祭りができない中で先人たちの強さと思いを――3度の延期を踏み越えて…NeoBalladライブ | KEN筆.txt

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BGM:NeoBallad 5th CD Album『05』収録13曲ダイジェスト

 

 

昨年から日本各地の地域と密接する祭り行事が新型コロナウイルスの影響でことごとく中止となっている。青森・ねぶた、徳島・阿波おどり、博多・どんたく…日本を代表する大規模なものだけでなく、まち・むらの夏祭りも開催できない状況が続いた。

「こっちの人たちにとっての祭りは、都会の人たち以上に生活していく上で重要なものなんです。田舎にいけばいくほど、一年を通じての楽しみは限られてくる。その中で毎年、町中や村中が一つになって歌い、踊ることを楽しみにして1年間頑張れるんです。それが今年はできなかった。祭りができないとなると、何を楽しみに生きればいいのかとなってしまう」

昨年10月に「只見線列車内プロレス」へ参加するべく新潟・越後須原へ赴いたさい、地元の方からそんな話を聞いた。もちろん東京をはじめとする都市部も祭りだけでなく各イベントの延期・中止が続いているが数が多い分、気持ちを立てるのに代わりが効く。それに対し地方は一つがダメとなると、また1年間待たなければならない。

まち・むらにおける祭りが生きていく上でいかに大切な存在か実感させられた。日本中がそうしたシンドさを味わい、ライブイベントで民謡と戯れる機会を失う中、NeoBalladも先が見えぬ日々を送っていた。当初は2020年上半期にニューアルバム『05』を製作し、6月6日にレコ発ライブをおこなうスケジュールだったのが、2月下旬あたりから世の中の流れがまたたく間に変わっていった。

その後、ライブは9月12日、年が明けた2021年2月27日と合計3度に渡り延期となる。幼い頃から人前で歌い続けてきた若狭さちにとって、その場が持てない辛さは察するに余りある。

「日常が止まってしまって、またステージに立てるんだろうかと思ったこともありました。アルバムも何度か延期になってレコーディングもなかなかできない状況が続いておりましたので、音楽から一時離れた生活をしていたほどでした――」

延期となるたびに一度下がった気持ちを奮い立たせるも、待っていたのはさらなる現実。その間、上領亘は「データの整理、音楽制作環境を変えてみたり、こもるのは嫌いじゃないのでオタクとして過ごしたりして、じっくり(音楽と)向かい合うことができました」と言うものの、やはりそれを披露する場がなかなか巡ってこないのはアーティストとしての喜びを得難かったはずだ。

私自身も連載取材のために足を運んだ純烈を除けば、昨年3月13日の平沢進を最後にライブハウスへいっていなかった。NeoBalladにいたっては2019年9月13日の高円寺HIGHから約1年7ヵ月も遠ざかったまま。1999年以来21年間、毎年一度は参加し続けてきたPOLYSICSも昨年、ついに途切れてしまった。そういう世の中になったのかと、ほぞを噛んだ。

そうした中でもNeoBalladは民謡を現代的にアレンジし、今を生きる人々へ伝えるというモチベーションを失わずにいた。時間がかかってしまったが、ちゃんと新作アルバムを完成させた。

その発売日である3月29日は、昨年他界された若狭のお父上の誕生日。生前、自慢の娘を応援するべくNeoBalladのライブへ何度もやってきては喜びと誇りに満ちた笑顔を浮かべていた方だった。対面させていただいたことはなかったが、同じ会津の方とあればその姿がもう会場で見られないのはやはり切ない。

コロナの足音がひたひたと迫り始めた2020年2月20日、若狭は人生においてもっとも辛い経験をした。その上でライブは延期の連続…何が彼女を支えたのだろうと考えるにつけ、それは父が愛したNeoBalladの存在だったのではと思えてならない。

4月11日、高円寺HIGH。この日、集まったオーディエンスも3度に及ぶ延期を乗り越えてきた100名足らず(ソーシャルディスタンスに基づく席数)。日程が替わり、来られなくなった方々もいただろう。それらすべての思いを胸に、若狭は久々のステージへと立った。

 



懐かしくさえ感じる三味線の音色、幻想的なオケ、そこに若狭の語りかけるようなボーカルが乗り、上領がドラムを叩き始める。確かに、NeoBalladサウンドによる民謡ではあるのだが…どこか1年7ヵ月前とは違う感じがする。

 



これまでは、民謡を民謡として届けていた。テクノなアレンジを施したとしても、若狭の声によって民謡らしさが常にコーティングされたものだった。

そこにこそNeoBalladの先人たちが残したものをリスペクトした上で継承し、伝えるという姿勢がうかがえた。それに対しこの日は、心なしか若狭が民謡的な唱法に縛られず、もっとフリーダムに歌うことで直接的に客席へ呼びかけているように聴こえたのだ。

 



自分の歌を聴いてくれる人々の顏、顏、顏…それが目に入るや、ステージ上で涙が出そうになったという。いくつもの辛さ、哀しさを踏み越えてようやくこの場へ戻れたことで、エモーショナルになったのもあっただろう。

しかし、それ以上にこの日のステージへ臨んだ若狭の「歌を通じて自分の思いを伝えたい」という意識が、一味違った情景を生み出したのではないか。そこに、同じ和服ながらも草履ではなく大正モダンなブーツに替えたビジュアルがマッチする。

 



外で活動ができなかった間、スキルアップのため三味線を勉強したという上領は『津軽じょんがら節』でそれを披露。ドラムセットに囲まれながら奏でる姿はGRASS VALLEY、SOFT BALLET、P-MODEL時代をリアルタイムで見ていた一人として感慨があった。

 



また、ニューアルバム『05』にも収録されているが、山口民謡『男なら』を若狭が歌うのも、その歴史的背景を思えばある種の覚悟がうかがえた。言うまでもなく会津と山口・長州は戊辰戦争の因縁がある。

たとえばこの歌を会津で歌った場合、万人に受け入れられるものではなく逆に『会津磐梯山』を山口でやったらそれも同様。だからこそ上領は「よりこの2つの地域には特別な思いがあります」と言った。

過去を消しはらうことなくしっかり踏まえた上で、民謡によって新たな歴史を築きたい。5枚目のアルバムへこの曲を入れたところに、2人のそんな意志が感じられる。ライブも佳境に入ったタイミングで、上領が言う。

「こういう時代だからこそ、こうした空間が大切なのだと改めて知った思いです」

 



全国で祭りが開催できず、日本人の心と歴史を形にした民謡に触れる機会が限られる中で、それでもNeoBalladは音源やライブを通じて伝えられる。この日、集まったオーディエンスはみなコロナ対策に協力し、公演中いっさい声出しもしなかった。

ライブ後も、いつもなら喜びの声を直接メンバーへ伝えるべく売店もごった返すのだが、この日は終演後すみやかに退場。その表情は、誰もが満足げだった。

「――音楽から一時離れた生活をしていたほどでした。でも、こうして今日ステージに立てたことを、心から感謝しております。本当にありがとうございます」

 



MCでそう述べたあと、アンコール前のラストソング『てぃんさぐぬ花』へ。沖縄民謡として有名なこの作品が、瞬時にして33年9ヵ月前の風景とつながった。1987年7月19日、NHKホール。坂本龍一「NEO GEO TOUR」のオープニングが、我如古より子&古謝美佐子&玉城一美のボーカルによる同曲だった。

 



異なるアーティストによって2度、この作品が人生の中で刻み込まれるとは…地元の『会津磐梯山』以外の民謡が脳内セットリストへ加えられていくのも、NeoBalladと出逢えたからだ。

来年、NeoBalladは10周年を迎える。ライブを再開できたものの今後も見えづらい状況が続くのは避けられまい。そんな時代だからこそ、このプロジェクトを続ける意義が見いだせる。

 



祭りはできずとも、民謡そのものはこれからも文化として継承されていく。先人たちも時代ごとにその試練と向き合い、乗り越えてきた。だからこそ、そこには強さもこめられているはず…NeoBalladを聴くことで、この時代にそれを植えつけていただければと思う。(文中敬称略)
 

▲ライブ当日の模様のダイジェスト映像

 

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NeoBallad 5th Album『05-zerogo-』
01 南部牛追い唄Ⅱ feat.平沢進(岩手県民謡)
02 ソーラン節~Hyper Beat Ver.~(北海道民謡)
03 下津井節~雅Ver.~(岡山県民謡)
04 常磐炭坑節(茨城県・福島県民謡)
05 ノーエ節(静岡県民謡)
06 てぃんさぐぬ花(沖縄県民謡)
07 田名部おしまこ(青森県民謡)
08 男なら(山口県民謡)
09 貝殻節(鳥取県民謡)
10 博多どんたく(福岡県民謡)
11 さわぎ(座敷唄)
12 牛深ハイヤ節(熊本県民謡)
13 会津磐梯山~喝祭きたかたVer.~(福島県民謡)

収録13曲ダイジェスト