次は終点、
という無機質なアナウンスと共に、
出荷の旅は終わりを告げ、
自動運転よろしく、
自ら納品されるように
仕込まれた人々が、
狭い改札を我先にと
押し進む。
はぁ、今朝も、か。
鳴り止まない偏頭痛を抱え、
鮮やかな若草色の電車を
恨めしく思い、
地下駅にしては短い階段を、
一段
また一段と、登っていく。
人の形をした
それぞれの人生を歩む生き物の群れが
規則正しく流れる長い回廊に、
何かのノイズが発生したのか、
人の流れが鈍化しながら
二分していた。
蟻のフェロモンよろしく、
前の人の背中を上目に見つつ
ゲームに夢中な人々は、
そのノイズをも気付かずに、
サクサク進んでいく。
器用なもんだ。
人の流れが分断してた理由は、
車椅子の男性と、
困り顔の女性が織り成していた。
男性はとにかく平謝り。
女性はいえいえと言いつつ困り顔。
無意識に足を止めた僕は、
『どうかしましたか?』と
声をかける。
見ると、男性の車椅子のタイヤに、
イヤホンが巻きついている。
女性は一所懸命に
それを外そうと試みるも、
なかなか上手くいかない。
やってみます、と
手を伸ばすも。
一抹の不安が頭をよぎる。
手先が不器用でセンスのない人間と
父親から言われながら育った僕は、
図画工作美術習字に技術家庭
手先を使うあらゆるものが
とにかく苦手でだった。
出来ないからと断ったのに
無理やり自宅で網戸を
張り替えさせられた時も、
あまりのスピードの遅さと
仕上がりの悪さに
妻に不器用と罵られた。
彼女の父は左官職人だからだろう。
プロの技と比べられても困るし、
そもそも出来ないと断ってるのに。
話が横にそれた。
こりゃ腰を据えなきゃ。
スーツ姿なのを構わずに
通路にどっしり腰を下ろす。
よく見ると、小さい子供が
急いで結んだ靴紐みたいに、
絡まった場所は明確で。
5分足らずで取り外す事が出来た。
取り外し終え立ち上がると、
実はそのイヤホンは、
その車椅子の男性のものだったことが
僕は初めて分かり、
男性は僕と女性に
あり得ないくらいの量の
ありがとう、を。
女性は男性に、
よかったですね!!
僕に、
本当にありがとうございます!!
と、暖かい言葉のプレゼントを
惜しげも無く捧げてくれた。
いえいえ、大したことじゃ
ないですから。
そう言い残すや否や、
少し恥ずかしくなった僕は、
すでに人が少なくなった
出荷ルートに慌てて戻る。
ただ、なんだろう。
生きてる、って
こういうことなんだなと、
改めて感じることができた。
僕は、人が有難いと
思うことを考えて提供したいんだと。
もちろん言葉でもらえても嬉しいし、
こんな僕を見て、
あれくらいなら僕でもできるよ、
となってくれる人が出来たら
もっと嬉しい。
働くとは。
生きるとは。
感謝である。と
お二人とも、
思い出させてくれて、
ありがとう。