すっごい好きな人が居たんですよ。

可愛い子。

 

出会いは小学校の頃。

 

黒目がちなその目に

蚊の鳴くような細い声に

僕はメロメロでした。

 

ただ、そんな彼女が

メロメロだったのは

バスケ部のイケメンで

 

でもそいつは

バレー部の女と

付き合ってて、

 

なんだよ漫画かよという

シチュエーションを

一人笑った14歳の夏でした。

 

その後、部活を引退し

高校受験という

いいならぬプレッシャーを

希釈しようと

 

付き合っちゃうブームに

乗っかりちゃんと彼女ができたけど

 

その子はずっと可愛いなあと

思ってました。

 

僕は15歳で地元を離れ

誰一人知らない学校に行ったので

 

その日から一時

その子と会うことはなく

数年が過ぎたある日。

 

その子が好きだった人が

バスケ部だったからではなく

 

スラムダンクの影響で

バスケにすっかりハマった

ラグビー部の僕は

 

練習の合間に

ハーフコートで

連日バスケに励む日々

 

長期休暇で帰省した時に

卒業した中学校にある

外のバスケコートで

 

現役中学生バスケ部と

バスケットを楽しんだりして。

 

その日は友達から

安くで譲ってもらった

ラルフローレンの

パチモンのTシャツを着て

 

ゴール下を制する

右プロップという

不思議な光景を作ってました。

 

するとどうでしょう。

僕のあの子が現れたじゃないですか。

相変わらず可愛い。

 

久しぶり〜元気だった?

と声をかけられ

 

トロンとした目で

元気元気と答える僕。

 

すると、そこで

彼女の顔が一気に曇ったのです。

 

どうしたのかな、僕、汗臭い?

と思ってた僕に

 

「そのTシャツどうしたの?」

と糾弾するように言います。

 

え?友達から買ったよ?

似合ってる?

 

その場を取り繕うように

笑顔で聞くと、

 

さらに表情を曇らせ

こう続けたのです。

 

「それ、私の彼氏に

 旅行先で買ったものなの」

 

へ〜そんな偶然もあるんだな〜

 

…ん?そうなの?

どういう意味?

 

友達に聞くと、

友達の友達の友達が

彼女の彼氏で

 

生活費に困って売ったものが

僕に回ってきてたみたい。

 

彼女からすると

自分との思い出を

転売された事で

心の中はハリケーンです。

 

ええと、その。

どうしよか。

返した方がいいのかな…

 

困惑した僕の

間抜けなセリフをきっかけに

顔を上げた彼女は

 

うっすら涙を浮かべて

そこから駆け出していったのです。

 

ち、違うんだ〜と

叫びそうになる僕。

 

で、でも僕は

悪くないよな?

人から買ったんだぜ?

 

告白する事もなく振られ

一方的に嫌われるという

買い物って

この世に存在するんだな。

 

田舎の夏の夕方は

いつまでも明るくて

暮れなずむことを

忘れているみたいだけど

 

僕はすっかり

途方にくれていたのでした。