SNS教育講演家が解説:子どもにスマホを持たせる保護者へ~スマホ依存・ネットいじめ・トラブル防止のために~

SNS教育講演家が解説:子どもにスマホを持たせる保護者へ~スマホ依存・ネットいじめ・トラブル防止のために~

子どもにスマホを持たせる前に、保護者が知っておきたいことをSNS教育講演家が解説。スマホ依存やネットいじめ、個人情報流出、課金、SNS上のトラブルを防ぐためのルールづくりや声かけのポイントを、具体例を交えながら分かりやすく紹介します。

今、自分が使っているパスワードは全部でいくつあるか。

 

すぐに答えられる人は、あまり多くないと思います。僕自身、数えようとして途中でやめました。ネットバンキング、SNS、通販、子どもの学校の連絡アプリ、動画のサブスク。気づけば、ログインが必要なものだらけです。

 

そんな中で、2026年9月1日に警察庁が公開した資料のタイトルが、なかなか強烈でした。

 

「パスワードだけの認証はもう限界です」

 

国の機関がここまで言い切るのは珍しいことです。今日はこの話をさせてください。

 

◆乗っ取られるのは「うっかりした人」ではない

 

アカウントの乗っ取りと聞くと、「よっぽど不注意な人の話でしょう」と思いがちです。でも、数字を見るとそうでもありません。

 

国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣が2026年3月に公表した資料によると、2025年(令和7年)の不正アクセス行為の認知件数は7,190件。前年より34.2%増えています。

 

興味深いのは、その「入られ方」の内訳です。他人のIDとパスワードを使って侵入したタイプの検挙件数399件について、原因の上位はこうなっていました。

 

・利用者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだもの 84件

・フィッシングサイトで抜き取ったもの 77件

・ネット上に流出・公開されていた情報を使ったもの 75件

・知人などによる犯行 61件

 

映画に出てくるような高度なハッキング技術ではないんですよね。上位に並んでいるのは、「推測しやすい文字列だった」「どこかで漏れていたものを試された」。つまり、技術の問題というより習慣の問題です。

 

そして4番目。「知人などによる犯行」が61件、全体の15%ほどを占めています。見ず知らずの誰かではなく、顔を知っている人。ここは、子どもたちの世界でも同じことが起こりうるポイントだと思っています。

 

◆8割が使い回している

 

もうひとつ、裏づけになる調査があります。

 

トレンドマイクロが2026年3月に発表した「パスワード・パスキーの利用実態調査2026」では、18〜69歳の1,034人のうち、84.3%が複数のサービスでパスワードを使い回していました。管理方法でいちばん多かった回答は「記憶している」で40.9%です。

 

8割が使い回していて、4割が頭の中だけで管理している。この状態で、どこか1か所から漏れたら何が起きるか。答えはシンプルで、他のサービスにも順番に試されます。

 

僕は役所で2年働いたあと、今は学校や企業でSNSの話をさせてもらっています。子ども向けの講演でも大人向けの研修でも、「怪しいサイトを見ない」「知らない人と繋がらない」という話はよく出るのですが、パスワードの話は後回しにされがちです。地味だからでしょうね。でも、実際に人生を面倒にしてくるのは、だいたいこういう地味なところだったりします。

 

◆「もう限界」の先にあるもの

 

冒頭の警察庁の資料がすすめているのは、パスキーという仕組みです。顔認証や指紋認証でログインするもので、パスワードを入力する必要がありません。偽サイトでは認証できない、という特徴もあります。

 

先ほどのトレンドマイクロの調査では、パスキーという言葉自体は91.1%の人が知っていました。言葉はもう届いている。あとは使うかどうか、という段階まで来ているわけです。

 

とはいえ、いきなり家じゅうの設定を変えるのは大変です。順番をつけるなら、お金が動くもの(銀行・証券・通販)と、連絡手段(メール・SNS)から。特にメールは、乗っ取られるとそこから他のサービスのパスワードを再発行されてしまうので、実はいちばん守るべき場所だったりします。

 

◆明日、家で使える一言

 

お子さんにも、ご家族にも、そして自分にも使える質問をひとつ置いておきます。

 

「そのパスワード、他のどこかでも使ってる?」

 

責める言葉ではないので、たぶん普通に答えが返ってきます。そしてその答えが、今いちばん危ない場所をそのまま教えてくれます。

 

【出典】

・警察庁「サイバー警察局便り R8 Vol.12」(2026年9月1日公開)

・国家公安委員会/総務大臣/経済産業大臣「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」(2026年3月12日公表)

・トレンドマイクロ「パスワード・パスキーの利用実態調査2026」(2026年3月24日発表)

一年前に自分がSNSに書いたコメント、覚えていますか。

 

たぶん、ほとんどの人が覚えていないと思います。僕も覚えていません。SNSの言葉というのは、書いた瞬間がピークで、あとは流れて消えていくもの。なんとなく、みんなそう思っています。

 

でもこの数年で、その前提のほうが、けっこう静かに変わりました。

 

◆「1年逃げ切れば終わり」ではなくなった

 

まず侮辱罪です。2022年7月7日から、法定刑が引き上げられました。

 

それまでは「拘留または科料」。拘留は30日未満、科料は1万円未満です。改正後はここに「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金」が加わりました(その後の刑法改正で、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されています)。

 

ただ、刑の重さそのものより大事なのは、そこに付いてきたおまけのほうだと僕は思っています。法定刑が上がったことで、公訴時効が1年から3年に延びました。

 

書いた本人がすっかり忘れたころに、話が動き出す余地ができた、ということです。

 

◆「消してください」が、言いやすくなった

 

2025年4月1日には、情報流通プラットフォーム対処法(通称・情プラ法)が施行されました。名前が難しいので敬遠されがちですが、中身はわりとシンプルです。

 

大きなSNS事業者は、「この投稿を消してください」という申し出を受け付ける窓口を用意して、原則として申し出から7日以内に、消すか消さないかを判断して本人に通知する。そういうルールになりました。2025年4月末の時点で、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの5社が対象に指定されています。

 

これまで「どこに言えばいいのか分からない」であきらめていた人が、動きやすくなった。そこが一番の変化だと思います。

 

◆書いた人をたどる手続きも、もう整っている

 

2022年10月には、発信者情報開示命令という手続きが始まりました。ざっくり言うと、投稿した人にたどり着くまでの道のりが短くなった制度です。

 

東京弁護士会の会報によると、全国の申立ての約7割を東京地裁が扱っていて、制度2年目の申立件数は前年比で約4割増えているそうです。増え方が、なかなかの角度です。

 

そして開示の請求が出されると、原則として、契約しているプロバイダから発信者本人に「こういう請求が来ていますが、開示に同意しますか」という書面が届きます。

 

自分がとっくに忘れている投稿について、ある日、紙で聞かれる。それが今の状態です。

 

◆いちばん危ないのは、悪意のある人ではない

 

ここからが本題です。

 

違法・有害情報相談センターの資料(2025年10月)を見ると、令和6年度の相談件数は6,403件。ここ数年、6,000件台で高止まりしています。中心にあるのは誹謗中傷の相談です。

 

僕は学校や企業でSNSの講演をしていますが、この話をすると、反応が大きいのは子どもより大人のほうです。「悪口を書いたつもりはないんですけど」という前置きから始まる相談が、本当に多い。

 

叩かれている人を見て、「さすがにこれはひどいですね」と一言だけ足す。炎上しているアカウントに、引用でツッコミを入れる。ニュースのコメント欄に、思ったことをそのまま置いてくる。

 

悪意でやっている人は、そもそもリスクを分かったうえでやっています。あぶないのは、正義感とか、ちょっとしたノリで書いた側なんですよね。書いた自覚が薄いぶん、忘れるのも早い。忘れても、記録のほうは残っています。

 

◆明日から使える一言

 

これは、子どもに教える前に、大人が自分に向けて使ったほうがいい一言です。

 

「これ、3年後の自分が説明できる?」

 

消せるかどうかではなく、説明できるかどうか。3年という数字は、さっきの時効の話からきています。

 

僕は中学生のころ偏差値37で、そこから浪人して一橋大学に入って、霞が関で2年働いて、今は講演をしています。振り返ると、人生の分かれ目はだいたい「言葉を選んだ場面」でした。強い言葉を選ばなかったほうが、あとで得をしていることが多い。

 

送信ボタンを押す前に、一回だけ聞いてみてください。

 

たぶん、それだけで半分くらいは指が止まります。止まらなかったものは、書いていい言葉です。

お子さんが悩んだとき、誰に相談していると思いますか。

 

保護者向けの講演をしていると、「うちの子は何も話してくれない」「反抗期だから仕方ない」という声をよく聞きます。僕自身、学校で子どもたちの前に立つ機会が多いのですが、話を聞いていると、少し違う景色が見えてきます。

 

話していないのではなくて、話す相手が変わっただけ。そういうことが起きています。

 

◆女子中高生の約半数が、AIに相談している

 

菅公学生服が2026年1月に全国の中高生1,200人に対して行った調査があります。生成AIを「よく使っている」が41.4%、「たまに使っている」が39.7%。合わせて約8割です。

 

注目したいのは、使い道のほうです。

 

いちばん多いのは「勉強の調べもの」で73.7%。これは想像通りだと思います。ですがその次に来るのが「相談・話し相手」で36.8%。男女で分けると、男子が23.0%なのに対して、女子は49.9%。女子はおよそ半数が、AIを相談相手にしている計算になります。

 

ソニー生命保険が2026年7月に発表した中高生1,000人への調査でも、生成AIの使い道として「悩み相談」を挙げたのは女子中学生で56.3%、女子高校生で54.7%。別々の調査が、ほぼ同じ方向を指しています。

 

◆責めたくなる前に、理由を考えてみる

 

「AIじゃなくて人間に相談しなさい」と言いたくなる気持ちは、すごく分かります。

 

ただ、子どもの側に立ってみると、AIはかなり合理的な相談相手なんですよね。

 

・夜中の2時でも返事が来る

・「そんなことで悩むな」と言われない

・友達に話したときのように、翌日クラス中に広まらない

・親に心配をかけずに済む

 

特に3つ目は大きいと思っています。学校でSNSの話をしていて感じるのは、いまの子どもたちは「相談すること自体のリスク」をよく知っている、ということです。打ち明けた話がスクリーンショットで回っていく。そういう世界を、彼らは実際に見ています。

 

その中で、絶対に他人に言わない相手を選ぶのは、見方を変えればとても賢い判断です。少なくとも、何も考えずにそうしているわけではありません。

 

◆ただ、ひとつだけ気になること

 

僕はSNSの講演でも「使うな」とは言いません。AIについても同じです。使うなと言ったところで、隠れて使うだけですから。

 

ただ、ひとつだけ気になっていることがあります。

 

AIは、基本的に否定してきません。話を最後まで聞いて、受け止めて、整理してくれる。これは本当にありがたい機能です。でも、いつも肯定してくれる相手とだけ話していると、「人に相談する」という、面倒だけどけっこう大事な練習をする機会が、少しずつ減っていきます。

 

人への相談は、うまくいかないこともあります。的外れなアドバイスをされたり、思ったより軽く流されたり。僕自身、若いころは相談がへたで、聞き方を間違えてがっかりした経験が何度もあります。でも、その失敗も含めて、人に頼る力というのは育っていくものだと思っています。

 

もうひとつ。深刻な悩みは、AIだけでは受け止めきれません。実際、OpenAIはChatGPTのペアレンタルコントロールに、深刻な自傷のおそれがある内容を検知したときに保護者へ通知する仕組みを入れています。提供している側も「AIだけで完結させてはいけない領域がある」と認めている、ということです。

 

◆明日から使える、たった一言

 

では、どうするか。

 

「AIに相談してるでしょ」と問い詰めるのは、たぶん逆効果です。相談していること自体を隠すようになるだけだと思います。

 

代わりに、こう聞いてみてください。

 

「それ、AIはなんて言ってた?」

 

この一言のいいところは、AIを使っていること自体を責めていない点です。責められていないと分かると、子どもは中身のほうを話してくれます。そして中身さえ分かれば、「へえ、それはいい答えだね」でも、「うーん、それはちょっと違う気がするな」でも、そこから会話が始まります。

 

相談相手がAIになったことは、たぶんもう止められません。

 

でも、その隣に立つことはできます。

◆「いっそ、法律で禁止してくれたらいいのに」

 

そう思ったことのある保護者の方は、けっこう多いんじゃないかと思います。

 

家庭の中でルールを決めても、守らせ続けるのは本当に大変です。うちだけ制限しても、まわりの子が持っていれば意味がない気がしてくる。誰かが一律に線を引いてくれたら、親は悪者にならずに済む。その気持ちはよく分かります。

 

じゃあ実際に、国が線を引いたらどうなったのか。

それを世界で初めてやった国のデータが、今年になって出てきました。

 

◆施行から3か月後、86%の子はまだ使っていた

 

オーストラリアは2025年12月から、16歳未満のSNS利用を禁止する法律を施行しました。国単位でこれをやったのは世界で初めてです。

 

施行から3か月後、ニューカッスル大学の研究チームが12〜17歳の若者408人を調べた結果を、医学誌『BMJ』に発表しています。

 

結果はこうでした。

 

16歳未満のうち、約86%が「この1週間に、規制対象のSNSを少なくとも1つ使った」と答えていた。しかもその多くは、他人のアカウントを借りたのではなく、自分のアカウントをそのまま持ち続けていた。全体の利用時間や、毎日使う割合にも、大きな変化はありませんでした。

 

もちろん、まだ施行3か月時点の話です。研究チーム自身も「初期段階の結果にすぎない」と断っています。それでも、「禁止すれば使わなくなる」という前提は、少なくともそのままの形では成り立たなかった。

 

◆いちばん気になったのは、別の数字でした

 

僕がこの調査で引っかかったのは、86%という数字そのものではありませんでした。

 

・15〜19%が、偽のアカウントを作っていた

・9〜29%が、他人のアカウントを使っていた

・最大11%が、履歴の残らないブラウザのモードを使っていた

 

規制によって起きたのは「使わなくなる」ではなく、「見えないところに移る」だったんです。

 

これ、家庭の中で起きることとまったく同じだなと思いました。

 

スマホを取り上げると、子どもは友だちの端末を借ります。アカウントを消させると、裏アカを作ります。親が知っているアプリから、親が名前も知らないアプリへ移っていく。

 

そして厄介なのは、移った先で何かトラブルが起きたときです。「禁止されていたのに使っていた」という後ろめたさが、相談のハードルを一段も二段も上げてしまう。

 

学校で講演をしていると、話が終わったあとに小声で聞きにくる子がいます。その子たちが困っているのは、たいてい「使い方」ではなく、「誰に言えばいいか分からない」ことのほうです。

 

◆「見えている状態」は、それ自体が安全装置になる

 

日本でも、こども家庭庁で青少年インターネット環境整備法の在り方を見直す議論が進んでいます。年齢制限を含めたルールづくりの話は、これから当たり前のように出てくると思います。

 

ルールが要らないとは思いません。年齢制限にも、意味のある場面はあるはずです。

ただ、ルールをつくったら安心、という話でもない。オーストラリアのデータが示したのは、たぶんそこです。

 

僕は中学生のころ偏差値37で、そこから浪人して一橋大学に入りました。あのとき何が効いたかというと、正しいやり方を教わったこと以上に、「今つまずいています」と誰かに言える状態でいられたことでした。ひとりで隠れて間違え続けるのが、いちばん時間を溶かします。

 

SNSも同じで、「見えている」というのは、それだけでかなり強い安全装置なんじゃないかと思っています。禁止は、見えなくすることと引き換えになりやすい。

 

◆明日から使える一言

 

なので、ルールを増やす前に、ひとつだけ渡しておいてほしい言葉があります。

 

「何かあっても怒らないから、先に言って」

 

これを一回言っておくだけで、届く情報の量がけっこう変わります。取り上げるかどうかは、そのあとでも決められますから。

 

【参考】

・University of Newcastle / BMJ「Assessing the early effects of Australia's Social Media Minimum Age Act on adolescent social media use」(2026年6月)

・こども家庭庁「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」

いま、あなたのスマホは、誰かに居場所が見えている状態になっているでしょうか。

 

家族と共有している方もいれば、そんな設定にした覚えはない、という方もいると思います。ただ、子どもの話になると、景色がかなり変わります。

 

LINEリサーチが高校生1,037人に聞いた調査では、位置情報共有アプリを「いま使っている」と答えた人が約5割。共有相手としていちばん多かったのは母親で約4割、次が親友で約3割でした(2023年8月調査)。

 

つまり、いまの子どもたちにとって「どこにいるか」は、親にも友だちにも見えているのが、そう珍しくない状態なんです。

 

◆ 最初はたいてい、善意から始まる

 

僕は学校や企業でSNSについてお話しする機会をいただいていますが、位置情報の話題になると、保護者の方の反応はきれいに分かれます。「うちも入れてます、安心なので」という声と、「そこまで見るのは……」という声です。

 

どちらの気持ちも分かります。そして大事なのは、位置情報の共有は、ほとんどの場合「悪意」から始まらない、ということです。

 

・帰りが遅いと心配だから

・待ち合わせが楽だから

・災害のときに探せるから

 

どれもまっとうな理由です。子ども同士でも同じで、「仲がいいから見せ合う」というところから始まります。

 

問題は、始まり方ではなくて、終わり方のほうにあります。

 

◆ いちばん難しいのは「やめるとき」

 

位置情報の共有には、ほかのSNS機能にはない、ちょっと厄介な性質があります。切ると、そのこと自体がメッセージになってしまう、という性質です。

 

投稿をやめても、たいてい誰も気づきません。でも位置情報の共有をオフにすると、相手の画面から自分が消えます。「なんで切ったの?」が発生する。だから、そこまで見られたくないと思っていても、切れない。

 

これは友だち同士でも、恋人同士でも、親子でも起こります。便利さから始まったものが、いつのまにか「切ったら疑われるもの」に変わっていく。ここが、優しさと監視の境目なんじゃないかと思っています。

 

◆ 法律のほうも、動きました

 

去年、この分野で大きな変化がありました。

 

警察庁によると、令和7年12月にストーカー規制法が改正され、「紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得」が新たに規制の対象に加わりました。落とし物防止用の小さなタグを、相手のカバンに忍ばせる。そこまで規制する段階に来た、ということです。

 

同じく警察庁がまとめた令和7年のストーカー事案への対応状況では、相談等の件数は22,881件。前年より16.9%増えています。被害者の年齢層を見ると、10代以下が13.8%、20代が35.6%。合わせると、およそ半数が20代以下です。

 

そして、関係性です。加害者は「交際相手(元交際相手を含む)」が38.9%、「知人友人」が13.4%。多くのケースで、相手はまったく知らない人ではありません。

 

僕たち大人はつい「知らない人と繋がっちゃダメ」と教えます。でも、位置情報は、そもそも知らない人には渡していないんですよね。渡す相手は、たいてい仲のいい人です。

 

◆ 「禁止」ではなく、「期限」を決める

 

だからといって、「位置情報アプリは危ないから使うな」と言うつもりはありません。待ち合わせは楽になりましたし、災害のときに居場所が分かる価値も大きい。道具そのものが悪いわけではないと思っています。

 

僕自身は中学のころ偏差値37で、そこから浪人して一橋大学に入り、官僚を経ていまの仕事をしています。遠回りしながら感じてきたのは、うまくいっている人ほど「使うか使わないか」ではなく「どう使うか」を決めている、ということでした。

 

位置情報も同じで、決めておくといいのは、たぶん一つだけです。

 

期限です。

 

◆ 明日から使える一言

 

「これ、いつまで共有しておく?」

 

共有を始めるときに、この一言を添えておく。それだけで、位置情報は「ずっと見られているもの」から「必要な期間だけ使う道具」に変わります。旅行のあいだだけ、遠征のあいだだけ、と決めておけば、切るときに理由を説明しなくてすみます。

 

もうひとつ、お子さんに対して言うなら、こちらもおすすめです。

 

「切りたくなったら切っていいよ。怒らないから」

 

先に言っておくだけで、切れなくなる前に切れます。心配だから見ている、という気持ちは伝わったまま、逃げ道だけが残る。ちょうどいい塩梅じゃないかなと思います。

 

見えていることと、信じていることは、別のものです。そこだけは混ざらないようにしておきたいですね。

 

【参考】

・LINEリサーチ「高校生の位置情報共有アプリに関する調査」(2023年8月・高校生1,037人)

・警察庁「ストーカー規制法が改正されました!」

・警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」

こんにちは、櫻井健太です。

 

いきなりですが、質問です。

 

「高額報酬」「即日即金」「ホワイト案件」。こういう言葉が並んだ求人広告を見たとき、あなたのお子さんは「あ、これ怪しいな」と気づけると思いますか。

 

たぶん、けっこうな子が気づきます。今の中高生は、大人が思っているよりずっと「怪しい広告」に慣れています。闇バイトという言葉も、かなり知られるようになりました。

 

じゃあ安心かというと、そうでもないんです。

 

いま起きているのは、入口がもう「求人」の顔をしていない、ということだと思っています。

 

◆検挙された人の約3割が、SNSの募集から

 

警察庁が今年4月に公表した「令和7年における組織犯罪の情勢」という資料があります。そこにこんな数字が載っています。

 

匿名・流動型犯罪グループ、いわゆるトクリュウで検挙された人のうち、約3割が、SNSに流れてきた犯罪実行者の募集情報をきっかけに加担していた。そして検挙された人は、20代までの若年層が約6割。20代前半だけで23.4%を占めています。

 

「若い人が多いんだな」というのは、想像どおりかもしれません。僕が引っかかったのは、そこじゃないんです。

 

3割がSNSの募集情報から、ということは、残りの多くはそれ以外のルートで入っている、ということでもあります。警察庁自身も、勧誘の入口としてSNSや掲示板だけでなく、「知人の紹介」や「オンラインゲームなどでの知り合い」を挙げています。

 

いかにも怪しい求人をクリックした人だけが巻き込まれているわけじゃない。半年、一年と一緒にゲームで遊んでいる相手から「短期で手伝ってくれない?」と言われる。そういう入り方があるということです。

 

これ、「怪しい広告を見分ける力」では防げないんですよね。だって、怪しい広告じゃないので。

 

◆断れなくなるのは、お金を受け取る前

 

もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。

 

闇バイトは、応募したらいきなり犯罪をやらされるわけではありません。多くの場合、最初にやらされるのは「身分証の写真を送ること」です。学生証、免許証、保険証。ときには家族の情報まで。

 

そのあと、やりとりが消える匿名性の高いアプリに誘導されます。

 

ここまで来ると、もう「やっぱりやめます」が言えなくなります。家族の住所を知られている、と思ってしまうからです。

 

だから僕は、これを本人の判断力の問題だとは思っていません。断れなくする仕組みのほうが先に組まれている、という話です。頭がいいか悪いかは、たぶんあまり関係ありません。むしろ、まじめで、約束を守ろうとする人ほど抜け出しにくい構造になっています。

 

◆「見抜く力」より「抜け出せる力」

 

警察庁は今、闇バイトに応募してしまった人を保護する取り組みを進めています。報道ベースの数字ですが、開始から一年ほどで500件を超える保護が行われ、その多くが10代・20代だと伝えられています。

 

これ、あまり知られていない気がします。「応募してしまった時点でもう終わり」ではない、ということです。

 

迷ったときの相談先は、警察相談専用電話の「#9110」です。事件というほどではないけれど相談したい、というときの番号です。

 

僕は学校や企業でSNSの話をさせてもらうとき、「危ないから使うな」という言い方はしないようにしています。使うなと言っても、使うからです。それよりも、失敗したあとに戻ってこられる道を先に渡しておくほうが、はるかに現実的だと思っています。

 

僕自身、中学のころは偏差値37で、浪人もして、入った役所も辞めています。そのたびに「もう終わりだ」と思わずに済んだのは、相談できる相手がいたからでした。

 

◆明日、一言だけ言うとしたら

 

もし今日、お子さんに一言だけ伝えるとしたら、僕はこれをおすすめします。

 

「もし変なことに巻き込まれても、絶対に怒らないから、先に言って」

 

たったこれだけです。手口を全部説明する必要はありません。というか、手口は毎年変わるので、覚えても追いつかないんです。

 

変わらないのは、「バレたら怒られる」と思った瞬間に、人は一人で抱え込む、ということのほうです。

 

怪しいものを見抜く力は、正直、大人でもけっこう怪しい。でも「言える相手が一人いる」という状態は、今日のうちに用意できます。

 

そこだけは、手口が変わっても効き続けます。

 

(参考)

警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢」(令和8年4月公表)

警察庁「いわゆる『闇バイト』の危険性について」

◆「これ、危ないらしいよ」と送ってくれる人

 

家族のLINEグループや、保護者同士のやりとりに、こんなメッセージが回ってきたことはないでしょうか。

 

「◯◯が品薄になるらしい」

「あの辺で不審者が出てるって」

「拡散希望です」

 

送ってくれた人の顔を思い浮かべてみてください。たぶん、悪い人ではないはずです。むしろ心配性で、面倒見がよくて、人に親切な人。「知らせてあげなきゃ」と思ってくれた人です。

 

僕は学校や企業でSNSについてお話しする機会をいただいていますが、「デマを流す人」と聞くと、多くの方はどこかの悪意ある誰かを想像されます。もちろんそういう人もいます。でも、実際にあなたの手元まで届く一通は、たいていやさしい人の手を経由しています。

 

◆2人に1人が、いちど信じている

 

総務省が2025年5月に公表した調査があります。全国の15歳以上の男女2,820人に、過去に実際にネット上で流れた偽・誤情報をいくつか見せて、当時どう受け止めたかを聞いたものです。

 

結果は、平均47.7%の人が「本当だと思った」「もしかしたら本当かもと思った」と回答。ほぼ2人に1人です。

 

さらに、その情報に接した人のうち4人に1人(25.5%)が、何らかの形で「拡散したことがある」と答えています。転送、リポスト、家族への口伝え。全部ふくめての数字です。

 

これ、けっこう静かに怖い数字だと思っています。「デマにだまされる人」は特別な誰かではなく、統計的にはコイントスくらいの確率で自分だからです。

 

◆「見分ける自信がある」人は、6人に1人

 

もうひとつ。ウェザーニュースが2026年2月に約1万人(10,269人)に聞いた調査では、「SNSのフェイク画像やデマを見分けられる自信はありますか」という質問に、「自信がある」と答えた人は16.5%でした。「自信がない」が28.3%、「わからない」が55.2%。合わせて8割以上が、見分けられると言い切れていません。

 

ここが面白いところで、私たちはちゃんと自覚しているんですよね。「自分は見抜けないかもしれない」と分かっている。分かっているのに、いざ流れてくると2人に1人が信じてしまう。

 

◆善意は、悪意より速い

 

デマがうまく機能するのは、「不安」と「親切心」という2つのボタンを同時に押してくるからです。

 

面白半分の拡散は、「まあいいか」で止まります。でも善意の拡散には、「早く教えてあげないと間に合わないかもしれない」という、ブレーキの効きにくい理由がついてきます。確認より先に指が動く。

 

しかも厄介なのは、送り先が家族や同僚など、信頼している相手だということ。受け取った側も「あの人が言うなら」と思う。信頼関係が、そのまま情報の伝わる速さに変換されてしまいます。

 

9月は、防災について考える機会が増える月です。実際、災害のときはこの「不安 × 親切」がいちばん強くなるタイミングでもあります。停電や通信の乱れで確かめる手段が減っているのに、伝えたい気持ちだけは最大になる。デマにとっては、これ以上ない条件がそろいます。

 

◆疑うのではなく、出どころを聞く

 

「情報を疑いましょう」とよく言われます。でも、正直むずかしいと思っています。流れてくるもの全部を検証していたら日が暮れますし、家族に対して疑いの目を向けるのも、あまり気持ちのいいものではありません。

 

僕はもともと役所で働いていました。ああいう公的な文書の世界は、「その数字はどこから来たのか」をとても重視します。あれは相手を疑っているのではなくて、ただの手順なんですよね。出どころを確認することと、相手を信じないことは、まったく別のことです。

 

SNSも同じでいいと思っています。人を疑う必要はありません。情報の住所を聞けばいい。

 

◆明日から使える一言

 

もし家族や子どもから「これ本当らしいよ」と何かを見せられたら、こう返してみてください。

 

「へえ、それどこで見たの?」

 

「本当なの?」は相手を疑う言葉になります。でも「どこで見たの?」は、情報の出どころを一緒にたどる言葉です。

 

そして、この質問に答えようとした瞬間、たいていの人は自分で気づきます。「あれ、誰が言ってたんだろう」と。

 

止めるのに必要なのは、知識よりも、送信ボタンの前のこのひと呼吸なのかもしれません。

 

やさしい人ほど、デマに手を貸してしまう。だからこそ、そのやさしさに一言だけ、質問を添えてあげてください。

子どもの写真がインターネットで悪用される、と聞いたとき。多くの人が思い浮かべるのは、どこかにいる知らない大人の姿ではないでしょうか。

 

僕は学校や企業でSNSの講演をしていますが、保護者の方からいただく質問も、やっぱり「知らない人からのDM」や「出会い系」に集中します。もちろん、それも大事な話です。ただ、いま実際に起きていることは、もう少し手前にあるようなんです。

 

◆データが示していたのは、「隣の席」でした

 

警察庁が2026年2月に公表した数字があります。18歳未満の子どもの画像が性的に加工された事案として、2025年に警察が把握したのは114件でした。

 

被害に遭ったのは、中学生が66件、高校生が32件。中高生で約9割を占めます。

 

そして、加害者と被害者の関係。いちばん多かったのは「同級生など同じ学校の生徒」で、65件。114件のうちの65件です。SNSやゲームで知り合った人物は10件でした。

 

つまり多くのケースで、加害者は遠くにいる誰かではなかった。同じ教室にいる子だった、ということになります。

 

◆たぶん「悪意」ではなく「ノリ」から始まっている

 

ここが、この話のいちばんやっかいなところだと思っています。

 

大人が想像する加害者は、悪意を持った人です。でも中高生の場合、出発点はそこじゃないことが多いはずです。面白半分。ちょっとした仕返し。グループの中でウケたかった。そういう「ノリ」の延長線上に、いまはアプリが置かれてしまっている。

 

昔なら、悪ふざけは落書きで終わりました。技術がなかったからです。いまは、スマホに入っているアプリで、数十秒でできてしまう。ハードルがほぼゼロになったんですね。

 

でも、結果のほうは落書きでは終わりません。実在する子どもの顔が使われていれば、警察が把握する事案になります。さきほどの114件が、まさにその数字です。

 

やった側の子も、途中まで自分が何をしているのか分かっていない。個人的には、そこがいちばん怖いと感じています。

 

◆「被害の話」だけでは、たぶん半分しか届かない

 

僕は中学生のころ、偏差値が37でした。その時期の自分を思い返すと、正しさを説かれても、正直あまり届いていなかった気がします。人は「ダメだと言われたこと」より、「自分ごとになったこと」のほうを覚えるので。

 

だとすると、家庭で伝えることは「危ないから気をつけなさい」だけではないのかもしれません。

 

・自分が被害に遭う可能性

・自分が、うっかり加害の側に立ってしまう可能性

 

この両方を、同じ温度で話しておく。片方だけだと、届く範囲がどうしても半分になってしまう気がします。

 

それから、もしものときのために。ネット上の性的な画像について、本人に代わって削除依頼をしてくれる「セーフライン」(セーファーインターネット協会)という窓口があります。使わずに済むのがいちばんですが、存在を知っているかどうかで、その日の絶望の深さはずいぶん変わります。

 

◆明日、使える一言

 

長い説教はいりません。というより、たぶん逆効果です。おすすめしたいのは、ニュースを見ているときにぽろっと言えるくらいの、軽い一言です。

 

「もし友達がふざけて誰かの写真いじってたら、止められる側でいてほしいな」

 

責める言葉ではないので、子どもも身構えません。そして「自分は止める側」という自己像が一度でも入ると、いざその場面が来たときに、少しだけブレーキがかかります。

 

守るというのは、危険から遠ざけることだけではなくて、「加害の側に立たせない」ことでもある。最近、そう思うようになりました。

◆いちばん多いのは、実は子どものトラブルじゃない

 

SNSの危険というと、まず子どもの話だと思われがちです。でも実際には、大人自身がこういうことで悩んでいるケースがすごく増えています。

 

SNSで流れてきた投資の広告をなんとなくタップして、そのままメッセージアプリのグループに入ってしまう。よく知られた経済評論家の顔写真が使われている。お金はまだ入れていない。でもグループの中では毎日「今日も利益が出ました」というスクリーンショットが流れてくる。

 

これ、詐欺ですよね?──そう聞きたくなったときには、もうけっこう深いところまで来ていたりします。

 

「子どもには『知らない人と繋がっちゃダメ』ってずっと言ってきたのに」。この構図が、本当に多いんです。

 

◆去年、SNS絡みの詐欺で消えたお金は1,800億円を超えた

 

警察庁の発表によると、2025年(令和7年)のSNS型投資詐欺の被害は9,523件、被害額はおよそ1,288億円。SNS型ロマンス詐欺は5,645件で、およそ546億円。合わせると1,800億円を超えます。

 

しかもどちらも、前の年から件数が5割近く増えている。減っているどころか、勢いよく伸びている。

 

ここで大事なのは、これが「子どもの被害」の統計ではない、ということです。SNSのリスクの話をすると、どうしても「子どもをどう守るか」に話が向きます。もちろんそれは大切です。でも去年いちばん大きなお金を失ったのは、スマホを取り上げる側にいる大人のほうでした。

 

◆詐欺は「知らない人」の顔をしていない

 

同じ警察庁の資料を見ると、SNS型投資詐欺の入口は、バナーなどの広告が約3,760件、ダイレクトメッセージが約3,576件と、ほぼ同じ数で並んでいます。

 

これ、けっこう象徴的だと思っていて。

 

「知らない人からのDM」は、まだ警戒できます。でも「タイムラインに流れてきた広告」は、知らない人だと認識されにくい。有名人の写真が使われていれば、なおさらです。しかもタップした先で待っているのは、丁寧で、感じがよくて、いきなりお金の話をしてこない相手だったりする。

 

僕たちが子どもに教えてきた「知らない人と繋がるな」は、相手が知らない人の顔をしてくれている前提の言葉なんですよね。今の詐欺は、その前提を最初から外してくる。

 

◆賢いかどうかは、あまり関係がない

 

僕は中学生のとき、偏差値37でした。そこから浪人して一橋大学に入って、国家公務員として霞が関で働いて、今はSNSの講演をしています。

 

その経歴を話すと「情報リテラシーが高そう」と言われることがあるのですが、正直に言うと、僕自身も「あ、今ちょっと持っていかれかけたな」と思う瞬間は普通にあります。深夜に見た広告、疲れているときに来た通知。判断力って、知識の量よりコンディションに左右されます。

 

詐欺に遭う人が情報を知らないわけではありません。知っている情報を、そのとき思い出せなかっただけです。だから「気をつけよう」という掛け声だけでは、あまり効きません。効くのは、立ち止まる仕組みのほうです。

 

◆明日から使える一言

 

僕が講演でよくお伝えしているのは、家族の中に「これ、ちょっと見て」が言える空気をつくっておきましょう、ということです。

 

「これ、詐欺かも」と自分ひとりで判断しようとすると、人はだいたい自分に都合のいいほうに転びます。でも誰かに画面を見せた瞬間、たいていは我に返る。子どもがあやしいDMをもらったときも同じで、「怒られる」と思われていたら見せてもらえません。

 

だから今日、家でこう言ってみてください。

 

「変な広告とかDM来たら見せて。お母さんも来たら見せるから」

 

守る側と守られる側を、いったん降りる。この一言が、いちばん安いセキュリティだと僕は思っています。

 

【出典】警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」

講演のあと、保護者の方から個別に聞かれることが増えた質問があります。

 

「子どもの写真をSNSに載せるのって、やっぱりダメなんですか?」

 

これ、けっこう答えづらいんですよね。「ダメです」とも言い切れないし、「大丈夫ですよ」とも言い切れない。

 

数字で見ると、まったく珍しい行動ではありません。弁護士ドットコムが2022年に18歳未満の子どもがいる保護者328人に聞いた調査では、「子どもの写真や動画をSNSに投稿したことがある」が52.8%。顔が分かる形で投稿している人も22.9%いました。

 

こういう、親が子どもの写真や情報をSNSに載せることを「シェアレンティング」(sharing+parenting)と呼びます。半分の家庭がやっている、ごく普通のことです。

 

◆ 特定は「1枚」ではなく「積み重ね」で起きる

 

2019年に、こんな事件がありました。

 

あるアイドルの女性が、SNSに上げた自撮り写真の"瞳に映り込んだ景色"から最寄り駅を割り出され、自宅を特定されてストーカー被害に遭ったというものです。犯人は瞳の反射だけでなく、部屋の窓から見える景色や、生配信中の様子なども組み合わせていたと報じられました。

 

この話を講演ですると、だいたい会場がざわつきます。

 

でも僕がここで伝えたいのは「怖いですね」ではありません。特定って、1枚の決定的な写真で起きるわけじゃないんです。

 

制服のデザイン。背景に写ったマンション。運動会の横断幕に書かれた校名。「今日は誕生日」という投稿。夕方にアップされた、いつもの帰り道。

 

一つひとつは、まったく害のない情報です。でも半年分、1年分と積み上がると、その子の生活圏はかなりの精度で描けてしまう。

 

パズルのピースを、少しずつ自分の手で置いていくようなイメージが近いかもしれません。

 

◆ もうひとつの、あまり語られない論点

 

リスクの話とは別に、僕がずっと引っかかっていることがあります。

 

その写真を載せると決めたのは、本人ではない、ということです。

 

僕は自分の顔も経歴も出して発信している人間です。中学時代に偏差値37だったことも、一橋大学に入ったことも、霞が関を2年で辞めたことも、全部自分で書いています。恥ずかしい話もそれなりにある。

 

でもそれは、自分で「出す」と決めたから納得できているだけなんですよね。

 

いま3歳の子が、10年後に自分の名前で検索されたとき。泣いている顔、お風呂上がりの姿、通っていた園の名前。それが出てくることを、その子は選んでいません。

 

これは「だから載せるな」という話ではなくて、載せる側に決定権が全部ある、という事実をどこかに置いておきたい、という話です。

 

◆ じゃあ、やめるべきなのか

 

僕は、やめなくていいと思っています。

 

うるるが2023年に未就学児の親(SNS投稿経験のある171人)に聞いた調査では、シェアレンティングを「やめた」と答えた人は36.3%。裏を返せば、6割以上は続けているわけです。

 

そりゃそうだよなと思います。成長の記録は残したいし、遠くに住む祖父母に見せたいし、同じ月齢の子を育てている人とつながれる安心感もある。それを全部「危ないから禁止」で潰すのは、たぶん違う。

 

実際、対策をしている人はちゃんと多いんです。同じ調査では91.8%が何らかの対策をしていて、公開範囲の制限が50.3%。みんな、なんとなく気をつけてはいる。

 

だったらその「なんとなく」を、あと少しだけ具体的にすればいい。

 

◆ 投稿前の3秒でできること

 

1. 背景を見る

顔よりも背景です。校名、制服、表札、車のナンバー、窓の外の景色。指で隠せるなら、隠してから撮り直す。

 

2. 公開範囲を確認する

誰でも見られる場所なのか、知り合いだけなのか。設定は一度見たきりになりがちなので、たまに確認する。

 

3. 子どもに聞く

言葉が分かる年齢なら、これがいちばん効きます。

 

◆ 明日から使える一言

 

「これ、載せてもいい?」

 

たったこれだけです。

 

聞かれた子どもは、「イヤだ」と言っていいことを知ります。自分の写真は自分で決めていい、と学ぶ最初の練習になる。

 

そしてこの一言に慣れた子は、数年後に自分がスマホを持ったとき、友だちの写真を上げる前に同じことを聞ける子になります。

 

SNSリテラシーって、たぶん授業で教わるものじゃなくて、こういう家の中の一言から始まるんじゃないかと思っています。