今、自分が使っているパスワードは全部でいくつあるか。
すぐに答えられる人は、あまり多くないと思います。僕自身、数えようとして途中でやめました。ネットバンキング、SNS、通販、子どもの学校の連絡アプリ、動画のサブスク。気づけば、ログインが必要なものだらけです。
そんな中で、2026年9月1日に警察庁が公開した資料のタイトルが、なかなか強烈でした。
「パスワードだけの認証はもう限界です」
国の機関がここまで言い切るのは珍しいことです。今日はこの話をさせてください。
◆乗っ取られるのは「うっかりした人」ではない
アカウントの乗っ取りと聞くと、「よっぽど不注意な人の話でしょう」と思いがちです。でも、数字を見るとそうでもありません。
国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣が2026年3月に公表した資料によると、2025年(令和7年)の不正アクセス行為の認知件数は7,190件。前年より34.2%増えています。
興味深いのは、その「入られ方」の内訳です。他人のIDとパスワードを使って侵入したタイプの検挙件数399件について、原因の上位はこうなっていました。
・利用者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだもの 84件
・フィッシングサイトで抜き取ったもの 77件
・ネット上に流出・公開されていた情報を使ったもの 75件
・知人などによる犯行 61件
映画に出てくるような高度なハッキング技術ではないんですよね。上位に並んでいるのは、「推測しやすい文字列だった」「どこかで漏れていたものを試された」。つまり、技術の問題というより習慣の問題です。
そして4番目。「知人などによる犯行」が61件、全体の15%ほどを占めています。見ず知らずの誰かではなく、顔を知っている人。ここは、子どもたちの世界でも同じことが起こりうるポイントだと思っています。
◆8割が使い回している
もうひとつ、裏づけになる調査があります。
トレンドマイクロが2026年3月に発表した「パスワード・パスキーの利用実態調査2026」では、18〜69歳の1,034人のうち、84.3%が複数のサービスでパスワードを使い回していました。管理方法でいちばん多かった回答は「記憶している」で40.9%です。
8割が使い回していて、4割が頭の中だけで管理している。この状態で、どこか1か所から漏れたら何が起きるか。答えはシンプルで、他のサービスにも順番に試されます。
僕は役所で2年働いたあと、今は学校や企業でSNSの話をさせてもらっています。子ども向けの講演でも大人向けの研修でも、「怪しいサイトを見ない」「知らない人と繋がらない」という話はよく出るのですが、パスワードの話は後回しにされがちです。地味だからでしょうね。でも、実際に人生を面倒にしてくるのは、だいたいこういう地味なところだったりします。
◆「もう限界」の先にあるもの
冒頭の警察庁の資料がすすめているのは、パスキーという仕組みです。顔認証や指紋認証でログインするもので、パスワードを入力する必要がありません。偽サイトでは認証できない、という特徴もあります。
先ほどのトレンドマイクロの調査では、パスキーという言葉自体は91.1%の人が知っていました。言葉はもう届いている。あとは使うかどうか、という段階まで来ているわけです。
とはいえ、いきなり家じゅうの設定を変えるのは大変です。順番をつけるなら、お金が動くもの(銀行・証券・通販)と、連絡手段(メール・SNS)から。特にメールは、乗っ取られるとそこから他のサービスのパスワードを再発行されてしまうので、実はいちばん守るべき場所だったりします。
◆明日、家で使える一言
お子さんにも、ご家族にも、そして自分にも使える質問をひとつ置いておきます。
「そのパスワード、他のどこかでも使ってる?」
責める言葉ではないので、たぶん普通に答えが返ってきます。そしてその答えが、今いちばん危ない場所をそのまま教えてくれます。
【出典】
・警察庁「サイバー警察局便り R8 Vol.12」(2026年9月1日公開)
・国家公安委員会/総務大臣/経済産業大臣「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」(2026年3月12日公表)
・トレンドマイクロ「パスワード・パスキーの利用実態調査2026」(2026年3月24日発表)