「私は貝になりたい」&「明日への遺言」 | 小野寺昭憲オフィシャルブログ - 破壊と創造の記録 -

「私は貝になりたい」&「明日への遺言」


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 先日、福澤克雄監督作品「私は貝になりたい」 を映画館で、そして本日、小泉堯史監督作品「明日への遺言」 をDVDで鑑賞しました。両方とも舞台が極東国際軍事裁判だという共通点があります。


 まずは「私は貝になりたい」ですが、こちらは今年で91歳になられる名脚本家・橋本忍先生が50年ぶりに同名脚本を改訂した話題作です。フランキー堺氏主演で1958年にドラマ化、翌1959年に映画化、時を隔てて所ジョージ氏主演で1994年にリメイク、そして2008年SMAP中居正広氏を主演に迎えて4度目の映像化になります。以下にYouTubeから発見した各作品ダイジェストを貼り付けてみました。


【1958年 ドラマ「私は貝になりたい」ダイジェスト 主演:フランキー堺】


【1994年 ドラマ「私は貝になりたい」ダイジェスト 主演:所ジョージ】



【2008年 映画「私は貝になりたい」予告編 主演:中居正広】



 フランキー堺氏、所ジョージ氏、中居正広氏と、三者三様の熱演でありますが、私はやはり10代の頃にリアルタイムで観て衝撃を受けた所ジョージ氏の演技が今でも忘れられません。飛び抜けてハンサムでもなく、また群を抜いて芝居が上手いわけでもありません。ただ滲み出る悲愴感が観客を画面に引きずり込みます。


 映像に関して云えば、当然のことながら時を経るに従って圧倒的にクオリティは上がっています。特に劇場で観た最新版などはその映像の美しさに感動すら覚えました。シークエンスの合間々々に日本の四季折々の風景が実に丁寧に織り込まれているのですが、特に断崖から臨む大海原の壮大な美しさは圧巻です。その美しさが逆に主人公・清水豊松の悲劇性を際立てているのかも知れません。


 そしてやはり奥行きのある壮麗な音楽は私の敬愛する久石譲氏であります。先日の記事 でもご紹介した映画「おくりびと」の音楽とは異なり、ピアノと弦楽器を主軸とした壮大なオーケストラが奏でる切ないワルツに心打たれます。



 そして「明日への遺言」ですが、こちらは舞台こそ戦犯裁判と同じくしていますが趣旨は全く異なります。戦後GHQ主導の公平を欠いた軍事裁判の中で、一貫して『米軍による無差別爆撃は国際法違反である』と主張し続けた日本軍の将校・岡田資中将を主人公に据え、部下を守り全責任を負う潔い軍人の姿を通して真実とは何かを訴えかける重厚なノンフィクション・ドラマです。

【映画「明日への遺言」特集】



 大自然の壮大な風景の数々が印象的な「私は貝になりたい」とは違い、「明日への遺言」はほとんど法廷内と巣鴨プリズン内のみで話が展開します。音楽も極力控えめで、まるでドキュメンタリーのように淡々と描かれる法廷の模様、臆することなく正論を陳述する岡田中将の人間性、そして弁護側と検事側の対峙。そこに中将の家族や部下たちとの心温まる交流が差し込まれると、観客はいつしか劇中の登場人物らと共に岡田中将の人間的魅力に引き込まれていくのです。中将を演じた主演の藤田まこと氏を始め、いつもお世話になっている俳優の小野孝弘 氏も素晴らしい仕事をされてらっしゃいました。


 内容を政治的な観点から見ると私も岡田中将の持論に大賛成であり、そもそも裁判自体が戦勝国の報復目的に開かれた“勝てば官軍”の茶番であり、パール判事以外の判決は不当だと考えます。いったい何故に米国は国際法違反の無差別爆撃と原爆による大量殺戮の罪を裁かれないでいるのか今も納得できません。そもそも南京大虐殺も──おっと、大人の事情でここらでストップです。


 制作者サイドをよくよく見ると、例えば「私は貝になりたい」の橋本先生は黒澤映画の脚本で名を馳せたお方であり、対する「明日への遺言」の小泉監督は黒澤監督の助監督を28年間務めていた方です。また両作とも黒澤監督のご息女・黒澤和子氏が衣装を担当されており、今の世においても黒澤天皇の遺伝子が脈々と受け継がれていることを感じさせてくれます。ちなみに我が監督作「room」(永井正夫賞受賞 )に審査員賞を授けて下さった永井正夫氏がプロデューサーを務めてらっしゃいます。


 さて、一方は戦犯裁判に翻弄された清水二等兵の悲愴な姿を、また一方は理不尽且つ不公平な戦犯裁判に敢然と立ち向かった岡田中将の最期の姿を、それぞれ別の視点から描いた2作品でありましたが、両作とも実に良質な日本映画でありました。大東亜戦争終結後、上に立っていた者の責務と下にいた者の悲劇を対照的に観るには参考書のような映画です。是非ご覧になって頂ければと思います。