選挙は正しく | 郵便・切手から 時代を読み解く

郵便・切手から 時代を読み解く

切手コレクター必見! 経済評論家にして郵便・切手評論家でもある池田健三郎が、辛口トークと共に「ゆうびん」や「切手」を通じて時代を読み解きます。
単なる「切手あつめ」や「郵便物コレクション」とは次元の違う、奥深き大人のライフワークの醍醐味をお伝えします。

世間では衆議院総選挙の真っ最中ということで、あと1週間の選挙運動期間となりました。

 

これに因んで、今日は昭和11年2月に使用された標語機械印をご紹介します。

 

ご覧の通り、「選挙は正しく」の標語が鮮明に読み取れる使用例となっており、京都の聖護院局から滋賀県に送られました。下の画像が葉書の全体像です。

 

この標語はあくまで「選挙は正しく」であって、「選挙に行きましょう」とか「投票しましょう」ではないので、選挙自体の啓発を意図とするものではなく、「腐敗防止」に主眼が置かれたものであることは言うまでもありません。

 

この葉書が使用された当時である、昭和11年(1936)年1月21日、立憲政友会は衆議院に岡田内閣不信任案を提出し、時の岡田啓介首相は衆議院を解散しました。

 

この前年、岡田内閣は選挙の腐敗を是正する為、革新官僚(新官僚)の働きかけの下、選挙粛正(選挙革正)をスローガンとする選挙粛正委員会令を勅令で公布し、選挙粛正中央連盟(会長・斎藤実前首相)を結成していました。
 

これを受けた第19回総選挙は、選挙粛清中央連盟下で行われる初のものとなり、買収・供応の取り締まりなどが行われ、政党も連盟の監視を意識しながら選挙戦を戦う事となり、それはあたかも選挙粛正中央連盟下で総選挙が運営されているかのような様相を呈していました。

 

この標語入りの機械日付印は、こうした時代背景の中でつくられ、使用されたのです。しかし考えてみれば、この選挙から80年以上もたった今日、いまだに「政治とカネ」が問題になっているのですから、政治というものは他の分野(例えば情報技術)などに比べて、本当に進歩が遅いと実感せずにはおれませんね。


因みにこの総選挙の結果、与党であった立憲民政党が第一党となり、逆に政友会は鈴木喜三郎総裁が落選するなどの惨敗を喫したため、岡田内閣の政権基盤は安定化すると思われました。しかしながら総選挙からわずか6日後、二・二六事件が発生し、岡田内閣は総辞職する事となったのです。