それなりに美味しい食事をして

それなりに酒を酌み交わして

その日の僕はさらりと、

上司と別れた。


僕は君に辞めてほしくない。

彼はおどけるように、

でも、少し物悲しく、

彼は僕にそう告げた。


本気で引き止めてくれてるようにも見えるし

まぁでもこの人は出て行くよね、という

諦観を過分に含んだもののようにも見えるが


誰かに求められるってのは

それはそれで嬉しいことだ。

責任感に心が震える。


しかし、誰かに求められないと

立ってられないほど

自分の羅針盤が脆弱だと気付かされる。


会社を辞めるとか辞めないとか

転職するとか独立するとか

いろんな選択肢がそりゃ世の中にはあり


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えー、もったいないよ

そんな安定した立場を捨てるなんて


同じように働いてたとしても

時給は圧倒的にいいんだし


いや、結局

サラリーマンなんて安定してて

そんなやつから新たなビジネスは生まれない


守られた位置の人間に

経営者の孤独なんてわかるはずがない

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何度も何度も何度でも

ぶつけられた

投げつけられた言葉の数々に


めげずに向き合い続けた結果が

今現在の僕の存在。


ごく一部のハイレベルな

インフルエンサーには

到底敵わないほどの

能力かもしれないが


こちとら日々刻々と

刀を研ぎ、準備し続けてきた。


組織を抜ける事がいいとか

悪いとか、そんな話ではなくて


自分がやりたいことに

チャレンジしたいってのが


チャレンジ・即・斬の人々には

目障りで気持ちが悪いのだろう。


そりゃ単純に

ここに残って

今の仕事を突き詰めて


次のステップに移って

戦い続ける道は


整地され舗装され、ロードサイトには

マクドやミスドやモスがあるような

片側3者線のように、


進みやすく歩きやすく

万人にわかりやすい設計施工だ。


その道がこんなにはっきりと見えてるのに

地位と名誉と安定を鑑みたら

絶対に辞するべきではないんよな。


頭では理解するものの

厨二病よろしく、

弾かれたレールと、

整地されたロードに

ささやかな嫌悪感を抱く。


ここにいたら

今後もサクセスストーリーは

V9時代の球団よろしく

延々と続き続けるやろうけど


そんな人生、本当に楽しいか?


暇つぶしが、人生の本質なのであれば

僕はより難しい暇つぶしを選びたい。


残って欲しい、お前が必要だ


そりゃそうだろう。

そんな人財になるために、

僕は僕を賭けて

ここまで生きてきたのだから。


奢りでも昂りでもない、

自分の目的と、自分の像が

重なっただけの話である。


でもさ。


僕も逆の立場なら

残って欲しい人には

同じようなことは言うだろうな。


そうだとしたのなら。


本当に大切なのならば

自分の命を賭けてでも、

自分の腕や足を失ったとしても


殴ってでも、殺してでも、

そこに縛り付けておくような

迫力でその人に対峙するだろうな。


抜刀術の達人のような

鬼の気迫で止められるような


出ていくと言うのなら、

俺の屍を越えてゆけ、と


刀を抜き、僕の前で蹲踞しては、

本気でぶつかられることがないのが

正直ホッとしている。


くれぐれも繰り返すが僕は

辞めたいんじゃない。


僕は

生きたいだけなのだよ。