ア・イ・シ・テ・ル (3)
---前回から続く---
でも、ケラリンもバカ正直な日本人の血を引いている。ついつい一生懸命答えるのだった。
「あの、”アイラブユー“はいくら英語できない人でも、分かると思うけど、、、」
「でも、私彼に日本語で伝えたいのです。日本語でなんて言いますか?」
「”愛してる“といいます。」
「パードンミー?」
いくら電話口とはいえ、“愛してる”なんてなんか恥ずかしいのでサラッといったら案の定聞き返してきた。
「”ア・イ・シ・テ・イ・マ・ス“です。」
「Hum, どういう綴りですか?」
「A・I・S・H・I・T・E・I・M・A…….」
「え?ごめんなさい、もう一度最初から、、、」
「いい?A・I・S・H・I、、、」
「A・S・U?」
全然聞き取れてない。いーかい、よく聞け。
「A・I・S・H・I・T・E、、、」
「ふーむ、、、難しいわね。それで、なんて発音するの?」
「だから、” ア・イ・シ・テ・イ・マ・ス“というの」
「え?”アイス“?」
学習しろ、ばか。
「ノーノー。”ア・イ・シ・テ・イ・マ・ス”です。」
「アイスル?」
「だからー。” ア・イ・シ・テ・イ・マ・ス“」
おまえもコトラ族だね。
「アイテル?」
「いい?よく聞いて?”アーイーシーテーマースー”」
ケラリン、声を大にして、一生懸命伝えた。今度こそ大丈夫か?
---次に続く---
ア・イ・シ・テ・ル (2)
ケラリン、入社してしばらくしてから強烈な電話を取った事がある。
全然ケラリンが恥ずかしがることじゃないのに、今でも顔から火が出るほど恥ずかしかった事件。
この事件については、ケラリンの心の奥にそっとしまわれてあり、実は公開するのはこれがはじめて。
そう、そのころは遅刻なんてしないし、まだユメ課長をユーメチャン、なんて言ってないころの話。
ルルルルルルルル。
「も、も、もしもし、某銀行、ケラリンです」
朝一番の電話、なれないケラリンどきどきしながら電話を取る。
「ハ~~~イ、ケラリンさん。あの、私の名前は、、、、名前は、、、、あーん。言えませんわ。」
「は?」
「ケラリン。あなた、日本人ですか?日本語分かりますか?」
「はあ。日本語は母国語ですが、、、、?」
「Oh、グレート!あなたネーティブね。、、、、実は、今日はわたしくし、ご相談があってお電話してるんですの。」
「どんなご相談でしょうか。ご融資の件ですか?」
「Oh,ノーノー、お仕事の話しじゃありません。実は私、、、、日本の会社に勤めています。」
「はあ、そうかなあと思ってますが。」
「実は、私、、、、、ああ、恥ずかしいですわ。なんて言えばいいのかしら。ウェール、、、、私、日本人の同僚の男の人、好きになっちゃいました。どうしたらいいでしょうか?」
「パーーーー・ドン・ミーーーーー?」
「恋愛電話相談室ケラリン・ホットライン」ではない。しかし、平然と彼女は
「But, ハウエバー、問題は彼は英語があまりわからないのでーす。そこで、私彼に日本語でこの情熱、ラブを伝えたいのです。日本語で”アイ ラブ ユー“はなんて言いますか?」
朝から、おまえ、正気かい?ってことを言ってる。
---次へ続く---
ア・イ・シ・テ・ル (1)
ケラリンの勤めている某日系銀行はシカゴにあり、シカゴは中西部この周辺の州の街では、それはそれは大きな都市である。
東京とか横浜のような人口密度ドロドロの大都市に比べれば小さいけれど、ちょっと大都市シカゴを出てみればハイウェイの周りは果てしなく続くコーン畑、といった景色が続いている。
ミシガン州、オハイオ州、インディアナ州、カンザス州、そしてシカゴのあるイリノイ州と中西部は穀物などの農作業、牛や豚、馬などの家畜業といったものが生活の主体となっている、いわゆる「ド田舎」の農場に囲まれている。
そして、そんな中にも日本企業は日本の不景気なんて何のその、、、でもないかな、ゼイゼイ。なんて息切れしている会社も最近は残念ながら少なくないようだが沢山点在している。
たとえば、オハイオ州にはそんなのんきな大平原のコーン畑の中に、今のこの不況化で余裕を見せている車の本田さんが工場をバーーンと作ったものだから、その関連部品会社がどんどんできて、日本の会社がそこにできちゃっただけで何万人と雇っちゃったりして、アメリカ経済にもかなりいい影響をもたらしているといるのだ。だから全然関係ない日本人でも日本人であれば誰でも誇りに思っていいのである。 「エー、オッホン。本田君、よくやった、これからも頑張ってくれ。」
そしてそんな日系企業ができたらやっぱり当銀行としても頑張ってそういうお客様に営業してしまうのだ。
そう、「たとえば、オハイオ州では、、、」なんて言ってるけど、まさに、オハイオ州、ミシガン州、インディアナ州はケラリンが担当している会社様ばかりなのだ。ケラリンが担当している会社様の数だけでも3ケタにのぼり、一日にあっちゃこっちゃから電話がかかってくるのだ。
だから
「ヘーイ、ケッラリーン。グッッッッッッッモーニン。元気かーい。僕、スコットだよ。」
なんて常連顔でコーン畑の真中からのんきに電話をかけてくるアメリカ人もいるが、はっきりいって名前にバリエーションのないアメリカ。
スコットさんなんて、コーン畑の中では君だけかもしれないが、こっちにしてみれば、あっちゃこっちゃにいるのだ。
どのスコットさんだか分からない。
それでも
「週末はどーだったかーい。僕なんて、ニョーボの実家に子供といったんだけど、その実家がさー、カンザス州なんだよね。車でン時間もかかってさあーそれでね、なんたらかんたら、ごにゃごにゃ。」
なんてのんきに話し続けている。
けど、ケラリン、まだ全然どこのスコットだかジョンだかマイケルだか分からない。
しかし、こんな気持ち良さそうに話してる時に、
「スコットさん、ごめんなさい、一体あなたどこのスコットさん?悪いけど、ちゃんと会社名を名乗ってちょうだい」
なんて話の腰が折れることは言わないのだ。
「そう、それは大変な週末だったわねー。えーと、まずは今日の口座のバランスから見ましょうか。あらら、へんねえ。コンピューターがうまく動かないわ。トーケツしてるのかしら、、、すぐに口座番号分かります?」
なんて、言ってみる。
全くトーケツなんてしてなくても、どうせ電話の向こうのこと、わからないからいいのだ、どうでも。
「ケラリン。大丈夫。口座番号は××××―〇〇〇でーす」
と言ってくれたらこっちのもの、口座番号を端末に入れたらすぐに社名が出てくる。
(あー。あのスコットかい。そうかそうか)
とここで納得する。
「OK,あ、動いたわ、コンピューターが。本当に肝心なときにトーケツしたりするから困るわよね。えーと、あれ?スコットさーん。全然お金ないじゃない。今日送金かけてくれるのかしら?」
なんて何事もなく話は続いていくのだ。
しかし、逆の可能性もある。
ケラリンが電話をかけて相手が出て
「もしもし、ハヤト・チリさん?ケラリンです。某銀行、、、」
とケラリンが社名を名乗ろうとする前に、早合点ヤローが
「Oh,ケラリン。いまね、ちょうど電話しようと思ってたんだべさ。うんにゃ、まったく偶然だべなあ。あの件についてだベ?」
なんて、田舎英語で”ケラリン”を声で判別してくれる、すばらしいお客様もいるのだ。
まあ、田舎英語といっても、中西部の英語がアメリカのいわゆる“標準英語”らしいが。
それにしても、
「あの件?ってなんだっけ?」
なんて思いながら、ケラリン話していると、なんだか話がチグハグしてくる。
何を言ってるのか全然分からない。
そう、予想通りのケラリン違い。
ケラリンの名前もこれまた日本では「多い名前トップ3」には入るぐらいの、超ウルトラポピュラーな名前。
どうやら、ハヤト・チリさんは、某日系〇△勧業銀行NY支店のケラリンさんと勘違いしてることが判明。
やれやれ。
話は最後まで聞けよ。
まだ、こんな例ははっきり言って、全くのノープロブレム。
そう、あの電話に比べたら。
--- 次に続く ---
敬語・丁寧語 (後半)
--- 前回から続く---
ところが。
社会に出たら、社会はすっかり変わっていた。
ケラリンのいう「社会」はケラリンの前の会社「とある保険会社」オンリーの統計であるが、「とある損保」の短大卒業したばっかりの若くてキャピキャピーなんて感じの女の子達は、オジさんたちにもいわゆる「タメ口」。
そして、そんな社会の常識を知らない彼女たちを「まったく、いまどきに新卒は、、、、」なんて言いながらも、敬語ばっちり!のケラリンなんかと話すよりよっぽど楽しそうなのだ。
それでもやっぱり敬語が役立つときもあって、仕事中では敬語だし、部長、役員なんか通りかかると「ハハー」てな感じだった。
そして、今の会社はもっと変わっていた。
社内では一番えらいはずの支店長に向かってチャンづけで呼んでるリサ先輩。調子に乗ってケラリンも課長をチャン付け、課長ユーメチャンなのだ。
そして敬語なんてどこ吹く風。
とはいえ、さすがにケラリンも日本人のお客様とお話するときは敬語である。それはジパング・ビジネスでは当たり前の話。
だが。
しかしやっぱり若干一名ここにも「新卒」でも「キャピキャピ」でもないが「敬語を使わない」ということを武器にしてる人がいるのだ。
毎度のコトラの登場。
コトラ氏は基本的にはそこそこ敬語を使えるのだが、たまに間違えてか、わからないのか、わざとか知らないけど、すごくフランクな言葉を使っちゃってお客に押し売りなのだ。
電話を聞いているこっちがもうドキドキしちゃう。
当行にゴマンとある口座の中には、眠ったままトーケツしてる口座もある。
ある日、こういう口座を一掃しよう、ということになって、ユメ課長が
「コトラさん、君にこのことは全部一任しよう」
と任命したのだ。
そのとき
「え?イチニン?」
「そう、イーチーニーンー」
「Hum、イチニン、、、、おお、数字の「一」に「人」という字ですね。それは「一人(ひとり)」という言う意味。ということは僕これ一人でやるということ。」
「全然違うけど、まあ結果的にはそういうことだ、よろしく。」
という嘘かと思うような本当の顛末でイチニンされたコトラさん、すっかり張り切ってお客様に電話。
「あーーーむ。もしもーし?僕。コトラ。某銀行です。あのねーえ。やーまぐちさん。山口さんの会社の口座沢山ある。僕ね、ひとつ閉めたい。山口さんも閉めたいでしょ。だから閉めましょう。え?手続き?簡単でーす。僕閉めておきますから。」
驚いたケラリン。顔は動かさず目玉だけ動かしてチラッと隣のコトラ氏を見ると
これで一社OK!
リストにチェックマークをつけなきゃ。
と何食わぬ顔でチャキチャキ仕事をしてる。
あれ?口座を開けたり閉めたりって銀行の人が決めることだっけ?
「え?カワセ?今の為替レートはねえ、116円90銭。このレートいいねー。僕このレート取りたい。いい?」
え?君がレート決めちゃうのか~い?
強行に押し売りしてるコトラ氏をチラッと見ると、××Inc, 116.90 実行、、、なんてノートに書いている。
多分コトラさんは英語の会話を直訳しての日本語なので、なんだかおかしくなってしまうのだろう。
コトラ氏の気持ちもよく分かるので、あんまりとやかく言うのも失礼だから、見ざる・言わざる・聞かざるに限るのだ。しかし、隣にいるケラリンは、時々コトラさんがたまに突拍子もなく裏返ったような変な声で話すから、例えこっちが電話でお客様とお話中でも耳に入っちゃったりするのだ。
「え?レートが高いですか。え?当行は横柄だ?そんなことはありません、もう当行も全力で頑張っております。いやあ、そう言われましても、、、あの、このレートが当行のベストレートでして、はい、はい、、、これ以上はどうしても、、、、、、あ!他行でレートを取られますか。ああ、そうですか。はい、でもこれに懲りずにこれからもどうぞひとつよろしくお願いいたしま、、、プツン、ツーツーツー……」
あれ?言い終わる前に切られた。
ケラリンの日本人のお客様のなかには極まれにケラリンが日本人だと思って言いたいこと言い放って散々長電話させる非常にいやな客もいる。これがケラリン、日本語が分からなかったらきっと英語ではあんなに文句は言えないはずなのだ。アメリカ人に非常に弱いに日本人の特徴だ。
「え?レートが高い?でもね、僕、もうとっちゃったね、このレート。だからお客さん、もう変えられない。え?なに?ああ、他行はもっとレートいいって?でももう今回は無理。え?じゃあ諦める?助かるね。そうしてくださーい。ガチャン。」
(このお客さん、いい人だね。日本人いい人多いね。)
学生時代が一番敬語を使わせられて、
社会に出たら敬語を使えない女の子に鼻の下伸ばしてるオヤジさまを見てきて、
営業成績は日本語も敬語もできない人のほうがよかったりする。
なんだかおかしな世の中じゃござーませんでしょうか?
敬語・丁寧語 (前半)
ここまで読んできてくれた読者の中には、ケラリンの会社ってこれがもし全部本当なら、すげー会社だなって思ってる人もいるのではないかと思う。
ケラリンも自分がいる会社なので少しはフォローしたいのだが、実は全部事実でなにも偽りのないことばかりなのだから、フォローの仕様もない。
そもそもケラリンがこの会社で仕事をしたいなって思ったきっかけは、実は面接のときに「銀行のくせになんだかすごくいいかげんそう」という印象だったからである。
「でね、君には、、、、どういう仕事をしてもらうんだっけ?」
「えーと、課長。何でしたっけ?」
「リサは何してるんだっけ?リサと同じようなことだから、、、そもそも彼女っていつも何してるっけ?」
「いや、僕は知りませんよ、副支店長。副支店長の方がよく知っているかと思われますが」
「そ、そうか?ユメちゃんの方が知ってんじゃない?課長なんだしさ。」
「いえいえいえ。」
「むむむむむ。そうか。。。まあ、入社してくれたら仕事は分かるから。それよりさ、もうねえ、なんだか本当にいろいろあって、疲れちゃうんだよなあ。まあ、面接中に愚痴をこぼすのもなんだけど、本当にね上からは色々言われるし、やることはきりがないし、イヤンなっちゃたよ。あのさ、ちょっと聞いてくれる?どうおもう?愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴l、、、、」
「そんなときに外からの新しい目で見てくれる人が入るのは、こっちもいい機会かもしれませんよ、副支店長。」
「そうだな。よし、君、うちの会社で頑張ってみようじゃないか。はい!採用~~~。」
「は、はあ、、、、」
ケラリン、中途採用での入社面接なのに、副支店長・課長の愚痴を聞いてて終わってしまった。
なんだか今考えても全然わけのわからない面接だったのだ。
しかし、ケラリン、そのわけのわからなさが気に入った。なんだかすごいぞこの銀行、とわくわくしちゃったのだ。
そうして、入社してみると、予想外に本当にすべてかっ飛んでる。
日本にいた時に勤めていた会社に比べたら、それはもう、すんげー人ばっかり。
副支店長のことを「ミヤミヤ」と部下が呼んでるし、若手からおじ様までみんなお互い「ツネちゃん」「ユタちゃん」「ジローさん」となんだかテレビ局だか広告代理店だかのギョーカイの社内のように、緊張感なんてなくてだらだらリンなのだ。
しかし、それでも日本人のセクションはまだまだオカタイ方。100人前後の会社で日本人は20人以下ほど。その他の大部分のアメリカ人はもうどうしようも手が付けられないほどハチャメチャな人ばかり。学歴もあって資格もあってまじめで仕事もできて優秀そうな人もいるけど、ぜーんぜんやる気のない人、どうしようもないほど教養のない人もいるし、本当にさまざま。
とにかくケラリン、本当にこういう自由というかはちゃめちゃな社風はすごく性に合ってると思う。
ただ自由だからと言って仕事が楽かというとそうではない。みなさん、ヒジョーに忙しそうだ。もちろん時々ケラリンも忙しいのだが、ま、忙しいときも忙しくないときも、日々ケラネタを探しながら歩き、そんなネタをハイジと語り合っては爆笑しているという楽しい毎日を送っている。
ケラリンこれでも大学のときは、準体育会系スキー部、先輩には敬語は必須、何でも先輩が神様「アイアイサー」の世界だったのだから、年上の人には敬語で話すのが当たり前だった学生時代。
敬語を使い慣れてると社会に出ても役に立つんだぞ、とかなんとか、いざ会社に戻ったら入社数年目でまだまだぺーぺーのOB・OGの先輩に、まるで社会を諭した人の如し、すごく偉そうに教育されていた。
--- 次に続く ---
ヘビー級 その③ ~ツーショット~ (後半)
---前回から続く---
俄然張りきったケラリン。席順はかなり重要だ。
6人なのでケラリンとハイジはそれぞれ角席で向き合って座る。ミスター・本山とミズ・モーリーも反対側の角席で向き合ってもらう。真ん中がみっちとジローさん。これで決定。
ミズ・モーリーの相手はミスター・本山に全権委任しちゃおう。となると、本山さんが突然来れなくなると非常に困るので最終確認ははずせない。
「本山さん、明日焼き肉行くでしょ?」
「それがですねえ、、、いやあねえ、この前病院でもらった薬をまだ飲んでて、実はまだ本調子じゃないんだよね。」
「え、来ないの?この前の薬ってあの薬飲み過ぎを治す薬?そうかあ~。ケラリン、本山さんが来るなら行くけど、、、来ないなら行くのやめようかなあ。」
とちょっと潮らしくしてみた。
「え、そうなんですか、ケラリンさん。」
「もちろん。本山さんが来なきゃ、始まらないもーん。」
ミスター本山はもちろんケラリンの本当の意味を分かっていない。だからと言って、ケラリンの言葉に嘘はないわけだからいいのだけれど、どうも本人は「僕ってすごく人気者」と真に受けているようである。
でも、
「だって、、本山さんは明日ねー、大切な役回りなの。ふっふっふー。モーリーさんとツーショットにしてあげようと思って。なんなら4人と2人の席に分けてもいいし。だ・か・ら・来てね。うふっ。」
といえば、ケラリンの魂胆が分かるかなと思ったのだ。
「えー。僕が彼女とツーショット? 話し相手なの?やめてくれよー、じゃあ行かないよ。」
「なーにがツーショットだよ、なんかおかしいと思ったらそんな事か。けっ。」
などそんな類の返事を期待してたのだ。
しかーし。
「ツーショットかあ。ツーショットは厳しいなあ。いやあね、本当にぼくまだ薬飲んでるんですよ。だから、ワンショットぐらいなら、、、、いや、やっぱりお酒は止めておきますよ。」
「はあ?」
ケラリン、呆気にとられて去っていくミスター本山をただ見つめていた。
一瞬何を彼が言ってるのか分からなかった。
しかし、次の瞬間、もーしーかーしーてー、ツーショットって、お酒を「ワンショット」「ツーショット」飲みます。のツーショットのこと?
す、すっげー!
強烈きわまりない。
いまや、現代日本語で男女を差して「ツーショット」といえば(その言葉自体もすでに死語だが)、二人だけの世界、二人だけの写真、そういう意味である。まあ、確かに「ツーショット」とは完全100%和製英語で、考えてみたらおかしな言葉なのだけど、それが日本語になっているのだから仕方ない。日本語もここまで理解が違ってくるとコミュニケーションに支障が出てしまう。
そうか、ツーショットってそんなに新しい言葉だったかなあ。
うーん。やっぱりヘビー級はつわものだなあ。
またしてもノックアウトされてフラフラしながら、ミドル級ミッチ畑中にその「すげーびっくりした」ことを伝えに言った。
「本山さんにね、ツーショットって言ったらサ、なんて言ったと思う?ワンショットがいいとかね、、、、」
「なになに、本山くんがツーショットじゃなくてワンショット?」
いきなりヘビー級ジローが話しに入ってきて、続けてこう言った。
「へえ。ワンショットかあ、本山くんも上達してきたねえ。僕なんかこの前、スリーショットだったよー。パッティングがどーも調子悪くてさ。。。ハハハハハ、、、、」
彼はそのまま去っていった。
はあ?
もーしーかーしーてー。ゴルフのお・は・な・し?
もう!ケラリンの言いたいことが全然伝わらない!
ヘビー級 その③ ~ツーショット~ (前半)
ルルルルルルルルルー。
「お、電話電話。はい、はーい。竹下さんでーす。、、、、あ。間違えた。こりゃまた失礼、竹下でございます。」
朝からとぼけているのは、ジロー竹下。
こういう事は、ケラリンの大袈裟な作り話でもなんでもなく、本当に日常茶飯事に起こっていることで事実に即したことなのだ。
彼は、無意識にお茶目なことをやっては周囲の笑いを誘っちゃう人なのだ。
それでも彼は隊長である。
というのは、みっち畑中、マサ本山を隊員とする3人仲良しチームであり、彼は年功序列なので隊長なのだ。
そして、ケラリン彼らをTVの「踊る大捜査線」からちなんで「スリーアミーゴズ」と名づけている。もちろん、誰も「踊る大捜査線」なんて知らないので、「スリーアミーゴズ」といってもどういう意味で名づけられてるか分かってないが。
そんなスリーアミーゴズはモリモリモーリー、ミズモーリー森女史に焼き肉食べ放題に行こうと誘われたらしい。
ミズ・モーリー、歳の割には焼き肉にんにく大好きで、もう、シャレじゃないけど本当にモリモリ食べちゃってすごく元気なのだ。
(モリ女史:4.英語なんて怖くない にでてきた彼女です。)
しかし誘われたなら諦めて不幸にも誘われた3人でいけばいいものを
「じゃあ、ハイジも誘おう」
なんて不幸に引っ張り込もうとすることを言うから面倒なことになってしまう。
ハイジとはケラリンの会社の悪友。
アメリカ人が彼女の日本名Hideyoを発音できなくてハイディヨーから派生してハイジとなりきっかけですっかりハイジという名前が定着してしまっている。
「えー。そんなの行きたくなーい。」
ハイジもケラリン同様とってもはっきりした性格、NOといえる日本人。
「そんな事言わないで一緒に行こうよ、人数多い方がいいし。」
「じゃあ、ケラリンが行くならハイジも行く」
・
・
・
・
「って言う話になっているんだけど、ケラリンちゃんいかない?」
とみっち畑中。
「えー。行かなーい。行ってらっしゃーい。」
「でも、あの焼き肉食べ放題も7月末でもう終わっちゃうんだって」
「え、うそ、そうなの?じゃあ行く。」
「意外と単純ね。」
「、、、でもね、ケラリン、モーリーとはねえ、、、あまり話題ないからなあ。隣の席に座るのはちょっと避けたいんだけど、、、、あ、ケラリンが座席表を作っていい?みんな指定席。だったら行く!!!」
---次に続く---
ヘビー級 その② ~デジタルカメラ~ (後半)
--- 前回から続く ---
とにかく、そんなこんなで、モデルとしてふさわしい美人なタカコサンやら面白いアメリカ人コトラ氏の写真を撮ったりしていたが、写真を撮るのも飽きはじめた数日後。
リッチがまた無表情でやってきた。
「へーい、ケラリン。メールが来ないけど。どうなってるんだーい?」
「え?メールって?」
「僕の写真。この前撮ってたでしょ、ユー。」
「あーーーーあ。え?送って欲しかったの?だって、メモリがどうのこうのって言ってたじゃない。送ってないよ。」
「そういうメモリの大きいものを送っても大丈夫かシステム・テストをしたかっただけさ。」
ぶっ。
どこまでもかわいくないのだ。素直に送ってくださいって言えばいいのに。
でも、心なしかすこし照れくさそう、きっと自分の写真を送って欲しいなんて言いにくいのだろう。そういわれてみれば、少し赤い顔をしている。
「そっかああ。送ってほしかったのかあ。どうしよう。もうリッチの写真削除しちゃった、、、」
「、、、、、」
ごめん。だっていらないって言ったじゃない。
明らかにむっとしてリッチの去る後姿を見ながら、ケラリン何か悪いことしたのかなあと罪悪感にかられてると、能天気にジローさんまたしても登場。
「ケラリンちゃん、この前のさ、なんだっけ、あれ、なんだっけ?」
「え?なに?なんだっけってなんだっけ?」
「ほらさ、なんて言うのあのカメラ。」
「あーーーあ。カメデジのこと?」
「そーそーそー。それそれ。いやね、なんて言うのかなって思い出せなくて。」
ケラリン、全く悪気はなかった。
友達同士で時々、モデルのことを「デルモー」とかハワイのことを「ワイハー」とかふざけてひっくり返していったりする。多分テレビ局の人の業界用語だかなんだかでジャパニーズ・バブルの時代にそういうひっくり返し言葉が流行った名残だと思う。その延長のつもりで「デジカメ」を「カメデジ」といってしまった。
でも、ハワイを「ワイハ」と言ったところで地図に「ワイハ」と書き入れる人はいないように、ケラリン、ジローさんも分かってくれてると思っていた。
しかし、ヘビー級ジロー、事態は思った以上だった、、、。
「いやあねえ、お客さん。世の中はねー、流れに従わないといかんですねー、最近は本当に流れが速いからぁ」
すっかりご機嫌でジローさんお客様とお電話中。
「これからはね、PCの時代じゃないんですよ。PCの時代じゃ。やっぱりね、これからはパソコンの時代なんですよー。PCなんかあ使ってちゃあ遅れちゃいますって。ええ。そうですよ。パソコンじゃなきゃあ。そうそう、ところでお客さん、カメデジって知ってますゥ?カメデジ。カメラデジタルのことなんですけどね、そーそー。え?デジカメ?デジカメなんて言いませんよ、カメデジですって! それがね、、、、、、」
げげげげげげ。
あえていうならパソコン、パーソナル・コンピューターを略してPCでしょうが。PCとパソコンは同じでしょうが。それに「カメデジ」って、なあに?
ケラリン、なすすべもなく、ただただお客様もヘビー級でありますように。ご冥福を祈るばかり。
あれ?ご冥福とは言わないか。
ケラリンも日本語、ずれてきてるかなあ。
ヘビー級 その② ~デジタルカメラ~ (前半)
ケラリン、普通のかわいーい女の子なので(異論、反論、激論、却下、否認、凍結、あ、凍結は関係ないか。なんでも認めます)ショッピングは大好き。
ライト級ケラリン、最近まで日本で東京は神田でOLをしていたりもした。
OLみんなで、お買いものー、なんて言うときは「銀座」とか「有楽町」とか「いかにも」って言うところで買い物なのだ。しかし、一人になると、電車は逆方向に乗って、秋葉原にいく。
そう、ケラリン、服とかバック、靴のお買い物も好きだけど、でもそれと同じぐらいデジタル製品、電気製品大好きっ子なのだ。どんなに便利な電気製品が発売されてて、いくらで売ってるか調査する。もちろん、電気製品とは言っても、掃除機とか冷蔵庫、トースターなんて家電ものには興味ないけど。
コンピューター、デジカメ、カメラに携帯電話。そういう、今をときめく商品に興味深心。朝から新聞折り込みチラシを片手に、マーケティング調査に出かけることもある。
そして、いま、巷でなんと言ってもホットなのはおそらくデジタルカメラ、略してデジカメだろう。
日本にこの前帰ったときは、どのメーカーも有力なタレントを使っての猿カニ・デジカメ合戦。
そうか、そーなのか。 デジカメの時代なのか。
ケラリン、俄然デジカメに興味を持った。
さっそくデジカメを購入シカゴに帰ると、ケラリンは会社のみんなを撮ってみようと試みる。
そんなとき、ちょうど我が社のシステム担当のリチャード、略してリッチが通りかかった。
「ハッロー!リッチー!デジカメでーす。笑ってぇ!カシャ。」
「Ha?何それ。」
リッチはそういうときでも仏頂面。
彼は、「まーいーにーちー、まーいーにーちー♪♪ ぼくらは鉄板の~、上で焼かれて~、、、」じゃなくて、毎日毎日パソコン相手に仕事をしてるせいか、感情を忘れてるのだ。ま、いつものことだからいいのだけど、写真撮るときぐらい笑ったらいいのに。
それはともかく、リッチは
「ヘーイ、ケラリン。僕はデジカメには全然興味ないね。勝手に撮らないでよ。そんなのまーさーかー、僕のところにメールしてくる気じゃないだろうね。コンピューターのメモリー容量をすごく食うんだからやめてほしーね。」
と、あくまでも冷静沈着無表情。
全然かわいくないオッサンなのだ。
「でもね、日本のデジカメは進んでるからたとえメールしても圧縮して送るから全然容量食わないんだよーだ。」
わざわざ説明するまでもないけど、ケラリンも一応言っておいた。フーンだ。かわいくないね。
するとそこへ
「ケラリンちゃん、僕の写真メールしてね。」
「あ、ジローさん!ジローさんの写真、よく撮れてたよー。もうメールしたから。それをコンピューターのウォールペーパー(壁紙)として保存しようね!」
「もっちろんさー」
ジローさんはいつもとぼけたことばっかり言ってるけど、口を開かなければとってもダンディーでかっこいい人なのだ。でも多分「ウォールペーパーで保存しようね」というのはどう言う保存なのか分かってないと思うし、もし分かったとしてもそもそも自分の写真をウォールペーパーにしちゃうというのも何かと思うけど・・・
「ありがとう、ケラリンちゃん、君はいつも進んでるねー!!」
非常にかわいいオッサンなのだ。
ただヘビー級に「進んでいる」いわれると、すごく遅れてるような不安に陥る難点があるが。
--- 次に続く ---
ヘビー級 その① ~七夕の巻き~
ここはアメリカはシカゴ。アメリカではNY,LAにつぐ第三の都市である。
とはいっても、NYやLAのように歩けば日本の文化に当たり、日本語だけで生活できるといっても過言ではないうらやましい地域とは雲泥に違って、やっぱりかなりアメリカンな土地柄なのである。
日本から離れ、日本語が耳から入ってこない、こういうところに住んでいるとだんだん日本語能力が落ちてくるのは誰にでもある現象。
そして、逆に何も日本の情報が入ってこないので、日本語の進化にもついていけないし芸能情報やテレビのことなんて、相当目を光らせていないとたちまち浦島太郎になってしまうのだ。
「アムロのお母さんが惨殺されたって知ってる?」
「ええ!!本当?いつのニュース?」
「アムロのお母さんがあ? なんで殺されるの?」
「ちょっと取り合えずインターネットで調べよう調べよう。」
ワイワイワイワイ、、、、
皆さんも記憶に新しい、あの事件の翌日。
情報に疎い我が会社でも一応は朝のトップニュースとしてみんなで驚いたものだった。
社内で、アメリカ在住歴ミドル級のみっち畑中、ヘビー級ジロー、同じくヘビー級のタカコサン、ライト級クーニーのメンツでみんなでわいわい。
「〇〇新聞を見てみよう。おお、本当だ、へー。」
「すごいわねー。アムロさんかわいそうねえ。」
「どういうしがらみがあったのかなあ。」
とここまではよかったのだ。ライト級ケラリンもみんなに混じって「へー」とか「はあー」とか言ってたら最後に一言ヘビー級ジローが
「で、アムロって誰?」
えええ??それを知らなくて今までみんなの話に付いてきてたのかーい?
間を置くことなくヘビー級タカコサンが
「いやあねえ、ジローさん、アムロさんっていう人なのよ。そういう人のお母さんが殺されたのよ。」
いや、まあそうだけど、、、
あの「アムロ」のお母さんだからこそ話題になる話。そうじゃなきゃ、なんで号外が出たりするのかってな事を全然分かってない。
ヘビー級の彼らは「一般人アムロさんという人のお母さんは号外が出るほど残酷に殺された」と思っているようなのだ。あれれ。。。
ライト級はもちろん、ミドル級まではなんとか日本ネタにはついて行けているが、ヘビー級になってしまうともう取り返しがつかなくなる。
完全に浦島化している。
まあ、日本の情報に疎いのはまだ仕方ないこととしよう。それにアムロを知らなくても別に恥ずかしいことでもなんでもないのだ。しかし、過去に培った日本語能力、日本文化についても人間忘れてしまうものなのか。
この前シカゴに唯一ある大手ヤオハン日本食料品スーパーに行ったときだ。中には日本の書店が入っている。
LAにもNYにもある海外では結構幅を利かせている書店チェーンである。店内は静かだった。そんなとき、
「ねえ、マミー。タナバタって何?」
日本人親子の小さな女の子が母親に聞いてるのである。
あ、そっか。もうすぐ七夕だなあ。日本にいないと風習も忘れがちになってしまう。
「七夕というのは、なんたらかんたらなんたらかんたら、、、、」
なんとなくケラリン、聞くつもりはなかったが耳に入ってきていた。
「そう、そしてね、とても愛し合っていた彦星さまと織姫さまは一年に一度だけ7月7日に三途(さんず)の川を渡って、会えることになったのよ。」
えええええええええっ!!!
三途の川!?
それは死人が渡る川でしょーー?
天の川じゃないのーーー?
ケラリンまだ20代とはいえ、立ちくらみ、めまい、動悸、救心、救心。倒れるかと思うほど驚いた。
しんとした書店の中、その親子に注がれる視線はケラリンからだけではなかったはず。
ああ、いかん。あんな親ではいかん!!
まったくもって、けしからん!
こうして浦島化が進んで日本の文化はとんでもない方向へと伝承されていってしまう。
すぐに「日本文化愛護協会」を発足。あれ?それは動物愛護協会か。ま、いいや。日本文化愛護会長として使命を感じてしまう。
しかし全然気づかないその親子はそのまま堂々と店を出ていく。
それにしても、そうとうのヘビー級だ。
カーーーーン。
ライト級ケラリン。ノックアウト。
- 平林 章仁
- 七夕と相撲の古代史
- 水木 しげる
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