“作品”の間に在る“込”の意味/東京03第19回単独公演『自己泥酔』 | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

BGM:YELLOW MAGIC ORCHESTRA『SOLID STATE SURVIVOR』

 

東京03の単独公演を見るのは第16回『あるがままの君でいないで』第17回『時間に解決させないで』に続き3回目となる。本来、お笑いは難しいことを抜きにして見たまんま楽しむのが本道だが、やはり職業柄どうしても作品としてどのように成り立たせているかに関心がいってしまい、その点での初期衝動はかなりのものがあった。

舞台で演じるのはもちろん、そこに映像、アニメーション、歌などいくつもの表現手段を用い、それらが線でつながっていたり、あるいは前半の部分が後半の思わぬ部分で回収されたりと見事なまでのミクスチャーエンターテインメントとして“東京03スタイル”が確立されている。一つのジャンルにとどまらず、クオリティーを高める方法を幅広く追及するあたりは現代の多様化したプロレスに通ずる部分があり、会話が進むに連れて過剰さが増していくさまは往年のスネークマンショー。ストーリーが進むに連れて伏線に気づき、つながった時に味わう快感のようなものは内田けんじ監督の映画をほうふつとさせる。

見るたびに映像もアニメも歌も、ちゃんと笑いへ昇華できるということを改めて認識させられる東京03スタイル。それらがバラついているのではなく一つのテーマによって統一感を出し、その上でさまざま手法を上回るセリフ回しと3人の間合いによってグルーヴ感が発生する。グイグイとオーディエンスを巻き込んでいく流れは、公演というよりもライヴと表した方がふさわしい。

題材は“日常あるある”が主で、我々が経験したり見かけたりしたことがあるようなシチュエーション。事実、メンバー自身の実体験に基づくネタもあり、それがどんどん膨張していくにつれて非日常へと変貌していく。身に覚えがあるからわかりやすいし、スムーズに入っていける。

日常=退屈と決めつけられがちだが、持っていき方によってこんなにも非日常的なおかしみへ昇華できるのか。日常の中にこそ、非日常や笑いのタネがゴマンと隠れており、どちらかというと平和でポジティヴなものより争い事やネガティヴな関係の方が、愉しいものへと転化できることに気づかされる。

世界中の人々に東京03的な発想があれば、もっと世の中は平和になるのにと思った。それらのピースをていねいにつなげていくわけだが、この作り込みの徹底ぶりが3人の真骨頂。

一般的な会話の中にも笑いはあるし、アドリブを重視する見せ方もそれはそれで成り立つ。おそらく東京03のお三方であれば、その場の流れや雰囲気に応じたやりとりも十二分面白いに違いない。

ただ、そうした下地のある人間が徹底して作品と向かい合い、細部に渡って練り込んだものにこそ、人の心は揺り動かされる。そこに、作り手の姿勢がにじみ出るからだ。

豊本明長さんがサムライTV『バトルメン』のキャスターを務めていることから、毎回多くの選手や関係者が公演に訪れる。ステージが終わったあとに聞かれる感想は「もっと僕らも頑張らないといけないって思わされました」――みな、同じ表現者としてその完成度に圧倒され、自身の姿勢さえも正さなければとなるほどに感服しているのだ。

別ジャンルへ携わる一方で、豊本さんはこんなにすごいものを作り上げているのかという畏敬の念。普段は物腰の柔らかい人でプロレスへの尊敬心から、よけいにその裏へ秘めたクリエイターとしての気質をひけらかそうとはしない。だからステージの姿を見た時に、同じ表現者として不意打ち的にやられてしまう。

プロレスは即興芸術の一面もあるし我々も喋りの場合、その場のノリに頼るケースが多い。だからといって、一方で精度や完成度をないがしろにしていいものでもない。

東京03のステージを体感するたびに“作品”という二文字の間には見えない“込”の無声音がはさまれていることを痛感させられる。作品とは、作り込んだ上での品であって、それによって初めて作品たり得るのだと。

即興性に頼らずキッチリとしたものを提示した上で、気づかれずともその場のノリもすくいあげているのだと思われる。しかしながら、東京03のグルーヴ感あふれるノリがクセになっている層のオーディエンスは、アドリブとは別の部分にこそ信用を見いだしているのではないか。

 



26日、東京公演2日目の第1部。平日15時開始にもかかわらず草月ホールは満員の観客で埋まっていた。オープニングは第16回の傑作「巨匠の憂欝」のアナザーVer.ともいうべきもので、公演タイトル『自己泥酔』のタイトルチューン的内容。自慢とは、膨らまし甲斐のあるマテリアルだなとつくづく思う。

本公演のタイミングでなければ生きてこないネタもあれば、役者が役者でない人物を演じその人物が芝居を演じるというメビウスの輪的な演目もある。東京03を見るまでは、私の中で野間口徹、嶋村太一、竹井亮介によるコントユニット「親族代表」がトリオ芸のスタンダードだった。それはさまざまなバリエーションによる1対2の構図によって展開がめまぐるしく変わっていくスタイルで、AvsB&Cが気がつけばA&BvsCに変わっている話の転換が妙と言えた。

それだけに初めて見た時は、同じ3人でありながら東京03の違ったトリオ芸が新鮮に映った。おそらくその立ち位置はトライアングルのように均等なバランスを取っ払っており、また1対2のシチュエーションをことさら持ち駒にもしていない。飯塚悟志さんと角田晃広さんのカラーがわかりやすく確立される中で、豊本さんがストーリーの中で自在に立ち位置を変えている。

2人の間に立ち、場面によって双方との距離を変えていく場合もあれば、俯瞰的な角度から包み込むようにして物語という器を形成している役どころもある。よく言われるニック・ボックウインクルの「相手がワルツできたら…」のアレである。豊本さんのようなオールラウンドプレイヤーがいるから角田さんの瞬発力と、飯塚さんの狂言回し的なカラーがより際立つように思えた。

パンフレットを見ると、コントのネタ作りで産みの苦しみを味わったようだが(しかも予想以上にギリギリだった事実を知り、驚がくする。よくその期間で形にできるものだと)それ以外にもオリジナルの曲やリリックも自家製とあれば、時間がいくらあっても足りないはず。にもかかわらず飯塚さんも角田さんも他の仕事をこなし、豊本さんにいたっては仕事抜きでもプロレス会場へ足を運んでいる。

作り込むにも、それ相応の時間を要す。しかしながら舞台の上ではそうした切羽詰まった感は微塵もなく、ましてやカーテンコール等で触れられることもない。さんざん笑わせて、クールに公演を終えるところに職人的なカッコよさがある。

「その熱いコント魂は、今や全国の人々に伝播し、多くの芸人たちは彼らに憧れてやみません」

パンフの中の一節を目にし、そうだろうなと思った。それこそスネークマンショーなんて、みんながこぞってマネをしたし『マッスル』を見ていたら、スローモーションにしろなんにしろ、あれは自分でやってみたくなる。WWEのジョン・シナや、ダニエル・ブライアンの「YES!」が支持された理由の一つに、模倣しやすいという要素があった。

キャップを被り、Tシャツを着てデニムのジーンズを履けば誰もがシナ気分に浸れるし「YES!」は子どもでもわかる言葉。マッスル人気が高まった頃、大学へプロレス研究会があるように誰かが“アマチュアマッスル”をやり出したら面白いと思ったものだった。

東京03もこれほどスタイルが確立され、ライヴならではのノリによって快感を味わえるのであれば模倣しようと思う人間が出てきてしかるべき。もっとも、それはあくまでもスタートラインであって、勝負はそこからいかにオリジナルなスタイルまで昇華できるかだが。

“アマチュア東京03”から芸の道をスタートさせて、やがてプロとして成功する――そんな次代の担い手が近い将来出てくる気がしてならない。自慢じゃないけどこっちは東京03を擦り切れるまで見ているんだから、それぐらいわかるよ。まあ、大したことじゃないけどな。誰もが思っていることだし。でも、本当にその時が来たら俺もまんざらじゃ…(以下、自己泥酔へ)。

 

「東京03第19回単独公演『自己泥酔』」

★東京・草月ホール
5月28日(日)
1回目12:30開場/13:00開演
2回目16:30開場/17:00開演
★愛知・名古屋市芸術創造センター
6月9日(金)18:00開場/18:30開演
6月10日(土)
1回目13:30開場/14:00開演 
2回目18:00開場/18:30開演
★長野・ホクト文化ホール中ホール
7月6日(木)18:00開場/18:30開演
★富山教育文化会館
7月7日(金)18:00開場/18:30開演
★大阪・サンケイホールブリーゼ
7月13日(木)18:30開場/19:00開演
7月14日(金)18:30開場/19:00開演
★静岡・浜松市福祉交流センター
8月19日(土)18:00開場/18:30開演
★北海道・道新ホール
9月1日(金)18:00開場/18:30開演
9月2日(土)13:00開場/13:30開演
★広島JMSアステールプラザ中ホール
9月9日(土)17:00開場/17:30開演
★岡山・おかやま未来ホール
9月10日(日)17:00開場/17:30開演

★東京・恵比寿ザ・ガーデンホール

9月22日(金)18:00開場 18:30開演
9月23日(土)

1回目13:00開場/13:30開演

2回目18:00開場/18:30開演
9月24日(日)

1回目12:00開場/12:30開演

2回目17:00開場/17:30開演
〔チケット料金〕
草月ホール公演:全席指定6000円(税込)
地方公演:全席指定5400円(税込)
恵比寿ザ・ガーデンホール公演:全席指定6500円(税込)

※未就学児入場不可
〔発売場所〕イープラス
〔INFOMATION〕http://www.p-jinriki.com/talent/tokyo03/

 

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