりそれは過言だが、とにかく彼の寛容さがすごい。
そして、その英語でアメリカ在住ン十年という彼女が何の問題もなく生活して仕事をしていることも「激すご」だ。
--- 次につづく ---
贈り物
すげー客もいるもんだ。
到底日本では考えられないことである。
まあ、純粋に考えてみたらその会社の宣伝といえばそれまでだし、その会社の社員はサービスの一環のつもりだったのかも知れない。
たしかに、そのサービスは東洋系海外在住者向けにはめちゃくちゃ気の効いたサービスであることは確かである。
ユメ課長もいない静かな金曜日の昼前、我が課に
「へーイ、ミスター・ジロー、小包でーすよ。」
と、メールボーイが縦横40センチ厚さ30センチはある箱を持ってきた。
しかし、受け取ったジローさんはすぐに箱を開けるでもなく、ただじーと箱を見て開けるにあけられないでいる。
様子が明らかに変である。
そんな姿を見た周囲の人々はジローさんの机に集まりだした。
ケラリンもリサに
「ケラリン, you must come! エライもんが届いたで~」
緊急招集をかけられ、駆け寄る。
呆然としてるジローそっちのけでみんなが箱を手にすると、送り主は「Saxxmi Inc.」
「サ○ミ」といえば。
そう、あのゴム、コン○ームのサ○ミなのだ。
それを一箱たっぷり送ってきた。
たしかに、アメリカンサイズではちょっとぶかぶかな東洋人のおじ様達からすれば、いつもヤオハンで調達せざろう得ず、ヤオハンの設定価格にしたがわざろう得ない「ヤオハン価格独占市場」モノポリー状態のシカゴで、一箱のギフトは喉から手が出るほどの貴重品かもしれない。
もしかしたら東洋系おじ様だけではなく、日本人と負けず劣らず小柄なユダヤ系のおじさんコトラ氏にとっても貴重品かもしれない。まあ、彼がまだそれを必要としているかどうかは推測するしかないが。
一通り騒いでいたみんなも次第に落ち着きはじめ、次なる問題に気付きはじめた。
クッキーやお煎餅をもらったときのように
「はーい、みなさん、お客さんからのギフトです」
といって配るわけにもいかない。
その処理をどうするかに、それぞれが気付きはじめたのだ。
「どうするかなー。こういうのは困るなあ(僕の宛先なんだから、僕がもらってもいいんじゃないの?)」
「まーったくねー。どーしましょーかねー。(ジローさんはその歳でまだ必要なのかい?)」
ジローさんを横目にミッチー畑中も困りがお。
「うちは、、、だんながこの前買いだめしとってん。(でも、あったら使うねん、いずれ)」
リサははっきりプライベートも暴露。
「こういう郵便物はやっぱり、マネージャー通して判断してもらうか。(そんなことしたら副支店長ミヤミヤにとられちゃうかなあ)」
「けど、だからってドンにはみせられないよなあ。(支店長は使い道ないでしょ、どうせ単身赴任なんだから)」
と、みんなすごくすごくすごーく頭を悩ませたのだ。
というより、みんな相手の心を読みあう、読心術の会に変身してしまった。
そもそも、空けたら本当にそれが入っているかという疑問もあるのだが、誰一人開ける勇気がないのだ。
そんなものもらえないよ、とか、カッコ悪いぜい、とか、ここは会社だぜ、とかそんなことではない。
開けてもしも違うものが出てきたら、すごくがっかりするからである。
「あけたら、どういう形で入ってるんでしょうかねー。」
「やっぱり、切手みたく一面シート状じゃないの?」
「いやあ、一列に、だっーと数メートルくっついてるんじゃないの?」
「デカイのが一個だけ入ってたり、、、」
なんて憶測が飛んでいるうちに昼休みは終わってしまった。
みんなどうしていいのか分からず、そのまま、一人散り、2人散り、、、、といなくなった。
そして、すっかり忘れてしまってみんなが月曜日を迎えた今日。 あと少しで夕方5時になる。
「そうしてみんなが忘れたころにいつか持ってかえるのさ。」
とジローは足の下に隠してある箱を足で確かめた。
5時10分前。
「あ!そういえば、あれどーなってん?」
やっぱり最後、気づいた人がいたのだった。
ちょうど副支店長も支店長もいないし、今のうちに分けたらええんちゃう?、という一言で、うな垂れるジローをよそに、リサがアメリカ人らしく躊躇することなく、必要のありそうな人だけにさっさと配るのであった。
ああ、ジロー一人占め成らず。
病院へ行こう (後半)
---前回から続く---
そんな彼が、事故のように突然病気になってしまって、お金が急にかかるのであるから、我慢に我慢をした末の、考えあぐねた末の、彼なりの決心であったということに異論はないだろう。
昨日までなんとか堪え忍んできた病状が急に悪化したのには、これまたセコイ理由があった。
あまりに具合が悪そうな彼を見かねた隣の席の心やさしい日本育ちのアメリカ人、ハーフで関西弁バリバリという初対面ではかなりの違和感をもたせるリサが、うつされたらたまらないから早く治してもらおうと自分の常備薬を瓶ごと彼に渡した。
すると医者にかからないで何とか早く治そうと必死だったミスター本山は、なんとナント、その市販の薬を定量の2倍投与したのだ。
アメリカ人のあの巨体に効く様にできている薬を2倍も飲んでしまう。彼いわく、2倍速で治そうとしたためだというが、2倍速で治すために2倍の量の薬を飲めば言いというものではないのであることは小学生だって知っている。
どう考えても、人の薬だからどうせ飲むなら沢山もらった方が特だと思って、2倍飲んだに違いない。
「今の分と、今夜の分と明日の朝の分と、、、」
そして、案の定のオーバードース、飲みすぎ。
今朝起きたら両耳の下から顎にかけてのリンパ腺が異常にはれ、むくんだ顔をして出勤したものの、とても調子が悪く、結局病院にいかざろう得なくなったらしい。
病気で医者に行くならまだしも、貧乏根性でくすねた薬の飲みすぎで医者に行かざるを得なくなった彼。
本末転倒は毎度のこと。
こーんな同情の余地のない状況下で、残された彼の課員の思いやりのある面々は、「本山型貧乏性黄熱病」をうつされないように、彼からもらった書類にはすべて抗菌スプレーかけ「本山対策」を練る。
そして、みんな「あしたも具合が悪いのなら無理して出てこなくていいから(うつされたらたまんねーから家にいろよ)」と優しい言葉をかけるのである。 。。。。
病院へ行こう (前半)
体調の不調を訴え、本日昼にて早退したミスター本山は数日前からの病状が悪化し、ついに今日診察を受ける一大決心をした。
病院に行くのにどうして一大決心が必要なのか。
ではなく
「先生会ったらいくらかかるのかなあ。処方箋はなるべく少なめに出してほしいなあ。」
を心配しているのである。
早くお医者さんに見てもらって何とかこの病を治したい、楽になりたい、家族にうつしちゃいけない。ではなく、すべてにおいてケチなミスター本山は自分にすら厳しいドケチなのである。
おそらく、医者に診てもらうイコール無駄金を払うと思っているといっても過言ではないだろう。しかし、いくら医療費の高いアメリカとはいえ、普通の診察なら保険がカバーして大体10ドル前後(約\1,000)で済むのである。
ふりかえれば、ミスター本山のケチは今に始まったことではなく、ハリケーンとういう異名であちこちで台風を引き起こしていた我が社に勤めることン十年のハリケーン女史が退職するとき、さすがにお世話になったし、我が社としては“ようやく退職してくれるのね祝祝祝祝・退職”として、みんなで一人10㌦だして何かをプレゼントしようというときにでさえ、彼はかたくなに10ドルという大金を出し渋り、彼が
「元住(もとすみ)では人が辞めるときは一人一ドルだった」
と、以前彼が勤めていた某住〇銀行を引き合いにだし、がんとして出さないがため大幅に減額され一人1ドル、15人で計15ドルのものしか贈ることができなかったのである。それでも彼は
「辞める人のためにどうしてお金を払うんだ」
という意識が抜けず、最後にはまったく罪のないハリケーン女史に冷たくあたっていたという、せこい人なのだ。
10ドルという金が大金ならば、彼が営業職を10年しながらもゴルフを今まで拒んできた理由もそこに起因しているともいえるかもしれない。
「ゴルフ一回したら6回病院に行ける」(この近辺ではワンラウンド約60ドルが相場→アメリカのゴルフ相場はその土地によって大分違いますがシカゴはゴルフ天国の一地方でしょう)
一回の診察に一大決心が必要なら一回のゴルフは清水の舞台から飛び降りるようなものかもしれない。
ストレス(後半)
---ストレス(前半)からの続き----
「、、、、フローズンとフリーズの違いですよ。 」
「なるほど!ではどっちがフローズンで、どっちがフリーズ?」
「、、、、ごめん、自分で調べて。」
と、なかなか高度なことを聞いてくる。
しかし、冷たいようだけど、いちいち付き合っていたら日が暮れてしまう。
だいたい忙しいのに日本語教室をやってる場合じゃないのだ。
「Oh, ケラリンさん。それは「しゃくなげ」ですか?」
「は?しゃくなげー?、、、いや、これは、ツタだけど、、、英語ではアイビーって言うの?アイビーとはまたちょっと違うなあ。ポトスって言うのかな」
「え?」
「ポ・ト・ス!」
「は?」
「ポートースー」
「What?」
「ポートーーースーーーー」
「オオ、アイシー。ポトスでーすね。」
ふー、やっと通じた。ストレス度10ぐらいに跳ね上がってしまった。
しかし、しゃくなげって言う花はツタをみて「これしゃくなげ?」って間違える人はいないほど、かけ離れた植物なんだけど。
本当にしゃくなげって何か知ってる?って言いたくなるのをぐっと押さえて、おとなのケラリンは
「すごいですねー、コトラさん、「ひゃくなげ」って言う言葉を知っているなんて」
と誉めておくにかぎるのだ。
しかし、
「ケラリンさん。「ひゃくなげ」ではない。「しゃくなげ」です。」
なんて冷ややかに直されてしまった。そんな普段使わない言葉を使ったらこっちだってなんだか分からなくなってくる。
とにかく、こういう「一体どこで覚えるの?」という言葉は知っている。すばらしい。
しかし、なんといっても簡単な言葉を知らないということもケラリンのストレスを倍増させるのである。
「へー、じゃあ、ツネちゃん、明日からジャマイカいくんだ。いいなあ、海パン忘れないよーにね!」
「もっちろん、ケラリンちゃん。海パンはもう詰めたよ。レゲエが僕を呼んでいる,,,」
「え?ツネちゃん、明日からどこに行くっていいました?」
「ジャマイカ。」
「は?」
「ジャーマーイーカー」
「Oh、ジャマイカ!で?」
「で?って?」
「ケラリンさん、ジャマイカがなんて言いました?」
「、、、海パン忘れない様にねって、、、、、」
「アイシー、海パンね。」
「あ。ツネちゃん短パンも持った?」
「だいじょーぶ、忘れないって。」
「Hey、ケラリンさん。海パン、短パン。それはどーいう「パン」ですか?「あんパン」みたいのですか?」
「.....」