公益財団法人日本郵趣協会(JPS)新体制への所感 | 郵便・切手から 時代を読み解く

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切手コレクター必見! 経済評論家にして郵便・切手評論家でもある池田健三郎が、辛口トークと共に「ゆうびん」や「切手」を通じて時代を読み解きます。
単なる「切手あつめ」や「郵便物コレクション」とは次元の違う、奥深き大人のライフワークの醍醐味をお伝えします。

公益財団法人日本郵趣協会(JPS)の機関誌「郵趣」8月号が届きました。

 

それによれば、私が正会員として加入しているJPSの役員改選がこのほど行われ、既報の通り新理事長に池原郁夫氏が就任するなど、新体制が公表されました。まずもって、新役員の皆さんには、しっかりとリーダーシップを発揮していただき、適切なガバナンスの下で公益財団法人としての社会的機能を高めていただくことを期待しています。

さて、私は、会員減少が続いているとはいえ、JPSは依然としてわが国最大の郵趣団体であり、とくに2大国内競争展の1つであるJAPEX(全国切手展)主催団体として高い公益性を有することに鑑み、通常の機関誌購読料に活動支援費が上乗せされた割高な正会員会費を払って支援しています。その理由は、少なくとも公益財団法人としてのJPSは、「尊いボランティアにより成立する団体であって、間違っても閨閥や同族経営、家元制度に立脚するものでは絶対にない」との原則に立っているからです。

さて、新執行部は、既に古希を越えてなお理事長を務めていた京都在住の福井和雄氏が会長(非役員)に退き、後任に池原理事が昇格した一方、副理事長職にあった山田廉一氏は海外勤務中ということもあり理事に降任し、これにかわって新たに副理事長には金川博史理事が昇格しました。

 

他の理事については、立川賢一理事が退任され、入れ替わりに国際展審査員資格を持つ2人目の役員となる榎沢祐一氏が理事となりました。他の方は留任なので、これにより理事の総数は8名となりました。

 

なお非郵趣家の事務方である落合宙一専務理事は留任となり、事務局長を兼ねる松尾謙一理事は新設ポストである常務理事に就いています。

まず一正会員としての所感を述べれば、新理事長の池原氏については既に当ブログで所感を述べましたので繰り返しません。ご自身の企業経営の経験やロータリアンとしての社会奉仕活動における実績を活かして、ガバナンスをしっかり立て直して頂きたいという1点につきます。また、郵趣界の将来を担うであろう、若手フィラテリストであり、国際展金賞受賞者である榎沢氏が執行部入りしたことには大いに期待が持てます。榎沢氏の活躍を楽しみにしています。

 

次に、わたくしが今回の役員改選で注目したのは、わざわざ定款を変更してまで、従来なかった役職である常務理事を設け、それに事務局長を兼ねる松尾理事を就けたことです。この点については、正会員だけに配布される「正会員会報」上でも何らの説明もなされていません。

 

それゆえ、ひとことで言えば新体制は引き続き「事務局ファースト」であり「フィラテリスト・ファースト」とは真逆の布陣と感じています。

 

公益財団法人の定款変更は組織運営上の重要事であり、財団の主体を構成する正会員に対してすらその説明を回避していることはやはり残念だと言わざるを得ません。絶対にダメだとは申しませんが、2019年度になって、そのような役員体制に変更すべき必然性は感じられませんので、当然きちんと説明していただきたい。

 

一般的にみて、この規模の財団法人において、非フィラテリストの事務方の常勤理事を2名も置くのはいささか過剰との印象も拭いきれず、全体で9名しかいない執行部としてのバランスを損ねているように思われます。

 

事務方が強すぎる組織というのは、どうしても発想が内向きなものになりがちで、案の定、2019年度の最重要課題が「会員力の増強」などと謳われています。これはまことにおかしな話で、公益財団法人であれば公益すなわち「より多くの国民の利益」を増進することが名目上であるにせよ掲げられて然るべき(例えば、「フィラテリーの国民一般に対する一層の普及」など)にもかかわらず、内部の会員力を増強することが第一に掲げられるなど、首を傾げたくなる仕儀といえましょう。

 

これまで再三指摘してきたように、JPSは専務理事と事務局長以外に常勤役員がおらず、この常勤役員2名がJPSと密接な利害関係を有する企業の役員を兼ねていることから、ガバナンスやコンプライアンスの点で疑念が生じやすい(注)ことは事実です。そのような懸念があるにもかかわらず、さらに常務理事を置くことは、事務局が独断専行に陥りやすく、一般的には不正を生むリスクを高めかねませんので、経営の透明性向上やガバナンス強化にはまったく逆行する効果しかもたないことになります。こうした点からも、今回の措置は、経営の不透明が増すことになった以上、とても残念な判断と言わざるを得ません。

 

かくなる上は、専務理事、常務理事よりも上席の役員である理事長および副理事長が、日々の事務局における業務執行をきびしくチェックし、筋の悪い契約や取引が発生しないよう目を光らせる必要があることを指摘しておきたいと思います。今後、池原新理事長のリーダーシップが試されることになるでしょう。

私は従来よりJPSの各種事業に従事するボランティアの方々の尊い支えに心からの敬意を持っており、こうした事業を郵趣界のために今後も継続してもらいたいとの思いを抱きながらも、会員目線でみて協会経営における不透明さが解消されていないことを理由に、2008年度以降の「寄付」要請には、不本意ながら敢えて応じてこなかった経緯があります(「全日本切手展」については、これらが担保されていると判断し、これまでは寄付に応じています)。

今回、池原理事長による新体制への移行を機に、上述のような不透明さが払拭されるのであれば、わたくしはこれまで停止していた寄付行為を再考しようかとも考えていたところです。しかしながら、今回の新体制の走り出しを観る限り、そうした前向きな気持ちは萎えてしまったというのが正直なところです。

 

今後は私や多くの会員が喜んでこうした寄付などに応ずることができるよう、透明性と説明責任のレベルを大きく改善することがJPS新体制に課せられた最低限の課題であると考えており、これに真正面から取り組み、成果をあげられる執行部へと劇的に変容を遂げていただきたいと正会員の一人として切に願うものです。

 

というわけで、引き続き、「ガバナンス改革なくして、JPSの持続可能性なし」を指摘して本稿を締め括ることにいたします。

 

(注)JPSの入居する博物館ビル所有会社のオーナーが専務理事であること、JPSの機関誌・カタログ・書籍類制作を無競争で受託している出版社の社長も専務理事であること、事務局長はそのグループ企業の従業員出身であり現役員であることに鑑みると、元々JPSの執行体制は利益相反が極めて発生しやすい体質になっていると考えられる。