こんなはずじゃなかった。
こんなつもりじゃなかったんだ。
そう思ってももう遅い。
進むか、戻るか、決めなかればならない。
今すぐに。そんな時あなたはどうする?
今日はそんな話。
小学生の世界は非常に狭いもの。
幼い両足で行ける先はたかが知れているし、
そもそもあの道、この道がどこに繋がっているか
なんて、わからないもの。
決められた通学路と学校を往復する、
大柄だけどおとなしい子供だった僕が知るのは
団地の周回道路と、そこからまっすぐに伸びた
畑と田んぼのど真ん中に走る
所々剥がれた舗装道だけだった。
公民館を左に折れ、少しだけ進むと
裏門があり、学校に到着する。
刺激もない、新たな発見もない、
無味乾燥な毎日に彩りを与えてくれたのは
そう、自転車という乗り物だった。
歩いて10分かかる距離を
大きく短縮して進むことができ
初めて買ってもらった自転車で
狂ったように団地の周回道路を
何周も何周も走り回ったこと、
その時の爽快感を、今も肌に覚えている。
あれは小学校3年生か、4年生か
それくらいの時期。
小学校期における中弛みの時期。
いじめられっ子から脱却した時期。
成長著しい僕の体に合わせて
いよいよママチャリに乗る時期になった。
正確に言えば、祖父のお下がりだったから
ジジチャリだったんだけども。
色冷めた白で、アクセントのように
所々錆が浮いた自転車だったけど、
僕はかなり、気に入っていた。
タイヤが大きくなったからか、
一回のペダリングで進む距離が伸びる。
目的地まで辿り着くのがさらに速くなった。
走るのが遅い僕でも、
自転車なら人並みのスピードで
いや、人以上のスピードで
走ることができたから、嬉しかった。
ある日、ふと思った。
そうだ、河川敷をまっすぐ行けば
海に行けるんだった。
学校行事のお別れ遠足で
自宅から臨海公園まで往復して歩いた事を
すっかり忘れていた僕は、
なるほどそうか、その道なら、行けるぞ。
と一人嬉しくなった。
とびきりの秘密のように、
一人心の中で
温めた。
男の子は、誰しも冒険願望があるもので
秘密基地を作るもの。
内向的で一人ぼっちな僕にも
ご多分に漏れる事なく、
人並みの冒険心が宿っていたことになる。
蝉時雨がうるさい7月、
学生の特権である夏休みのある1日。
僕は、旅に出た。たった一人で。
僕しか知らないルートを。
ジジチャリと共に。
