男のサガとでも言いましょうか、


相手がいくら歳を召していても

スカート履いて大股開いてたら

目が行ってしまうし


豊満バディの方が

その体を得意げに揺らして

歩いていたら目が行ってしまう。


道ゆく人が美しければ

目を奪われる。


いやいや、何をそんなに

がっついてるのか。

もうおじさんだよ、と

自分に言い聞かせる日々は

多少効果があったのか


10代の時のそれとは

比較にならないくらいに

目移りする事が減り


世の中を見る解像度を

落として歩く事にも

幾分かは上手くできるようになりました。


しかし、やはり、

魅力あふれる人というのは

その魅力の大きさに気づいてか

気づかずか、


周りに嫌というほど

振り撒いてしまうみたいです。


そんな、


わー、と

声が出そうなくらい、

可憐で美しい女性に


つい先日目を奪われました。


立てば芍薬座れば牡丹

歩く姿は百合の花


田嶋陽子さんが聞いたら

気が狂いそうなくらいに

キレてどつかれそうな

フレーズが頭に浮かんで


あんな人もいるんだな、と

感心しつつ、


いかんいかんよ、と慌てて

読んでた本に目を落としました。


日本屈指の温泉県に飛び立つ

飛行機の中の些細な出来事。


一期一会、とは言わないわな。

出会ってないもんな

見かけただけだから

こういうのはなんていうのだろう。


そんなことをぼんやり考えたら

その美しい女性のパートナーも

乗り込んできました。


それがまた冴えない男子で

毒にも薬にもならない見た目。


ボーダーのロンTにカーディガン、

太さも中途半端のデニムに

アウトドアブランドの小さなバックを

斜めがけにして


なんのこだわりもないメガネの奥の目は

なんともいえない頼りなさ。


きっと優しいんだろうな

きっと料理がうまいんだろうな

きっと家事とかめっちゃするんだろうな


それくらいないと

不釣り合いじゃないか、と

思うくらいのカップルでした。


そういや学生時代

後輩の可愛い女の子が


たくさんの恋人立候補を押しのけ

とっぽい男子と付き合ってて


しかもその男子が

実は我が我が系で、

三歩下がって三つ指ついて、の

カップルになってて


人って不思議だなぁと

感じたものです。


魅力って色々あるもんな。

そうだ、きっとそうだと

心の中で納得したあたりで


滑走路から滑るように

テイクオフしていく車体。


『本日は大気の影響から、機体が

 大きく揺れることが予想され…』


そんなアナウンスを

まだ起き抜けで、昨晩のハイボールが

やや残る頭で聞きながら


僕は船を漕ぎ始めます。


朦朧とする意識の中で

なぜか新婚の時に

初めて長男と乗った飛行機の場面と


オールブラックスのナンバーエイトくらいに

強靭な妻の対比が頭に浮かびます。


まさに細腕奮闘記の彼女の歴史は

その頃から始まっていて


耳が痛いとメソメソする長男に

慈しみをもった視線を向けつつ


飛行機という手段を選んだ

僕に憎しみの視線を向けてて


おーなるほど

視線ってこんなに自然に使い分けられるんだ

と冷静に思った当時の自分は


ねぇなんとかならないの?

飛行機いつもより早く目的地に

着くように交渉して


と、その唇が動かないことを

祈った当時の事を


ふふふ、と笑ってしまいました。


さっきの可憐な人も

いずれ母になるでしょうが


いくら母が強いからといえど

うちのサベアかマコウのような

強靭な妻みたいにはならんわな、と


そんな事を思いながら

深く深く眠りに落ちていきます。



30分くらいたった頃、

終点ですよ!と

駅員に体をゆすられたかのように

体が大きな揺れを感じ、

うっすらと目を開けました。


驚くほど飛行機は

アップアンドダウンを

繰り返しています。


CAがにこやかながら冷静な声で

『平常運行で、支障はありません』

と、すかさず機内放送を流し


最近、飛行機乗ったら

まぁーよー揺れますなぁと

また夢の世界に戻っていきます。


夢現の中、ズドン、という音と

逆噴射の音で目が覚めて、


着陸、軽く伸びをして

これから始まる商談に向けて

気持ちを引き締めます。


さぁさぁ降りよし。

狭い空間からいち早く、我先にと

たくさんの人が出て行きます。


僕もその流れに乗って

歩みを進めると


二人席でまだ座ってる人がいて、

なるほど、後でゆっくりタイプか、と

横目に見ていると


あれ、さっきのカップルだ

と、目につきました。


すると、周りに溢れるばかりの

魅力をばら撒いた彼女は


エチケット袋に

その小さい顔を埋めて

違うものをばら撒かないようにしてました。


想像通り優しい彼氏は

背中を優しくさすってて、


これからの旅程大丈夫かな、と

こちらが心配するほどです。


そこで感じました。

やはり、パートナーは

可憐な人より強い人がいいな、と。

うちの妻で良かったな、と。


可憐さよりも、力強さ。

包容力よりも、推進力。


時代は、アイドルよりも

ナンバーエイトな女子だな、と。


こんな事書いたら

目を三角どころか四角にして

怒られそうやなぁ。


でも、彼女には

本当に感謝しています。


彼女が居なければ

うちの息子たちも立派に育てられなかったし

僕自身も育たなかったと思います。


いつもお世話になっております。

長年のパートナーシップありがとね。

これからもどうぞよろしく。