DDT史上もっとも恵まれているDNAに課せられたもっとも高いハードル | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

1月9日、DDTの若手ブランド「DNA」第2回興行が新宿FACEにておこなわれた。11月のお披露目大会では誰もが唸らされるほどのインパクトを残した若者たちが、早くも他団体勢との試合が組まれる図式。それ以前に、DDTの主力勢が一切出場しないにもかかわらず、前回の北沢タウンホールよりキャパシティーの広いFACEということで、どれほど集客できるかがまず注目されたが、322人(満員)と健闘と言える入り。これは前回より28人のプラスとなる。

やはり、足を運んだファンはDDT本体とはまったく違うリングとの認識で来ているのだろう。第1回の噂を聞きつけた層もいると思われるが、比率的にはタウンホールで「次も見にいきたくなった」オーディエンスの方が多かったと見受けられる。このあたりは、高木三四郎が言っていた「新人扱いするのではなく商品という意識で始めた」に沿ったものを、スタートで見せた証明にもなっている。

北沢大会の時に週プロモバイル連載コラム「週モバ野郎NOW」でも書いたが、DNAは計算され尽くした育成プロジェクトのもと成り立っている。プロレスの技術やサイコロジーを教えるコーチを1人立て、それ以外の言うことは聞く必要がないと徹底させた。これは、別々のプロレス観を持った先輩たちのアドバイス通りにしたら、どれが正しいのかわからなくなってしまう。そのコーチに関しては明かされていないが、ディック東郷の教えを受け継ぎ、かつわかりやすく理論立てて教えられる選手に任せた。

肉体作りは「ボディプラント」の足立光氏指導によるもので、コスチュームや入場テーマ曲のチョイスもそれ専属の先輩がつき、本人の希望を踏まえつつコーディネート。その筋のスペシャリストがプロデューサー的ポジションを担って商品となるまで磨きあげた。

DNAとして発進したあとに公開されたがZERO1、スターダムとシェアされる形での道場も確保されており「3、4年前と比べたら練習環境はアップしている。優れた団体にするには、優れた人材が入ってきやすい環境を作らなければならない。僕らはプロフェッショナルな人間が集まっていて、入ってきやすい環境を作ってきた。自由な環境、自由な社風だから(下地のある人材が)集まるべくして集まったと思っています」と高木は語る。

こうした環境のもとで育てられた選手たちは、自分の価値観とセンスでプロレスを表現していた。つまり、新人に見られがちな“抑えつけられた感”がない。樋口和貞が強烈な印象として残ったのは、肉体やセンスもさることながら自由にできる土壌があってのものだった。それだけに、キャリアでは上の他団体勢と肌を合わせても持ち味を発揮できるか…勝敗とは別次元で注目された。

結果的には、第1回と同じとまではいかなかった。技術や経験以前にこの日、DNA勢と対戦した“エネミー”たちはみなそれぞれの世界を持っていた。こればかりは、デビュー数戦の彼らには培われていないものだった。

メインで宮武俊の相手を務めた葛西純や、冷たい凄みをまとう鈴木秀樹の存在感はもちろん、世代的にはそれほど変わらない黒潮“イケメン”二郎でさえも「以前に某団体で一緒に練習した」過去を明かした上で試合に臨んだ河村知哉を、イケメンワールドへ引きずり込んだ。第2試合で沖縄つながりにある鈴木大に見せた翔太の理にかなったトラディショナルレスリングも、目を見張った。


▲宮武を手玉にとるだけでなく、ちょっとしたひとことで場内の空気を自分の世界に変えてしまう葛西


▲パールハーバー・スプラッシュで勝利をあげたあとマイクを取った葛西は「俺っちと組んでデスマッチやろうじゃねえか」と呼びかける。この上ない賛辞だったが、宮武は「今日、葛西さんと闘って足元にも立っていないことがわかりました。なので僕がDNAでトップを獲って、葛西さんともっともっと熱い試合ができるようになったら、その時はやりましょう。それまで待っててください!」と回答。これに関しては「せっかくのチャンスだし、試練に足を踏み入れるべきだった」と「まだ基礎もできていないうちにデスマッチをやるべきではないからこれでいい」の両方の意見が出るところだろう


▲正面から向かっていってもまったく微動だにしない鈴木秀樹。逆に中津良太は一発の打撃で悶絶させられる。最後も高々と掲げてのワンハンド・バックブリーカーで中津をピンフォール。通常だったらつなぎに使われるような技でもキッチリと決めれば3カウントが奪えることを、中津は身を持って学んだ


▲WRESTLE-1ではお馴染みの入場シーンも、まったく接点がなかったDDT系の会場だとかなり新鮮だった模様で、その時点でイケメンはオーディエンスの心をつかんでいた。序盤、河村にリストロックを決められながらオーバージェスチャーを見せることで、やられている方が攻める方よりも目を引きつける。同じアメリカンスタイルでも、イケメンはリック・フレアーよりダスティ・ローデスをほうふつとさせる


▲ガッツワールド10・12後楽園ホールで自分がTAJIRIにされたように、翔太は鈴木大を相手に理詰めのレスリングでほんろう。本当に、一本の線ですべてがつながっているようなムダのない攻め…この中に入ると安定感が際立っていた

たとえ自由にできる土壌だからといって、はいそうですかと相手がそれを許すはずなどない。プロレスは、れっきとした勝負の世界。ピンフォールやギブアップをどちらが奪うかだけでなく、そうした競い合いも含有されている。第1回はDNA同士のカードが並んだから、比較的持ち味を発揮しやすかった。だが、ひとたび海千山千の相手となったらうまくいかなくて当然なのだ。

そんな中、唯一キャリア組を相手に飲まれなかったのは、やはりというべきか樋口。中嶋勝彦&北宮光洋を相手に正面から向かいつつ、体格的では劣るため捕まる場面が多かった勝俣瞬馬が粘り、タッチを受けるや中嶋の打撃を恐れることなくガンガン前へと出ていった。


▲中嶋との力比べで渡り合う樋口。相撲で培った地力と物怖じしない性格が格上の相手と対戦することで際立った


▲この日もサク裂したド迫力のドロップキック。キャリアで上になる北宮を豪快に吹っ飛ばした

試合後に中嶋がマイクで口にしたが、樋口とはキャリアこそ大きな差があるが年は同じということもあり(学年は3月生まれの中嶋が1つ上)その存在はハッキリと刻まれたはず。もっと経験を積んでからの再会を楽しみにしたい。

全体的に“うまくいかないこと”を経験したのは、もしかすると勝利よりも有益なものとしてDNA勢の中へ残ったのかもしれない。「試練だと思うから、試練になっちゃうんだよ。てめえら今日、心の底から(相手を)ぶっ飛ばせたか!? こんなのは試練のうちに入らねえんだよ。いいか、これからも会社はおまえたちに試練を与え続ける。でもな、おまえたちはそれを試練と思うな! わかったか!!」


▲宮武はその場で次回DNA大会(2・5北沢タウンホール)にて宮本裕向との一騎打ちが組まれたことを告げられる。なお、この新宿大会の2日後に予定されていたDDT大阪2連戦のカードに入れられながら、宮武は葛西戦のダメージが大きく欠場することに。本人にとって無念だっただろうが、それほど葛西の攻撃が徹底していたことにもなる

メイン終了後、DNAの8人に召集をかけた高木は、そうゲキを飛ばした。DDT旗揚げ以来、DNAはもっとも恵まれた環境にあると同時に、どの時代の若手より高いハードルを課せられてもいる。HARASHIMAや飯伏幸太、竹下幸之介でさえ、デビュー時にこのようなことは言われていない。

だからこそ、これまでとはまったくカラーの違うドラマティック戦士となる可能性を彼らは秘めている。自分をさらけ出せば個性は伝えられるが、プロレスラーとしての世界観をまとうのは似ているようで違う。第2戦にして、DNAは早くも次なる段階へと足を踏み入れた。もう「新人なのに凄い」という評価は、彼らにとって意味をなさない。


▲最後は高木に締めを振られた宮武が音頭を取り「3、2、1、DNA!」で締めたが、直後に疲労困パイの表情であげた右腕を下ろした

DDTの文化系プロレス通信Vol.391――DNA1・9新宿FACE大会詳報